24:予定が狂うと、慌てるよねって話
なぜか、そのブレス攻撃は一度目と比べると、遙かに威力が小さかった。
これは土壁を出した俺にしか理解出来ないことだったろう。
見た目だけは、最初と変わらなかった。
派手なブレスは土壁で反射され、自らの身体を焼いたように見えただろう。
だからレイドックは迷わず、攻撃の号令を掛けた。
様々な魔法や爆弾矢が放たれた瞬間、ブレスがピタリと止まり、ドラゴンは咆哮した。
それは今までの怒りとは明確に違う、意志を持った叫びだった。
ドラゴンの枯れた樹木のような枝分かれした角が、強い光を発した。
何かの攻撃かと思い、思わず身を固くしたが、特に何も起きなかった。
「……あれ?」
レンジャーのソラルとジタローがぱちくりと目を瞬かせる。
疑問に思ったのは二人だけでは無い。
静かすぎたのだ。
「……爆発は?」
目の前に聳え立つ巨大な土壁で、ドラゴンの様子をうかがうことは出来ないのだが、ここまで何度も同じタイミングで響き渡っていた爆発音が、ただの一つも起きていないのだ。
それだけではない。今回から、魔法攻撃も解禁されたのだ。こんな静かに終わるはずが無い。
「ま! 魔法がかき消えたぞ!?」
「爆弾矢が爆発せずに燃えちまった!」
左右に広がる攻撃部隊の悲鳴で、ようやく状況を把握した。
「なんだと!?」
レイドックの叫びと、ドラゴンの前足によって土壁が砕かれるのは同時だった。
「先ほどの咆哮か!? 何かの防御的魔法効果があるというのか!?」
「可能性は高い! どうするレイドック!?」
「流石に未知数過ぎる! 一時撤退……」
その時、ドラゴンが、突然方向転換した。
それまで俺達を踏みつぶすべく、ゆっくりと前進していたドラゴンがだ。
方向転換といっても、角度を変えるという動きでは無い。
その場で、身体を軸に、九〇度向きを変えたのだ。
それまでのとろくさい動きからは信じられない早さだった。
「な!?」
「まずい!」
ドラゴンは右翼を正面に、くるりと回転するように向きを変更すると、その四肢を踏ん張ったのだ。
ドラゴンの牙の間から、凶悪に青白い炎が漏れる。大きく息を吸い込むと、全てを燃やし尽くすブレスが仲間達に走る。
「くそぉ!!!! 届けええええぇぇぇ!! ”万里土城壁”!!!」
俺は右翼側に全力走りながら、杖を突き出した。
ギリギリで、ブレスを土壁で遮ることに成功したが、わずかにブレスの出始めが右翼に届いてしまったらしい、たったそれだけで、前衛の大半は焼け焦げていた。
無事な人間がヒールポーションをぶっ掛け、怪我人達はすぐに立ち上がったが、その表情は恐怖に塗りつぶされていた。
ドラゴンがグルルと唸り、俺に視線を向けた。
「クラフト!」
第一部隊と右翼の部隊から、俺を守ろうと防御に長けた戦士たちが飛び出してきた。
だが、ドラゴンの行動はその上をいった。
先ほどのように、素早くその場で方向転換したのだ。
今度は左翼に向かって。
「っ!!!! ベップ! 加速支援を寄越せ!」
「え? は、はい! ”増速付与”!」
俺は魔法で速度を増し、そのまま全力で左翼に向かって走る。
俺に向かって走っていたレイドックとすれ違う。
「指示を!」
「くっ! 負傷者が多すぎる! 今撤退したら……」
「なら戦うしかない!」
急ブレーキを掛けたレイドックが、俺の横を併走する。
ドラゴンが、四肢を踏ん張り始めた。
距離が!
「クソがっ!」
間に合わない?
ふざけるな! 絶対に……絶対に助ける!
訓練の途中、あいつらに言われたのだ。頼りにしてると。
俺は死んでも応えなければならない!
「レイドック! 突進技で俺を押せ!」
「何だと!?」
「時間が無い!」
「ええいクソ! ”身突轟弾”!」
「ぐほっ!?」
背中に、身体を弾丸としたレイドックが肩から突っ込んでくる。
想像以上の威力に、一瞬気が遠くなりそうだった。
だが。
「……っ! ”万里土城壁”!」
吹っ飛ばされ、一回転しつつも、起き上がると同時に、俺は土壁の魔法を放った。
ドラゴンの頭を包むような器用な事は出来ない、ただ、その場から真っ直ぐに土壁を置くのが精一杯だった。
だが、ギリギリで、ドラゴンのブレスは左翼を直撃することは無かった。
しかし、右翼と同じように、わずかに届いた熱風によって、被害が拡大していた。
「右翼! 怯むな! 攻撃開始!」
「このトカゲ野郎がぁ!」
「ぶち殺してやる!」
なんとか立て直した右翼の攻撃陣が、歯を食いしばりながら爆弾矢を放った。
左翼が参加していないが、これで動きを止められれば勝機はある!
その時、ドラゴンがまたもや意志ある咆哮をあげた。
それに呼応するように呪われた樹木のような角が輝いたのだ。
今度は見た。
爆弾矢がドラゴンの身体に届く前に、小さく燃え上がって消滅するのを。
攻撃魔法が、かき消えるのを。
「で……デタラメだ!!!」
思わず、叫んでしまった。
余りにも理不尽過ぎる!
「クラフト! あれはなんなんだ!?」
「恐らく! 魔法の無効化だ! 魔力爆弾は魔石を暴走させる魔法攻撃の一種だからな!」
「魔法無効化だとぉ!?」
ハッキリ行って反則過ぎる。
ドラゴンの名は伊達では無かったのだ。
しかし、今から撤退するとなれば、誰かが犠牲にならなければならないが、当初の予定を実行するにしても、左右が引き切る前に、どちらかが落ちかねない。
「クラフト! 弱点はないのか!?」
「ペルシア!? おそらく……あの角を落とせれば、魔法無効化は使えなくなると思うが……」
それは今までの冒険者としての勘だ。
魔物のもつ特殊能力が発動するとき、その根源たる器官が発光するのは良くあることだった。
だが……。
「確実で無い上に、魔法が効かないんだぞ! どうするっていうんだ!?」
「はっ! 魔法が効かぬのなら叩っ切れば良いでは無いか!」
「簡単に言うな!」
「私が……このペルシア・フォーマルハウトがやってみせよう!」
「やってみせるって……」
「クラフト! 奴の頭を地面に落とせ!」
「なんだって!?」
確かに、奴の頭を地面に叩きつけるような魔法はいくつか使える。
だが、その魔法が無効化されるのだ!
その時、ジタローが放ったミスリル矢がドラゴンの胴体に刺さったのが見えた。
物理なら……届く?
「それなら出来る……だが、それは……」
「クラフト! 方法があるなら言え! このままじゃジリ貧だ!」
今度はレイドックが叫んでいた。
方法はある。しかし、それは……。
「犠牲は初めから覚悟の上! あやつを倒せるなら本望だろう!」
「くっ……! ブレスを……ブレスを一発で良い! 耐え抜いてくれ!」
「承知!」
「みんな聞け! 今から博打を張る! 一撃で良い! ブレスを……各々の力で耐え抜け!」
「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」
俺はマナポーションとヒールポーションをがぶ飲みし、魔力をかき集める。
ドラゴンがそれに呼応するように、身体の向きをこちらに向けたのだ。
「畜生! このトカゲ野郎! こっちを向きやがれ!」
「なんでもいい! 挑発して!」
俺が何かをやるとすぐに理解したのだろう、左右の部隊がドラゴンの注意を引こうと、ありったけの技や矢を射かけ、罵声を飛ばして挑発する。
中には石を投げる者すらいた。
だが、ドラゴンは中央。つまり俺のいる第一部隊に向かってその顎を大きく開いたのだ。
俺は……。
仲間を信じてただただ魔力をかき集める決断を下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます