20:信頼関係を築ければ、頼れるって話
「これを混ぜたら良いんだね?」
「ああ。頼む」
錬金釜を作るのに必要なのはミスリル、鉄、銅、それに別途錬金術で作った、錬金釜作製用の特別なオイルだ。これを合金作成時に混ぜ込むことが必要らしい。
錬金術師の紋章が教えてくれる知識だと、合金の割合や、混ぜる錬金薬の量はわかるが、釜を鍛造する技術は無い。
必要な釜の大きさを伝えると、なぜかリーファンは巨大な粘土を積み上げたのだ。
「違うよクラフト君。今からやるのは鋳造だよ」
「……違いがよくわからん」
「鍛造は、ハンマーとかで打ち付けて作る事。鋳造は今やってるみたいに、土や粘土で型を作って流し込んで作る事って覚えておけば良いよ」
「なるほどな」
「金属の扱いだと、ドワーフの方が鍛造が得意で、鋳造は
「へえ」
リーファンに錬金釜の作製を依頼すると、どこからともなく良質の粘土を持ってきて、工房に身の丈ほどの巨大な型を作ったのだ。
この型に溶けた金属を流し込んで作るらしい。勉強になるな。
「うん。こんなものかな。装飾は自由なんだよね?」
「ああ、基本的に、釜でさえあれば大丈夫のはずだ」
「腕が鳴るね!」
職人にとって、装飾というのは、腕の見せ所である。
よほど依頼者から頼まれない限り、美しい装飾を施すのは、職人の本能と言っても過言では無い。
この錬金釜も、どんな飾り付けになるか楽しみだった。
◆
それから数日後。
「完成したよ! クラフト君!」
「おお」
粘土を崩して固まった釜を取り出すときには、俺だけ追い出されて見られなかったんだよな。
完成するまでお預けらしい。
ワクワクしながら作業場に行くと、大人が二人ほど収まりそうな巨大な金属釜が鎮座していた。
ミスリルメインなのだが、グリーンではなく、どちらかというと紫寄りの深い色味だった。
装飾は見事で、これだけでも工芸品として一級品であることを思わせる。
リーファンの気合いが感じられる逸品だった。
「どうかな?」
「これは……想像以上に素晴らしい。芸術なんててんでわからない俺だが、これが素晴らしい物なのは一目でわかるぞ。ありがとうリーファン」
「へへへ。必要だから作っただけだよ」
なんというか、これだけでも、ミスリルを取りに行った甲斐があったな。
リーファンの頑張りは、俺の能力が認められているという証拠だろう。
今まで努力が報われたことは無かった。
だから。
「頑張らないとな」
拡張されたギルド館の錬金部屋。
その中央に鎮座する、芸術を感じる錬金釜。
長い付き合いになりそうだ。
そっと、錬金釜に手を触れた時だった。
あwろgwhtgうぇりおがwせ:rlj;gはえおれさえりじぇいいえl;;!?
「!!?」
唐突に、紋章を通して知識が流れ込んできたのだ。
「クラフト君?」
「い、いや、釜に触れたら、なぜか一気に錬金釜関連の知識が……」
「ああ、あれかぁ」
「何か知ってるのか?」
「うん。始めて特製の金床を作ったときに、同じ様なことがあったんだ」
「へえ」
魔術師の紋章だった時はそんな事は無かった。
物を作る、クラフト系紋章特有の現象なのかもしれない。
……単純に相性の悪い紋章だったからこの現象が発生しなかった可能性も高いけどな。
「錬金釜で新しく作れる物で、グッドタイミンの品がありそうだぞ」
「なになに?」
「ミスリル特化のハードフォージングオイルだ」
「え!? 何それ!? 凄そう!!」
硬ミスリルというらしい。
こうして。
早速硬ミスリルを使った製品をリーファンに作ってもらうことになった。
なお、硬ミスリルの金床とハンマーが完成したことで、リーファンが作れる製品の幅も広がったらしく、随分とはしゃいでいた。
うん。錬金術師になって良かった。
◆
「す……すげぇ……なんだあの装備! ミスリル……なのか?」
「お前達のパーティーはこの村に来たばっかりか」
「ああ、酒を奢るから、少し話を聞かせてくれよ。随分と景気が良いって話を聞いてきたんだが」
「景気? そりゃ間違い無いぜ。魔物退治にしても、土木関係にしても、仕事に困らんだけじゃない。この村である程度功績をあげると、責任者のお貴族様から特別にミスリル装備の購買権が与えられるんだよ」
「マジか! ……憧れるけど、流石に手がでないよなぁ……ミスリル」
「ナイフなんかの比較的お手軽な武器もあるぞ」
「それらなら、半年ぐらい頑張れば買えるかな?」
「しかもな、この村のミスリルって、普通のミスリルより遙かに品質が良いんだよ」
「なんだって?」
「リーファンっていう腕の良い鍛冶師と、クラフトっていう錬金術師が組んでるらしくてよ、なんと販売品の大半が”極上”品質なんだぞ。ポーションに至っては”伝説”だ」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
「マジマジ。しかも、村の仕事を受ける冒険者には、”普通”品質よりちょっと高い程度の価格で冒険者ギルドが販売してくれる」
「ほんとかよ!? ちょっと信じられないんだけどよ!?」
「俺だって最初はそうさ。だがこの村に数日いればすぐわかるって。ちなみにこの村で家を買うと、朝飯と昼飯の炊き出しを受けられるようになるんだが……伝説のスタミナポーション入りだぞ」
「嘘……だろ?」
「これが本当だからとんでもない」
「やべぇ……ゴールデンドーン村やべぇ……」
「それで、お前が見ていたのがこの村一番のパーティーだ。あの剣士がリーダーのレイドック。あとで挨拶しておくといいぞ」
「そうするよ」
「ミスリル装備も、最近の相場からするとかなりお得なんだ。質を考えたらちょっと信じられんほどだな」
「転売する奴もいるんじゃないか?」
「貴族様の許可を得るときに、その辺を禁止されるらしいぞ」
「そりゃそうか」
「村への貢献度が高いと、購入許可がもらえるんだ。俺もそろそろ許可が下りそうなんだよな」
「へえ。そりゃめでたいな」
「ああ。今、仲間と一緒に全力で金を貯めてるところだ。仕事はいくらでもあるからな」
「よし、俺達もしばらくこの村で気合い入れるか!」
「おう。よろしくな。またなんかわからないことがあったら聞いてくれ」
「こちらこそ頼むよ」
冒険者ギルドや、酒場では、日々この様な会話が繰り広げられている。
レイドック達は武具を硬ミスリル装備に替え、それが宣伝となって冒険者がさらに集まってくる。
この村を当面の拠点と決めるパーティーが増え、確実に戦力は増強されていった。
そしてある日、レイドックにある仕事を依頼することにした。
「それで? 改まって何の仕事だ?」
「内容は調査依頼だ」
「調査ね。結構な依頼料を提示されてる。普通の調査じゃないんだろ?」
「ああ。探ってもらうのはこの辺り」
冒険者ギルドから借りてきた、簡易地図を広げ、指を置いた地点を見て、レイドックの片眉が持ち上がる。
「なるほど、結構な危険地帯だな」
「ああ。これを頼めるのはお前たちしかいない」
「で、何を調査すれば良いんだ?」
「こういう薬草を探してきて欲しい」
生産ギルドの資料から、その花のイラストを見せる。
「アンブロシアの花……伝説の薬草だな」
「そうだ。そしてこれが生息する場所には……ドラゴンがいる」
「……」
「戦う必要は無い。薬草が実在しているかを確認してきてくれ」
「それが出来るなら、少しくらい採取してこれると思うが?」
「サンプルが手に入るなら最高だな。ただ、結構な量が必要になるんだ。魔物の目を盗んで取ってこれる量ではちょっとな」
「なるほど。理解した」
「受けてくれるか?」
「もちろんだ」
硬く握手を交わす。
こうして、大作戦の為に、俺達は動き始めるのだった。
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