17:欲しい物は、取りに行けばいいって話
開拓が始まり半年くらいか経った。
「そろそろか……頃合いか」
レイドックの冒険者パーティーを筆頭に、現在一〇〜二〇パーティーくらいが常駐するようになっていた。
魔石の流通も順調だ。
冒険者ギルドが規定料金で買い取り、それを契約通りの価格で生産ギルドへと販売。
ゴールデンドーン村のプール金から、魔石代に当て、それを俺やリーファンが生産品へと加工する。
現在、村の外に流れるポーションの量はかなり抑えている。
噂では早速プレミアがついているらしい。
基本的には村の住人か、村で活躍する冒険者に優先して配布か販売をしている。
冒険者が様々な魔物の素材を仕入れてきてくれるおかげで、予定していた新アイテムも完成していた。
「リーファン。ちょっといいか?」
「うん。なにかな?」
「前から鉱石の調査と採取に行きたいって言ってたよな? そろそろ良い頃だと思うんだが」
「あー、そうだよね。鉄鉱石の値段も上がってるし……」
「この村に運び込む商人がごうつくばりばかりだからな」
「それはしょうが無いよ。開拓村まで来てくれる商人さん自体が少ないんだから」
「ま、その辺は近いうちに商業ギルド辺りを呼び出して相談すればいい」
「うん」
「それより、鉱石だ。鉄と銅だけでなく、可能ならミスリルやアダマンタイトを手に入れたい」
「そりゃ、欲しくない人はいないよ」
「それで、生産ギルドから預かっている、このあたりの資源分布図だ」
「うん」
「このなかで、ここ」
テーブルに広げた地図の一点を指す。
森を抜けた山脈の麓だ。
それをみて、リーファンが眉を顰める。
「希少金属の可能性が一番高い場所だ」
「言うまでも無いと思うけど、どうしてその場所に人の手が入ってないか説明する?」
「まずこの魔物だらけの森を抜けなければならないこと。現地の地質が非常に硬く、採掘に時間が掛かると予想されること」
「うん。……あ、だから冒険者ギルドなんだね」
「そういう事だ。護衛に関しては、冒険者ギルドに依頼。村のプール金から依頼料を出せば良いだろう?」
「うん。大丈夫!」
「それで、鉱石の事だからな、リーファンには来て欲しい」
「もちろんだけど……もう一つの問題は……あ、そうか! ハードフォージングオイルとシャープネスオイル!!」
「そういう事だ。ツルハシは全てハードフォージングした鉄で作製してもらって。もちろんシャープネスもたっぷり塗っておけばどうだ?」
「うん! いけると思う!」
「それだけじゃなく、もう一つ用意した物もあるしな」
「……クラフト君? 隠し事は無しだよ?」
「ああ、分かってるんだが……まだテストしてなくてな。現地でテストがてらお披露目させてくれ」
「なんとなく嫌な予感がするよ」
「失敬な」
錬金術でも、結構作るのが大変だったんだからな。
◆
「クラフト、指名依頼ありがとうな」
「今、常駐しているパーティーで一番優秀なのを選んだだけさ」
「依頼料は安いが、ヒールポーションとキュアポーション。それにシャープネスオイルを報酬に出すと言われたら、他にどんな依頼を放棄してでもやってくるさ」
「はは。今は固定依頼はほとんどせず、魔物討伐と魔石で儲けてるだろうが」
「バレバレか」
「当たり前だっつーの」
拳と拳をぶつけ合う俺とレイドック。
「それで、護衛対象は?」
「俺とリーファン。それにジタローだ」
何故か知らないが、やたら来たがったので一緒に行ってもらうことした。
「……山賊か?」
「言っちゃったよ」
「ええ!? 冒険者の兄さん、そりゃ無いですぜ!」
「ごめんジタローさん。わざとだと思ってたんだけど」
「えええ!?」
自覚なかったんかよ!
「はは、冗談だ。村の訓練施設で弓を使ってるのを見かけたことがある。あんたなら大丈夫だろ」
「びっくりさせないでくだせいよ。俺の一張羅なんすから」
「簡単に自己紹介しておこう。俺はレイドック。パーティーのリーダーをやっている。剣士の紋章持ちだ。それであの目つきの悪い女が——」
「死にたいのかしら? リーダー?」
「と、このようにとてもきつい女だ。レンジャーの紋章持ちでソラルだ」
「よろしく」
「久しぶりだなソラル。村で時々顔は見ていたが」
「忙しくて話す機会はあまりなかったものね。会えて嬉しいわ」
「お前なら頼りになる。頼んだぜ」
「ええ」
昔パーティーを組んでいたソラルだ。
実は少し惚れていた時期があったが、ソラルがレイドックを好きなのは見てわかっていたので、秘めた片思いで終わった。
「そっちのひょろいやつが神官の紋章持ちでベップ」
「お久しぶりです、クラフトさん」
「ああ、元気そうで何よりだ」
白っぽい神官系の防具を身に纏った、少し痩せた男が頭を下げる。
ベップもパーティーで一緒だったメンバーだ。
貴重な神官の紋章持ちだが、家庭の事情で冒険者になった変わり者だ。性格は神官らしく慈悲深い。
「そんでそっちの色黒が魔術師のバーダック。紋章は無いが、それなりの使い手だ。うちのブレインでもある」
「よろしく頼む」
「ああ」
こいつは俺がパーティーを出て行ってからのメンバーだろう。初見だった。色黒で細身だがしっかりとした肉付きだ。
紋章が無いのに魔法を使えるのか。
一体どれだけの苦労があったか想像も出来んな。
もっとも、相性が悪い紋章を刻まれているよりかは、魔法の習得は楽だと思うが。
「そんで、奥のでかい奴が戦士のモーダ。紋章は無いが筋力が人並み外れてるから、なかなかの実力だぞ。物静かな奴であんまり喋らないのが欠点っちゃー欠点か」
「……」
「お、おうよろしく」
無言で握手を求めれたので、ごっつい手を握り返した。
なるほど。紋章無しだとあまり技には期待できないが、純粋に筋肉で押し切るパワーファイターなのだろう。
こいつも初見だった。
「荷物があったら遠慮なく言ってくれ。いくらでも空間収納出来るからな」
「本当に、変わったんだなクラフト」
「ああ。紋章が刻まれただけで安心しちゃいけないって事だな」
「俺も今度相性を見てもらうかね?」
「レイドックはばっちりだと思うぞ?」
「はは。俺もそう思う。さて、そろそろ行こうか。道案内は……」
「私がやるよ!」
「リーファンさんよろしく頼む。よし! 出立だ!」
「「「おお!!!」」」
こうして俺達は森に足を踏み入れた。
◆
深く、日当たりの悪い森の中を進んでいく俺達。
途中、ゴブリンやオーク。ジャイアントスパイダーなんかとかち合うが、ことごとくレイドックのパーティーが処理していく。
鮮やかな連携だった。
「魔石や素材は、慣例通り俺達がもらうが問題ないな?」
「うん。もちろんだよ」
護衛の冒険者が倒した魔物の権利は冒険者の物だ。報酬の少ない彼らからそれを取り上げたら戦争になる。
ただ、ごうつくばりの商人などが、権利を主張することが多々あるので、念のための確認だろう。
この村の冒険者ギルドに買い取られた魔石を売ってもらえるので、魔石や素材はそれで十分だ。
「うーん。スタミナポーション飲み放題だから、滅茶苦茶楽だな」
「ええ。やっぱり技が撃ち放題になるのは最高よね」
「魔法も撃ち放題になれば、もっと援護出来るんだがな」
魔術師のバーダックが零したのを聞いて、それならと小瓶を取り出す。
「なら、ベップとバーダックにはこれを渡しておこう」
「それは?」
「マナポーション。魔力薬って奴だな」
「なに!?」
バーダックが驚くのは当たり前だ。
マナポーションはかなり高額なのだ。
「流石に量は渡せないから、いざという時用だけどな」
「いいのか? もらっても」
「ああ。その分活躍してくれ」
「約束する」
神官と魔術師は魔力が生命線だ。いざという時用に渡しておいても良いだろう。
作製に魔石を大量に必要とするので、あまり量が作れないので、市場に出していない。
もっとも品質は相変わらず”伝説”なので、効果は折り紙付きだ。
「これがあればサイクロプス級の魔物が出ても倒せそうだ」
変なフラグ立てるのやめてくれる?
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