16:育てたもんが大きくなるって、満足感あるよなって話


 開拓村は急速に発展していった。

 理由はいくつかあるが、最大の理由はやはり冒険者ギルドだった。


 もともと魔物が頻発する土地だ。

 少し実力のある冒険者パーティーにはちょうど良い狩り場となるのだ。

 どうしてそれまで放置されていたかと言えば、拠点が無く、長期に滞在するには危険すぎる土地だったからだ。


 それが、防衛柵によって守られた、それなりの規模の村が完成した事で、問題が解決する。

 それだけでは無い。


「シールラさん! スタミナポーション頼む!」

「こっちもだ!」

「ヒールポーションも売ってくれ!」

「はっ! はい!」


 魅惑の未亡人シールラ商店は今日も大繁盛だった。

 生産ギルドで生産した各種ポーションや武具を仕入れ、販売するだけなのだが、それらは飛ぶように売れた。


「俺はシャープネスオイルを頼む!」

「すっ、すみません! シャープネスオイルは売り切れです!」

「ぐはっ! お前ら買いすぎだろう!?」

「必要な分しか買ってねぇよ!」

「ちくしょう! 早く硬質化された剣が欲しいってのによ!」

「今日、ヒュドラ狩りに行くんだが、うちのパーティーと組まないか?」

「シャープネスオイルを少し分けてくれるならいいぜ」

「決まりだな」


 最近では毎朝繰り広げられている光景だった。

 さらに、宿屋の利用率は150%を超えていた。

 二人部屋に三人宿泊なんて当たり前の状態で、今日も噂を聞きつけた新たな冒険者パーティーが村にやって来ることだろう。

 現在急ピッチで宿の拡張を行っている。


 そしてその拡張を担当しているのが、新たに村へと移住した大工達だったりする。

 木こりや狩人も増え、とうとう村にはそれらの人間を狙った串焼き屋など、生きるだけでは無い、楽しみや美味を取り扱う店も増えてきたのだ。


 もちろん、それに伴って行商人の出入りも増えてきた。

 生活必需品だけでなく嗜好品、例えば酒などのやり取りも増え、人口も一気に増えいる。

 目下の困り事は住宅不足だ。

 現在は、開拓初期に使っていたテントを貸し出すことで、なんとか凌いでいる。

 だが、大工も増えたし、近いうちに解決するだろう。


 簡単に説明しておくと、開拓民には全員、雀の涙ではあるが給料が支払われている。

 それと別にしばらくは食と住居の保証もある。

 さらに、商売や狩りなどに関して、さまざまな免税特権が与えられていた。

 なので、彼らはすぐに現金収入を得る必要はないのだが、逆に言えば、今は準備期間なので今のうちに生活基盤を整えなければならない。


 そんな状況から、初期入植者達の職を確定していったのだが、現在おおまかに、解決済みだ。

 俺の最近の仕事は、権限を委譲された商業ギルド関連の仕事ばかりだった。


 なお、俺は結構な額を最初に受け取っている。

 冒険者ギルド最後の依頼となった、生産ギルドへの異動と開拓村への派遣費用だ。

 さらに、最近は生産ギルドへ卸すポーション類の一部金額も受け取っていた。その上で生産ギルドから給料ももらっている。


 もっとも使う場所が無くて貯まる一方だが。


「クラフトさん。ちょっと相談にのってもらえませんか?」


 最近忙しくあまり話をしていなかったカイルがやって来た。


「なんだ?」


 俺はカイルとマイナ。それにペルシアにお茶を煎れる。

 アルファードは村の見廻りだろう。


「はい。実はそろそろ村に名前をつけてくれと頼まれたのです」

「……今までなかったのか?」

「はい……」


 マジか。

 たしかに漠然と村とか開拓村とかしか呼んでなかったが、正式名称が無いとは思わなかった。


「今までこの地の入植はことごとく失敗していましたから、成功するようならお前が付ければ良いと父に言われていまして」

「ああ。なるほどな」


 連続して失敗していたら、そりゃその度に名前を考えるのも手間だろう。


「それで、何か良い名前のアイディアが無いかと相談に来ました」

「カイル村で良いんじゃ無いか?」

「アルファードやペルシアと同じ事を言わないでください」

「功績としてもわかりやすいと思うし、みんなお前に感謝してるから、むしろ喜ぶと思うぞ?」


 俺の言葉に、ペルシアがぶんぶんと首を縦に振る。


「この村は皆で開拓したものです。いえ、さらに人が増え、それら全員で作り上げていくのですから、僕の名は相応しくありません」

「相応しく無いとは思わんが、まぁ気に入らないなら別の名を考えよう」

「お願いします」

「といっても、元冒険者だぞ? そういうセンスは皆無なんだ。ペルシアは何か無いか?」

「私はカイル村以外の意見は無い」

「……なるほど」


 まぁこの堅物は役に立たなそうだ。


「そうだ。マイナは何かないか?」


 カイルの双子の妹マイナに声を掛けると、恥ずかしそうに俯いて、ボソリと呟いた。


「クラフ……村」

「ああ! それは良いですね!」

「却下だ、却下」


 なんで俺の名前なんだよ。

 せめてギルド長のリーファン村とかにしてくれ。


 俺が却下すると、マイナは少し頬を膨らませて、ぷいっと横を向いてしまった。

 どうしろと。


「なんだか、人の名前は避けた方が良さそうな流れだな」

「そう……ですね」


 ネタが尽きて頭を抱えていると、部屋にリーファンがやってきた。


「あ、カイル様いらっしゃい。クラフト君、なにかあったの?」

「いや、村の名前を考えていてな」


 それまでの経緯を含めて説明する。


「うーん。じゃあダスク村とかどう?」

「ダスク? 夕暮れって意味だったか」

「うん」

「なんか落ち目の村みたいだな。理由はあるのか?」

「一応ね」


 チラリと俺を……いや、俺の左手に浮かぶ紋章に目を移すリーファン。


「ほら、その紋章って黄金色に輝いてるし、黄昏の錬金術師っていう名前でしょ? この村を発達させたのはその紋章の力が大きいから、黄昏時って意味で夕暮れはどうかなって」

「ああ! なるほど!」

「ふむ。盲点だったな」

「いや!? 待て待て! おかしいだろ?」

「確かに悪くないが、やはり夕暮れというのは微妙な気もするな」

「だよな!?」

「ならば、朝焼け……いえ、夜明けの意味で、ドーンはどうですか?」

「それなら始まりの意味もあるね。開拓村にはピッタリだと思いますよ!」

「さすがカイル様です!」


 黄昏の紋章からの連想ゲームなので、一瞬反対しようと思ったが、夜明け、始まりというのは悪くないと思いなおす。


「ドーン村か……」

「カイル村以外を選べと言われるなら、私は賛成する」

「ブレないねお前さんも」


 あくまで一押しはカイル村らしい。個人的には同意するが、カイルが飲むわけが無い。


「僕は気に入りました! ドーン村! 良いと思います!」

「……ん」

「そうか、マイナも気に入ったんだね」


 妹の頭を撫でるカイル。マイナは恥ずかしそうにされるがままに身を任せていた。


「それでは決まりですね。この村の名はゴールデンドーン村です!!」

「おお!」

「ん?」

「良いですね!」


 おいちょっと待て、ゴールデンどっから出てきた?


「輝かしい感じがカイル様にお似合いかと!」

「いやいや、待て待て」

「カイル様はネーミングセンスもあるんですね!」

「ん」

「そんなに褒められると照れてしまいます」

「流石です!」

「おいこら、どっからゴールデン出てきたか、誰か突っ込めよ!」

「それでは、この名称で発表いたしますか?」

「うん。そうしよう」

「ガン無視かよお前ら!?」

「正規書類にまとめておきますね!」

「はい! お願いします!」


 こうして俺はいなかったかのように無視され、ゴールデンドーン村という名前に決定したのだった。


「だって……クラフトさんを表す名称にしたかったんです」

「なんか言ったか?」

「何でもありません!」

「朴念仁よねぇ」


 なんだろう?

 リーファンに不当な誹謗を受けている気がするのだが……。


「まったくだ」


 ペルシア! お前もか!


 なんであれ、ゴールデンドーン村の名は、瞬く間に近隣の町や村へと拡散していくのだった。


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