14:気遣いは、時と場合によるって話


「さて、大抵の病気を治す、伝説品質のキュアポーションが完成したわけだが、どうやってテストをしたものか」

「私が鑑定する限り、まったく問題は無いけど、テストもしないでカイル様に渡す訳にはいかないもんね」

「そうなんだよ。でも、この村の住民はみんな健康そのものでなぁ」

「スタミナポーションって、病気の予防効果もあるのかなぁ?」

「実際には栄養も補うから、病気になりにくいのは間違いないだろう」

「うーん。安全の確認だけでいいのかなぁ?」

「昨夜飲んでみたが、今のところ何の変化も無いな」


 リーファンとペルシアの活躍で、あっさりと湿原の薬草を手に入れたことで、キュアポーションを作成出来たが、いきなりカイルに飲ませるわけにもいかず、リーファンに相談しているときだった。

 ばんっ!

 仮生産ギルド本部の扉が音を立て、ペルシアが飛び込んできた。


「クラフト! ポーションが出来たんだって!?」

「ああ、ジタローに聞いたのか」


 朝食時、ポーションが完成したから、誰か病気になっていないかを、ジタローに尋ねたのだった。

 別段隠すことでも無いしな。


「ああ、物は出来たが、どうやって試すかを話し合ってるところだ」

「そ、そうか……確かに、それは重要だな」

「飲んで問題ないのは確認したんだけどな」

「それは、僕のためのポーションですか?」


 入り口から聞こえてきたのは、カイルの声だった。


「カイル様!」

「よう。おはようさん」

「はい。おはようございます。クラフトさん。リーファンさん」


 ペルシアの背後から、カイルがギルド館へと入ってくる。

 マイナとアルファードも一緒だった。


「やはり、新しいポーションというのは、僕のためだったんですね」

「カイル様……」

「あー。そうだな。ただ、どのみちキュアポーションは近いうちに作ろうと思っていたんだ」


 嘘では無い。

 ただ、カイルの為という比重がとても大きいだけの話だ。


「ありがとうございます。クラフトさん」


 どう反応されるか少し心配だったが、ゆっくりと頭を下げるカイルを見て、ほっとしてしまった。


「それでは、さっそくいただきますね」

「「カイル様!?」」


 ペルシアとアルファードが同時に顔を跳ね上げた。


「リーファンさん。このポーションに問題はありますか?」

「私の鑑定した限り、安全な物です。品質も折り紙付きです。ただ……」

「ならば全く問題ありません。僕はクラフトさんを信じてますから」

「いや! カイル様それは!」

「今までのポーションの効力から見て、不安がありますか?」

「それは……」

「効き過ぎるという点はありますが……」


 それは不安材料なのかよ!

 ペルシア昨日はさんざんスタミナポーションのおかげで暴れてただろ!

 ……あれ? やっぱり効き過ぎって問題あるか?

 いやいや、違うだろ。効果が高いのは良いことだ。


「俺が飲んだ限りだと、悪い影響はなさそうだ」

「なら安全ですね」


 カイルはニッコリと笑った後、躊躇無く置いてあったポーションを飲みくだした。


「「あっ!!」」


 カイルの笑顔で躊躇してしまった二人が、思わず声を上げる。


「ん……ああ。凄いです! 身体が一気に楽になっていきますよ!」

「おお!」

「良かった……本当に良かった!」

「カイル様おめでとうございます」

「はい! 皆様のおかげです!」

「……」


 拳を握りしめたり、その場でジャンプしてみせるカイルを俺はジッと見つめた。


「どうしたの? クラフト君?」

「クラフト?」


 リーファンとペルシアが、俺の様子に気付いて、顔を向けてきた。

 恐らく、俺の表情はかなり厳しくなっているのだろう。


「カイル……嘘はやめろ」

「……え?」


 明らかにギクリと態度に表し、こちらに無理矢理作った笑顔を向けた。

 アルファードとペルシアは、状況を一瞬で理解する。


「カイル様!? どういう事ですか!?」

「クラフト! ポーションは失敗だったのか!?」

「い、いえ! 本当に体調はとても良く……!」

「やめろ。それ以上は怒るぞ」

「もう怒ってるよね?」


 リーファンを無視して、俺はカイルの横に立つ。


「気を遣っているつもりだろうが、それは逆効果だ。本当の事を言え。それともこのポーションに嘘の効果を広めるつもりか? 最終的には村人にまで迷惑をかけるぞ」

「あ……」


 それで観念したのか、急速に肩を落とすカイル。


「カイル様それでは……」

「どういうことだ!? クラフト!」

「もともとキュアポーションでカイルが治るかは半々だと思っていたんだ」

「なに?」

「このキュアポーションで治るのは、病気……例えば風邪や破傷風。伝染病なんかだ」

「それに問題があるのか?」

「カイルの病気は生まれつきだと聞いた。基本的に病気っていうのは外からくるもんだ。初めから内にあったものにまで効くのかとな。疑問には思ってたんだ。それに今までも名医にみせたりはしていたんだろう?」

「あ……」


 ペルシアはそれで理解してくれたらしい。


「ではやはりカイル様はずっとこのままなのか!?」

「落ち着けペルシア!」

「それに関しては考えてることがあるが、少し時間をくれないか? カイル。スタミナポーションがあれば、しばらくは問題ないか?」

「はい! 今までと比べたら、とても調子が良いですから!」

「今度は嘘じゃ無いな?」

「もちろんです! もう、嘘は言いません!」

「よし。じゃあ今日は解散してくれ」

「……クラフト、すまなかった。少し取り乱した」

「気にしてない。当然の反応だろう? それよりカイルと村の安全を頼む」

「ああ! 任せろ!」


 皆がギルドの外に出たタイミングで、リーファンが正面に座った。


「まさか伝説級のキュアポーションが効かないとは思わなかったよ」

「俺達の中に、診療が出来る人間がいないからな。そもそも辺境伯が呼べる医者にすら原因不明なんだ。特殊な病気の可能性は高かった」

「あ、そうか」

「冒険者時代にな、神官の紋章持ちに少し聞いたことがあるんだ。治癒魔法は、生まれつきの病気にはほとんど効果が無いってな」

「そうだったんだ」

「あまり知られてないし、通常より効果の高いこのキュアポーションならもしかしてという思いがあってな」

「うん。それで、これからどうするの?」

「考えている事はある。だが、先に村の発展を優先させよう」

「そうね……スタミナポーションがあるから、カイル様の調子も悪くは無いみたいだし」

「言ってしまえば、恐ろしく良く効く栄養剤だからな。病気の症状は大きく抑えられると思う」

「うん。それで、村を発展させるって、何か考えがあるの?」

「冒険者ギルドの支部を勧誘する」

「え?」

「その為に必要な、村の防衛施設……この場合は柵だな。それと商店。もともと建設予定だったろう? あと宿屋だ。冒険者が長期滞在出来る安目の宿でいい」

「う、うん。でもなんで?」

「恐らくだが……最終的にかなりの戦力が必要になる」

「え? どういうこと?」

「実は、カイルの病気を確実に治せるポーションがある」

「え!?」

「ただ、その材料がちょいと特殊でな。それを採りにいくとなると、間違い無く魔物との戦闘になる」

「そうなんだ。それで、その魔物ってなんなの?」


 俺は、生産ギルドの書物を開いた。

 そのページは伝説級の素材が説明されているページだ。

 中でも、実際に存在が確認された、超貴重素材を指さす。


「こいつの自生地は主に」


 リーファンが文字を追って、ゴクリと唾を飲む。

 薬草が咲く横に描かれた、凶悪な生命体のイラスト。


「ドラゴンの生息地だ」

 

 こいつを手に入れるための準備に、俺は全力をかける。

 もう少し待っててくれ。カイル。


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