13:目的があれば、戦えるよなって話


 次の朝、朝食後に俺、リーファン、ペルシア、ジタローの四人が武装して集まる。

 もっとも俺はローブに細身の杖を持っているだけなのだが。


「みんな、準備は良いか?」

「うん。身につける荷物は最小限。いざという時の水が少しと、ヒールポーション!」

「荷物は俺がいくらでも持つからな。とにかく身軽にするんだ」

「あいよ!」

「行軍とは大分勝手が違うな……」

「空間収納ありきな編制だからな。可能な限り身軽な格好で速度重視だ。目指すは薬草だけだ。運良く敵が少なければ、魔石を回収するが、重要度は二の次だ」

「了解した」


 ペルシアの格好はいつも通り、やや細身の長剣と、予備のショートソード。それに短剣だ。長剣はかなりの業物のようだ。

 防具は親衛騎士団の軽装鎧。十分な防御力だろう。


 一方リーファンは想像以上の重装備だった。

 小さい身体にハーフプレート。

 さらに分厚い盾に、巨大なハンマー。


「リーファン? 出来れば身軽な方が良いんだが」

「大丈夫だよ。……ほら!」

「うをっ!」


 身につけた鉄の総量からは考えられないほど、素早く動くリーファンだった。

 直線的な動きなので、敵の攻撃を躱すタイプではなく、受け止めるタイプだろう。


 ジタローはどっから引っ張り出してきたのか、普段の猟師姿では無く、皮を硬く加工したハードレザーアーマーと、毛皮のジャケットを羽織っていた。

 腰には硬質化済みかつシャープネスオイルがたっぷり塗られたマチェットがぶら下がり、大きな弓が背負われていた。


 ザ・山賊スタイル!

 似合いすぎて笑いを堪えるのが大変なんだが!?


「ジタロー、やじりにもたっぷりシャープネスオイルを塗っとくんだぞ」

「抜かりはありませんて」

「私も万全だ」

「同じく!」

「よし。別に失敗したらまた行けば良いんだからな。絶対無理はするなよ? ポーションも湯水のように使ってくれ!」

「わかりやした!」

「うん!」

「……やはり軍とは勝手が違うな。ポーションの使用は極力控えろと指導されているからな」

「本当に躊躇せずに使えよ。あんたにゃやることが沢山あるだろ?」

「ああ。遠慮なく使わせてもらう。もっとも、怪我をするつもりは無いがな」


 ニヤリと、獰猛な笑みを浮かべるペルシアだった。

 た、頼もしい。


 ◆


 湿地帯に接近して、まずは一人で偵察。”遠見”の魔法で、ヒュドラの少ないルートを探す。

 仲間の所へ戻り、地面に絵を描いて、侵攻ルートを説明。


「いいか? 避けられるのであれば、戦闘は避ける。ペルシア、もし大きな音の出る技があっても、極力控えてくれ」

「了解だ」

「先頭はリーファン。敵を倒す必要は無い。足止めしている間に、ペルシアが切り込んでくれ。ジタローはすぐに戦闘に参加せず、周りを警戒。敵が増えるようなら援護だ」

「うん」

「まかせてくだせい」

「俺も魔法で援護するが、派手な魔法は敵を集めるから、最初は控えるぞ。目標地点に到着したら薬草の採取もあるしな」

「大丈夫だ。絶対に守って見せる」

「頼もしいぜ。……よし。それじゃあ行くぜ!」


 スタミナポーションの効果がばっちりなので、連戦による疲労は考えなくて良いだろう。

 こうして俺達は姿勢を低くして、湿地帯を進んでいく。湿地帯で戦闘を避けたい最大の理由は、その足場だ。

 歩けば足のスネまで水に沈む。

 幸い草がびっしりと茂っているので、沼のようにずぶずぶと沈むことはないが、歩きにくいことこの上ない。


 ただ、心配していたリーファンが、思った以上にスムーズに進むので、問題は無さそうだった。


「ヒュドラ……!」


 広い範囲に点在するヒュドラ達だったが、縄張りに入ってきた事に気づいて、近くの固体がずりずりと行く手を阻むようにその姿を現した。


「い……意外とでかいっすね」


 丸太ほどの太さの蛇なのだ。そりゃでかい。


「今から帰るか?」

「いえいえ! 冗談はよしてくだせえ! やれますぜ!」

「今はリーファンに任せろ」


 こちらの敵意を感じ取ったのか、それまでの緩慢な動きが嘘のように激しくヒュドラが突進してきた。

 四つ首!

 そこそこ強い!


 がずーん!

 ヒュドラの体当たりを、リーファンが小さな身体ではじき返す勢いで止めた。


「ビクともしねぇ!?」


 驚きの声を上げるジタロー。

 俺も驚いた。

 恐らくなんらかの技を使ってるな?

 生産系の紋章持ちが、戦闘系の技を覚えるには、気が遠くなるほどの修練が必要だろうに!


「よし! そのまま押さえ込んでおけ! くらえ! 旋風鳳斬!」


 ペルシアが放った技は、冒険者が好んで使う”疾風剣戟”の上位技だ。

 あれならヒュドラの首の一本くらい落とせるだろう。


 ヒュカッ!


 空気を切り裂くように、まるで抵抗なくペルシアの剣が振り抜けた。


「へ?」

「え?」


 ペルシアの放った乱舞技は、四つ全ての首を綺麗にはね飛ばし、それだけでは終わらず、ぶっとい胴体をばらばらに切り裂いていたのだ


「……あれ?」


 どうやら一番驚いたのはペルシア本人らしく、目を丸くして、サイコロステーキの山となったヒュドラと、自らの剣を交互に確認していた。


「斬れる斬れるとは思っていたが……バターを斬るのと変わらぬ手応えだったぞ」

「そ、そりゃ良かった」


 流石、伝説品質のシャープネスオイルだ。


「クラフトさん、魔石は取りましたぜ!」

「わ、わかった。進むぞ!」


 いつの間にやら魔石を回収していたジタロー。ますます山賊かと突っ込みたくなるじゃないか!


「ふ……ふふ……」

「ん?」


 謎の声に顔を上げると、口元を歪めて笑いを零すリーファンがいた。


「これなら……これなら!」

「おっ! おい! リーファン!」

「ふふ! あははははははは!」

「うをっ!? 追うぞクラフト! ジタロー!」

「俺達に構うな! リーファンに付いてくれペルシア!」

「わかった!」


 直線的な動きだが、とてつもないスピードでヒュドラの集団に突っ込んでいくリーファンに、慌てて付いていくペルシア。


「ジタロー! 俺達も続くぞ!」

「へっへい!」


 スタミナの尽きない前衛の本気を舐めていた。

 リーファンがヒュドラに破城槌よろしく突っ込んでいき、ヒュドラをひっくり返す勢いでその動きを止めると、間髪容れずにペルシアがなます切りにしていくのだ。

 ちょっと意味がわからない。


 蛇のぶつ切りがばらまかれる道を、魔石を拾いつつ付いていくだけしかできなかった。


「ふふふふふふふふ! あははははははは! このヘビ野郎がぁああああ!! みんなの……家族達の仇ぃいいい!!」

「ふはははは! 旋風鳳斬! 轟撃襲斬! 一輝一閃! 無影連撃! いくらでも技が放てる! 疲れる気がしない! 何て楽しいんだ!!」


 水しぶきを上げながらヒュドラの死体を量産していく二人。

 途中からはヒュドラ達が全力で逃げ始めたのだが、二人は猛スピードで追っかけてトドメを刺していった。

 その姿に、俺とジタローは震え上がって見物するほか無かった。


「下手に近づけん」

「こ、こぇっす姉さん……」

「あ、薬草発見」

「こっちもっす。あの二人は怒らせないようにしやしょう」

「うん」


 こうして、湿地帯の見える範囲は、全てのヒュドラが駆逐されていた。


「ご、ごめんね? 作戦無視しちゃって」

「「問題ありません! リーファン様!!」」


 なぜか揃って敬礼してしまう俺達。


「いやー。リーファンが突っ走るから仕方なくな? 仕方なく!」


 いやあんた! 絶対楽しんでただろう!?

 もしかして問題児だからカイルに付けられたんじゃないよな!?

 若干の疑惑を生み出しつつも、俺達は目的の薬草を手に入れることが出来た。


「良かった……これでカイル様は……」

「今さらいい話っぽくしようとしても遅いからな?」


 ま、湿っぽいよりかはいっか。

 元冒険者はいい加減なのである。


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