9:頼られたら、何とかしてやろうとなるって話


「なんか、倒せたんで魔石集めてきた」

「え?」

「は?」


 村に戻ると、カイルとリーファンが今後の対策を立てている最中だった。


「え? 倒せた?」

「たしかオークが二〇匹はいたって話ですが、少なかったのですか?」

「いや、三三匹いた」

「はぁ!?」


 驚きすぎだろリーファン。

 まぁ確かに自分でもびっくりはしてるんだけどな。


「きっちり全滅させてきたから安心してくれ」

「え? クラフト君どうやって?」

「攻撃魔法だが?」

「え? あれ? 魔術師として役立たずだったから——あ! ごめんなさい!」

「いや、事実だから」


 思わず苦笑してしまったが、別に不快に思ったわけでは無い。

 事実過ぎることがちょっと面白かっただけだ。


「なんか錬金術師の紋章になってから魔法の威力が上がっただけで無く、今まで使えなかった魔法も使えるようになったんだよ」

「そんな事があるんですねぇ」

「そうみたいだ」

「クラフトさん! 流石です!」

「素材集めするときは、自衛くらいなら出来そうだ」


 今から冒険者に戻りたい気持ちも少しだけわいたが、生産ギルドで頑張ると決めたのだ。頑張ろう。

 あのむかつく兄貴を見返させてやる。


「材料は揃ったから、ダウジングティアドロップを作っておいたぞ」


 錬金術で、帰りがけに作って置いたティアドロップをリーファンに手渡す。


「じゃあ試してみよっか」


 ティアドロップを紐にぶら下げて、村の中を練り歩くと、チカチカと宝石が輝いた。

 念のためさらに歩いて回ると、一際宝石が輝く位置を発見した。


「ここからこの向きに水脈があるみたいだね」

「わかりました。すみません! どなたか手すきの方は集まってもらえませんか!? 井戸を掘ろうと思います!」

「「「おお!!」」」


 カイルの号令で、集まってきた開拓民によって、一気に掘り下げていくと、見事に水が湧き出てきた。


「おお! 凄い! まさか一発で水脈を当てるとは!」

「ああ。井戸ってのは何カ所も試し堀りしてようやく見つかるものなのに!」

「ありがとうクラフトさん!」

「クラフトさんはオークも全滅させたんだぞ!」

「凄い!」

「クラフトさんがいてくれたら、開拓村も安泰だな!」

「よーし! やるぞ!」

「頼りすぎるなよ!」

「わかってるって!」


 額に汗して井戸を掘ったのは、村人のみんなじゃないか。

 そこまで褒められるとこそばゆい。


「クラフトさん流石です!」

「錬金術師としては駆け出しも良いところなんだけどな」


 魔術師の紋章を得たとき、先輩冒険者の魔術師に好意で基礎を教わったこともあったのだが、それでも俺の魔法はまったく伸びなかった。

 その先輩達にしても、適性を見直すという発想に至らなかった事からも、適正判断自体珍しい行為だと言える。


 今さら考えてもしょうが無いな。やるべきは、この錬金術の力をカイルたちの為に振るうのみだ。


 リーファンがすぐに、石を敷き詰めて立派な井戸に作り上げる。

 流石、土や石の加工に優れる土小人ノームの血を引いてることだけはあるな。

 こうして村には新たな井戸が設置され、綺麗な水に困ることは無くなったのだ。


 ◆


 次の朝、いつものように出来たてのスタミナポーションを料理人に届け、そのままお手伝いをする。

 まだしばらくは、炊き出しが続く予定だ。


「あ、おはようございます。クラフトさん」

「おう、おはよう」

「……おはよ……です」

「ん?」


 なんか今、わずかに声が聞こえたような……。


「凄いですねクラフトさん。マイナは滅多に人に懐かないんですが、挨拶するなんて、マイナも気に入ってるんだね」


 カイルの双子の妹、マイナは返事をせずに、そそくさとカイルの背中に隠れてしまった。


「すみません。恥ずかしがり屋なもので」

「あ、ああ」


 人見知りってレベルじゃない気もするが、貴族の淑女ってのはこんなものなのかもしれない。知らんけど。


「あ、クラフト君おはよう」

「おう。おはようさん」


 村人と話していたリーファンがこちらに寄ってくる。


「さて、リーファン。これからの予定を教えてくれ」

「うん。それなんだけど、予定が大幅に前倒しになってるから、みんなから先にカイル様の家を作って欲しいって頼まれたんだ」

「え? 今割り当てていただいている家で充分ですが……」

「あれは当面雨風を防ぐ仮設の住宅ですから……。安全の面からも、きちんとした建物にしたほうが良いと思うんです」


 それを聞いていた護衛二人もうんうんと頷いた。


「たしかに、住むだけならそれほど問題ないが、いざという時まで考えると、ちょっと不安な面もあるな」

「そうなんだよ。それでみんなも自分たちは後回しで良いから……っていうかね。一ヶ月はテントの予定だったから、みんな全然不満は無いんだって」

「ああ、確かに」


 テントと仮設住宅では、雲泥の差がある。

 そもそも仮設といっても、中にはスラム出身なんて奴もいるのだ。下手したら元より良い暮らしをしている奴も多いだろう。

 危険な開拓に参加する人間は、やはり一癖も二癖もある奴らばかりなのだ。

 仕方なくだったり、野心家だったり、夢を叶える為だったり。


「だから、私はしばらくそっちに集中するから、クラフト君は好きなことしてて良いよ」

「好きなことって言われてもな」

「これが鍛冶や大工の紋章だったら、手伝ってもらうんだけど。特にやることがないならスタミナポーションを作り溜めておくとか?」

「そうだな、色々試したいこともあるし、しばらくは自由にさせてもらうよ」

「うん。何か変わった成果が出たら教えてね」

「ああ」


 そんな訳で、一旦自室に戻る。

 あらかじめ加工しておいた木材を組み上げていく、仮設住宅ではあるが、正直最近まで住んでいた冒険者ギルドの物件よりよほど快適だ。

 部屋も広いし、なにより雨漏りもない。


 錬金術を行うに、錬金釜というものを用意すると、より効率良くポーションなどを作っていけるようなのだが、紋章がまだ必要ないと囁いている気がするので、当面は魔法力のみで錬金していこうと思う。


 錬金術師と言えば、最初に浮かぶのは回復のポーションだろう。

 特に冒険者がお世話になるのは、外傷を治癒する、キュアポーションだ。


 生産職の紋章持ちだけでなく、聖職者の紋章持ちが作製する事も出来るが、やはり錬金術師製のポーションが効果が高い。

 もっとも値段も高いわけだが。


 そんなわけで、馴染みのあるキュアポーションから作って行こうと思うのだが……。


「……」


 なぜかマイナが俺のマントを掴んでジッと見つめていた。

 その背後には無言のペルシアもいた。


「えっと……」

「あー。マイナ様はお前の事が気に入ったようなのだ。今はカイル様も書類仕事に追われているし、迷惑でなければ、置いてやってくれ」


 困ったように頭を掻くペルシア。

 今まで意識してなかったので気付かなかったのだが、ペルシア……たゆんたゆんだな。

 どこがとは言わない。

 リーファンに無い物とだけ言っておこう。


「別に構わないが……面白いもんじゃないぞ? 良いのか?」


 こくりと頷くマイナ。

 なら良いけどね。


 まず、紋章が教えてくれる通りに、数種類の薬草をすりこぎで軽く混ぜ合わせる。

 次に、空間収納から空の樽を取り出す。


「うーむ。何度見ても見事な空間収納だな」

「自分でも驚いてるさ」


 俺が知ってる限り、空間収納を使える奴でも、収納や取り出しに集中と時間が必要な事が多く、ここまで気楽に出し入れ出来る奴は見たことが無い。


「すまない。邪魔したな」

「いやいや。美人との会話は大歓迎だ」

「なっ!?」


 顔を真っ赤にして慌てふためくペルシア。

 ウブかよ。

 騎士とかやってたら、周りは男だらけだろうに。


「……」


 なぜかマイナに強くマントを引かれたので、用事があるのかとそちらを見るが、ぷいと横を向かれてしまった。

 解せぬ。


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