8:強くなるのを実感するって、いいねって話
「錬金術で、ダウジングティアドロップっていう宝石が作れるんだ」
「あ、思い出した。ダウジングってあれね。水脈や鉱脈を探せるっていう」
「そうみたいだな」
どうやらリーファンは知っていたらしい。流石生産ギルドから責任者にされる事はある。
あくまで錬金術師の紋章が教えてくれる知識なので、確実では無いが、経験上紋章が嘘を教えることは無いのでまず大丈夫だろう。
「このダウジングティアドロップを紐で吊して、探したい鉱脈や水脈をイメージしながら歩くと、それが埋まっている場所に反応して光るんだと」
「なるほど。クラフト君が常に村にいるとは限らないもんね」
「クラフトさんがいないときでも、簡単に水を確保出来るようにするわけですね」
「ああ。買い物とか素材探しとか、外に出る事も多いだろう。井戸があった方が良いと思う」
「そうね。それに越したことはないね」
「水脈の場所がわかるのであれば、当てずっぽうに何カ所も試し掘りをしないですみますね」
「ただ、一つだけ問題があるんだよ」
「問題?」
「ああ、ティアドロップの作製に、材料が一つだけ足りない」
「何?」
「魔石だ」
「あー……」
魔石。
それは魔物とかモンスターなどと言われる生き物から取れる、魔力を内包した石だ。
錬金術だけで無く、魔法の武具や道具。魔導具などに使用される用途の広い素材である。
今必要な魔石は、そこそこ普及している品質で良いのだが、ゴブリンくらいの魔物だと、微妙に足りない。
「オーク辺りを狩らないと難しいだろうなぁ」
「オーククラスの魔石かぁ」
「それならアルファードかペルシアに狩りへ行ってもらいましょう」
「ダメだ。二人の実力が高いのはわかってるが、ソロで行くのは認められない」
「なら二人で……」
「もっとダメだ。一体誰がカイルと村を守るんだよ。もう護衛の冒険者はいないんだぞ?」
「クラフトさんがいらっしゃいますし……」
「もちろんいざという時には全力で守るが、そういうのは専任の人間に任せるもんだ」
少し離れた位置で聞いていたアルファードがうんうんと頷いていた。
「町に買いに行く? オークレベルの魔石なら、予算内で足りるよ」
一般的に購入出来る品質としてはオークのものが普通か少し良いレベルだろう。
ゴブリンクラスの魔石は、買い取り価格は滅茶苦茶安いが、売値は適度にするので人気が無い。
オークより上の品質は、ぐっと貴重になって値段も上がってくるのだ。
「それが一番早いとは思うけど、この先も定期的に魔石は必要になってくるんだよなぁって」
「それも……そうだね」
「そんなに必要になる物なんですか?」
「錬金術には必須だな」
「なるほど……」
三人で頭を抱えていると、森の奥から、狩人達が転がるように戻ってきた。
「た! 大変だぁ! 森の奥にオークの集落があるぞ!」
「やばいぞ! 二〇匹以上のオークがいた! 大集落だ!」
「なんだって!?」
村で作業していた人間が悲鳴にも似た声を上げた。
一般人からすれば、オークは死を運んでくる悪魔そのものだろう。
それにしても狙ったようなタイミングだな。
隣接する森は見た目以上に危険と説明を受けていたが、厄介だな。
「オークか……」
「二〇匹は多いね。私一人じゃちょっと無理かな」
「え? リーファンは戦えるのか?」
「生産職は素材集めも基本でしょ?」
「冒険者以外でもオークなんかと戦うんだなぁ」
「魔石はいくらあっても足りないからね」
「ああ、そうなるのか」
冒険者の収入で、最も安定しているのが魔石の買取になる。
厳密に等級別で買い取り価格が設定されていて、誤魔化されることも無い。
俺も良く世話になったものだ。
「ふむ……、まずは俺一人で様子を見てくる」
「え? 一人で?」
「これでもつい最近まで冒険者だったんだぞ。偵察くらい出来るさ」
「アルファードやペルシアを一人で出すのはダメと言っていたではないですか」
「職業軍人と冒険者を一緒にしないでくれ。こっちは魔物のスペシャリストだ」
「でも魔術師だったんでしょ?」
「その魔法で役に立たなかったからな、やれることはなんでもやってたんだよ」
掃除に洗濯、料理に偵察。短剣や杖術に薬草の見分け方……。
ほんと雑用ばっかりしてたな。とほほ。
「苦労したんだね」
「クラフトさん……」
「言うなよ」
幸い、空間収納があるので、特別な準備する必要もない。
「それじゃあ行ってくる」
「無理はしないでくださいね。やはりアルファードかペルシアのどちらかを同行させたほうが……」
「相手の規模がまだ確実じゃ無いんだ。村の守りにあの二人は絶対必要だ。カイルだけの問題じゃぁ無い」
「それは……確かにそうですね。わかりました。お気を付けて!」
「大丈夫だ。任せろ」
狩人に場所を聞き、森の奥へと進んでいく。
なるほど、魔の森と言われるだけあって、視界が悪い。
まず、村の近くは森から林へと手を入れなければならないな。
そんな事を考えつつ、慎重にその場へと忍び寄ってみた。
「なるほど、二〇……いや、三〇はいるな」
前に所属していたマルボロの冒険者パーティーか、レイドックのパーティーでも、少々苦戦しそうな数だ。
少なくとも正面から仕掛けることは無いだろう。
「さて、試してみるか」
危険な偵察任務を一人で受けたのには理由があった。
それは、錬金術師の紋章に関係する。
魔術師の紋章を持っていた頃は、とにかく、魔力の流れは最悪、全力で自分自身を押さえ込むのにそのパワーの全てを使い果たし、外に出せる魔法は残りカスといった具合だったのだ。
幸い、魔術師時代に覚えた魔法はそのまま使えると、錬金術師の紋章が教えてくれる。
それだけでなく、かなり上位の魔法すら、今の俺なら使えると囁いてくるのだ。
本当に上位の攻撃魔法が使えるのであれば、しっかりとテストしておきたい。
いざという時やっぱり使えませんでしたでは済まないからな。
「ま、ダメなら逃げよう」
原始的な村を構築しているオークの集団。
それなりに知性のある種族なのだが、とにかく人間や亞人を見ると、気が狂ったように襲いかかってくるという習性から、人類の友とはなり得ない、明確な敵だった。
「森の中だからな、火魔法は却下」
今まで俺が使えていた火魔法なら、火事になる心配は無いかも知れないが、かわりにオークの一体すら倒せない。
紋章から流れてくる知識だと、その同じ初級魔法すら威力は大幅に上がっているらしいが、流石に細かいところまで試してみないとわからない。
土の攻撃魔法は癖のあるものが多いので、ぶっつけ本番では却下。
残るは風か水になる。
先ほどまで水の話題も出てきたことだし、ここは水の攻撃魔法を試してみよう。
退路を確認しつつ、オークの集落が目視できるギリギリの距離から、魔法を放つことにする。
……冒険者時代には、貧弱な攻撃魔法を少しでも活用するために、スニーキングも随分と訓練したからな。
その瞬間、今まで使ってきた、初級魔法の威力が頭をよぎる。
水弾を飛ばして敵の顔に直撃させても、時間稼ぎくらいにしかならず、火球など名ばかりで、火打ち石の代わりくらいにしかならなかった。
だから、俺が選んだ魔法は……。
「深淵の冥層氷獄牢!!」
現在使える、最強の水魔法だった。
別名コキュートス。
A級冒険者の水系魔術師でも、使える者はほとんどいないという。
この魔法がまともに使えるなら、宮廷魔術師としてスカウトされるレベルだ。
本当にこんな魔法が使えるのだろうか?
疑問に思いつつも、確かに紋章はその魔術式を教えてくれる。俺にそれが使えることを囁くのだ。
だから、実験もかねて使用してみた。
本当に発動出来るのであれば、三〇匹のオークを一発で全滅させることも可能だろう。
そんな気持ちで放った魔法だった。
だから。
「な……なんだこりゃ……」
目の前に広がるのは白き光景だった。
オークの集落の何十倍という範囲が一瞬で凍り付き、生きとし生けるもの全てが氷漬けになってしまったのだ。
一気に気温が下がったことで空気中の水分も凍結。
白い霧のようになっていた。
「寒い!」
一気に冷風が前面より吹きすさび、一気に身体を冷やす。
「えっと……”耐寒”!」
すぐに寒さに耐える魔法を自らに発動した。
「いやはやこれは……」
今まで、親指程度の水弾を出すのに、身体中から力をねじくりだしてというのに、今ではごくスムーズに魔力が魔術術式によって事象へと変換されているのだ。
「ああ……これが本当の魔法……!」
それまで、高い魔力を全く活用できず、お荷物だった魔法の能力が、錬金術師の紋章によって花開くとは皮肉なものだった。
だが!
やっぱ魔法ってのはこうでないとな!
「っと、いつまでも浸ってたらまずいな」
俺は嬉々として、オーク達をたたき割り、魔石を取り出していく。魔物の素材は諦めた。
鑑定すると、ダウジングティアドロップを作製するのに十分な品質だった。
売ると安いが、買うと高い。
それが一気に三〇個以上集まり、ほくほく顔で家路につくのであった。
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