7:自分だけわかってるって、伝えるの大変だよなって話
「村の皆さーん! これから建物を建てて行きます! すでに計画図があるので、必ず指示にしたがってくださーい!」
「「「おー!!!」」」
動き始める住民たち。
冒険者のレイドックがやって来た。
「ようリーファンさん。俺達の仕事は、ここまでの護衛ってなってるわけだが」
「あ! そうですね。短い間でしたがありがとうございました!」
「いやいや。予定より遙かに早く終わったが……ちゃんと満額もらえるのか?」
「もちろんです。一筆したためておきますね。そうだ。追加の仕事を頼みたいのですが」
「なんだ?」
「はい、この土地の領主であるベイルロード辺境伯の住む街の、生産ギルドへも私たちが現地に到着したことを連絡して欲しいのです」
「辺境伯直轄の街だと、なるほど遠回りだな」
「はい。ですがその分報酬を受け取るのは早くなりますし、お願いできますか?」
「いいぜ。そっから元の町への護衛でも見つけたら一石三鳥だ。任されてやるよ」
「それでは報酬は……」
「それなんだが、報酬は例のスタミナポーションをひと瓶で良いから譲ってくれないか?」
「え?」
「正直、旅の間ずっとお世話になってただろ。その凄さは充分身に染みてる。これがあれば俺達はどんな危機に陥っても生きて戻れるだろう」
レイドックの表情は真剣だった。
「わかった。ひと瓶で良いんだな?」
「ああ。なんといっても他のポーションと違って、ひと匙で効果抜群だからな」
「あのねクラフト君。話の腰を折るようだけど、一つ問題があるんだよ」
「ん?」
「ポーションは長期保存するには、専用の瓶が必要になるんだよ。じゃないと劣化していくの」
「しまった。その問題があったか」
「ああ、その事か」
頭を押さえたのは俺で無く、レイドックだった。
冒険者にしても、常識の話だ。
飲み終わったポーション瓶を、持って帰らねばならず、重量の軽減にならないというのは、冒険者の鉄板笑い話の一つだったりする。
その件に関しての説明をしていなかったことを思い出す。
「クラフト、専用のポーション瓶を作れないのか?」
「いや、その必要はないんだ」
「どうしてだ?」
「このポーションな、劣化しないんだ」
「……は?」
「……え?」
「実は、ここ数日で何度も”鑑定”してたら、いつの間にか詳しい情報が見えるようになってな。このポーションの効果が無くなるの、千年かかるらしい」
「はぁ!?」
「千年!?」
そりゃ驚く。
俺だって驚いた。
ちなみに、専用のポーション瓶に入れると一〇億年持つらしい。
意味ねぇけどな!
「だから、この水袋に入れておけば、大丈夫だ」
「はぁ!? ポーションを水袋だって!?」
「クラフト君! それ本当なの!?」
「鑑定が間違ってなければ。ちなみにその水袋にポーションを入れたのは三日前だけど、まったく一切劣化した様子はない」
鑑定がいつの間にか進化し、この事実に気付いたのが三日前。
鑑定とポーションのテストをかねて、スタミナポーションを水袋にいれたままずっと腰に吊しておいたのだが、ポーション特有の急激に品質が劣化していく現象は一切起きなかった。
「錬金術師、すげぇな……」
「いやいやいや! レイドックさん! クラフト君の錬金術はだいぶおかしいからね!?」
「あー、やっぱそうだよなぁ」
「うんうん!」
なんだか酷い事を言われてる気がする。
「言い訳するようだが、今まで魔術師の紋章を持ってた頃は、なんていうか、魔力に対して全力で蓋をしているような感じだったんだよ」
「えっと、どういう事かな?」
「上手く言えないが、沸騰したヤカンの蓋を、力ずくで押さえ込むのに精一杯で、他の全ての事が出来なかったとでも言えば通じるか?」
「それでなんで今まで気付かなかったんだよ」
レイドックのツッコミに苦笑するしか無い。
「比較対象が無かったんだ、しょうがないだろう? 俺だって新しい紋章になってから、初めてあれが異常だったって理解したんだからな」
「そんなもんか」
「そもそも、普通は相性の悪い紋章ってのは刻まれないから、かなりの特殊例らしい」
「なるほどな」
釈然としない顔つきながらも、頷く二人だった。
「リーファン。報酬ってことなら、その水袋ごと、渡して良いよな?」
「うーん。正直レイドックさん達が得をしすぎな気もするけど……」
「原価は滅茶苦茶安いからなぁ」
「それは関係ないよ。出来上がった品質が全てだから」
「まぁそうなんだが、あんまり実感もないからなぁ」
「そうね……わかった。その代わり、急いで連絡してね」
「もちろんだ。昼飯だけ一緒させてもらえば、スタミナもりもりだろ? 明日までには連絡してやるさ」
「え? 明日までに?」
「はは! 本気の冒険者舐めんなよ! 開拓者達に合わせてただけで、スタミナが尽きないなら一日で行ってやるよ!」
「頼もしいね。じゃあお願いするよ」
「おう。交渉成立だな」
こうして、お昼だけ一緒にしてから、レイドック達は土煙を上げる勢いで、去って行った。
「速〜!」
「あれが現役冒険者のスタミナを無視した本気って事だろう。さて、新ギルド長殿これからどうします?」
「リーファン!」
「はは、冗談だ」
「えっとね。何人か付けるから、当面のテント設営と、荷物の取り出しをお願い」
「リーファンは?」
「残りの人達で、予定図を地面に写してから、建築を始めるね」
「わかった。先に必要な資材を出しておくよ」
「うん。お願い」
スタミナポーションのおかげで、尽きぬ体力を得た事で、一般人とは思えないスピードでどんどんと作業が進んでいく。
腕力や魔力が上がるわけでは無いので、木材を一人で運ぶといった事は出来ないが、とにかく一切の休憩なしで、ずっと全力を出し続けられるのだ。その効率は異常の一言だ。
仮設住宅造りは順調以上に進み、数日で半月を予定していた作業を終えてしまった。
まだまだ掘っ立て小屋レベルではあるが。
「これでテント暮らしも終わりね」
「いやぁ! これもクラフトさんが作ってくれたスタミナポーションのおかげですよ!」
「ええ! これさえありゃ、俺達なんだってやりますよ!」
「必要な木材があるなら言ってください! 俺木こりなんで、いくらでも木材調達してきますよ!」
「俺達狩人だって、明日から狩りに出やすぜ!」
「家具類が欲しくなるねぇ」
「その辺は生産ギルド長のリーファンさんにお任せだな」
「うん。任せて」
こうして、開拓村は猛スピードで村の体をなしていった。
◆
「リーファンさん、クラフトさん。少し相談があるんですけど」
「はい、なんでしょう?」
全員が住める仮設住宅造りが一段落した次の日、カイルが仮の生産ギルド館へとやって来た。
なんで仮かというと、単純に俺とリーファンの家だからだ。
もちろん部屋は別々だぞ!
「実は井戸が作れないかと相談を受けたんです」
「井戸ですか? 川は近いですよね?」
「はい、そこまで遠くはないですし、スタミナポーションのおかげで、往復すること自体は苦にならないそうなのですが、水は大量に必要になりますから、運搬に時間を取られたくないそうなんです」
「それは確かに」
リーファンが腕を組んで頷いた。
威厳は一切ない。
「うーん。井戸か……たしかにあれば便利よね」
「はい。お願いできませんか?」
「そんな簡単に水脈が見つかるかなぁ? クラフト君、どうしよう?」
「水か……解決案は二つかな」
「え? 二つも?」
そう言えば、紋章で得た能力の話はほとんどしてなかったな。
「ああ。一つは水魔法で、必要な分を俺が魔法で生み出す」
「え!? 必要な分を!?」
「前の……魔術師の紋章だった頃は、水を生み出す魔法で作れる量はコップの半分以下……いやもっと少なかったんだけど、なんか錬金術師の紋章になったら、大量に生み出せる」
この辺はこっそり実験済みだ。
おそらく本気を出せば、ため池くらい作れる。
「さすがクラフトさんです」
「あ、相変わらず無茶苦茶ね」
「それなら——」
「それでも良いんだが、もっと良い方法があるぞ」
「もっとですか?」
「なになに? 気になるよ!」
妙に食いついてくる二人。
「ダウジングをしよう」
「だう……?」
「じんぐ……?」
どうやらあまり知られていないものだったらしい。
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