6:大事な奴が出来たら、守ってやろうって話
開拓予定地は、広い平野と隣接した深い森。離れた場所に川が流れ、視界の奥には雪化粧の残る山脈が見渡せた。
「随分と良い場所だな」
てっきり開拓地なんてのは、深い森の中とか、湿地。作物の育たない荒野だと思い込んでいた。
ところがやって来ると、どうしてこんな良い場所に村一つ出来なかったのか不思議な場所だった。
「もちろん理由はあるよ」
「聞いても?」
「うん。ここは昔、
「どれ……本当だ」
完全に草に埋もれていたが、所々石の土台が残っている場所を発見できた。
「実は、私も子供の頃住んでいたんだ」
「そうだったのか」
今でも子供と判別付かないとは言えない。
亞人の中でも、特に土小人は人の子供と区別しにくいのだ。ハーフらしいがリーファンの年齢も不詳である。
そして、どうして腕のある土小人が、こんな開拓に志願したのか、少しだけ分かった気がした。
少し寂しそうな横顔に、これ以上の理由を聞くことはためらわれた。
ただ、きっとこの場所に新たに村を作りたい。
そんな思いがあるのは間違いないだろう。
「よし。いっちょ立派な村にしてやろうぜ」
「うん!」
「リーファンさん。クラフトさん。ちょっと良いですか?」
やって来たのは、アルファードとペルシアを引き連れたカイルとマイナだった。
「あ、カイル様おはようございます」
「はい。おはようございます」
リーファンが挨拶したので、俺は会釈で返しておいた。
この一週間の旅程で、俺達の距離感はかなり縮んでいた。
特にカイルは俺に良く相談を持ちかけてきていて、今では弟のように感じてしまっている。
逆に距離感が難しい。
「まず、ここまでお疲れ様でした。予定を大幅に短縮して到着したこと感謝いたします」
「カイル様が頑張ったからですよ!」
「ああ。それに開拓民達だけでなく、馬もだな」
実は、料理人が渡しておいたスタミナポーションを、馬の飲み水にも試しに入れてみたのだ。
すると、なんとびっくり。
馬にまで効果抜群で、鼻息荒く、どんな荒れ地でもグイグイと進んでくれたのだ。
また、少数残した馬車に、老人や子供を乗せることで、進行速度はちょっと尋常じゃない速度となっていたのだ。
「クラフトさんのポーションを飲み始めてから、身体の倦怠感も消え失せ、生まれ変わった気分です。マイナもとても元気に過ごせましたから」
「それなら良かった」
新たに得た錬金術の力で誰かの役に立つ。
それがこれほど嬉しいこととは俺自身思ってなかったのだ。
うん。
この力で誰かを助けられるなら、俺はそれを躊躇しない。
「それでご用はなんでしょうかカイル様」
「あ、はい。作業の前に、皆様に声を掛けた方が良いと、アルファードに意見されたもので」
「それは良いですね。カイル様にお言葉をいただけたら、皆喜びます」
「迷惑では無いですか?」
「そんな事ありませんよ。皆カイル様の事は大好きですから」
そう。
この旅の間、カイルは食事の配膳などを手伝い、とても貴族とは思えない頑張りを見せていた。
みんなの為に何かをしたいという意志が溢れ出ていて、あっと言う間に全員の心を鷲掴んでしまったのだ。
「ちょっとみんなを集めてくるね」
「じゃあ俺は簡単なお立ち台を作っておくよ」
「うん。お願いクラフト君」
空の木箱を適当に積み上げて、簡易お立ち台を作成する。
空間収納から直に出すだけなので簡単なお仕事である。
「あの、クラフトさん」
「ん?」
突然背後から呼ばれ、思わず素の態度で返してしまう。
「あ、失礼しましたカイル様」
「それです」
「え?」
「ちょっと気になってたのですが、クラフトさんにはもう少し、フランクに接して欲しいのです」
「いやいや! そんな事出来ませんよ!」
君の後ろの怖い護衛がめっちゃ睨んでくるし!
「クラフトさんにいただいたスタミナポーションのおかげで、本当に助かっているのです。恩人と言うだけで無く、元冒険者なのですから、無理をする必要はないですよ」
内心で弟みたいに思ってるとか、余計に言えなくなったぞ!?
「いえ。僕としては、クラフトさんにはぜひ自然体でいて欲しいのです。僕達に気を遣って、本領が発揮できない方が損失だと思っています」
「いや、それは……」
「やはり……迷惑でしょうか?」
しょんぼりと、顔を伏せつつも上目遣い。
あー! もう! 反則だろそれは!
二人の護衛に目をやれば、額を抑えるアルファードと、苦笑しているペルシアだった。
つまり、諦めているのだろう。
「あー……」
「ダメですか?」
「そうだな……冒険者の態度でいいってのなら、敬語すら使わないって事になるんだぞ?」
試しにタメ口調を使ってみると、明らかに顔を輝かせるカイルだった。
これは、本気だわ。
「もちろんです! むしろその方が嬉しいです!」
「お二人のご意見は?」
「本音を言えば、辞めていただきたい。が、カイル様がそれをお望みであれば……」
「他の貴族の前で出さなければ……カイル様の気持ちを尊重するべきだろう」
「なるほど」
あんな兄と一緒にいたのだ。
もしかしたら、窮屈な生活に嫌気が差していたのかもしれない。
これでカイルが満足するのなら……。
「わかった。その代わり、文句は言わせないぞ? カイル」
「はい! よろしくお願いします! クラフトさん!!」
「は、ははは……」
怒るどころか、喜んじゃったよ。
こりゃ、気合い入れてかないとだな。
「とりあえず挨拶だな」
「はい!」
ああダメだ。もう貴族として見れねぇ……。
「あれ? 何かありました?」
「いや、何でもない」
「そうですか? 村人を全員集めてきましたよ」
「リーファンさん。ありがとうございます」
カイルは一度こちらに顔を向け、ニッコリと微笑むとお立ち台に上がっていった。
「なんかあったの?」
「えー、いや、まぁ色々だ。」
辺境伯の三男と仲良くなってしまいましたとは言えないだろう。
そうそう、どうでも良いけれど、辺境伯って聞くと、人によっては地方に追いやられた三流貴族だと勘違いしている人もいるが、実際は、問題の多い広大な辺境を一手に任せられる、超有能な貴族だからな。
ほぼ独立国だと思って良い。
カイルが離れたことで、掴まる相手のいなくなってしまった妹のマイナ。カイルと双子らしい。
不安げにキョロキョロした後、なぜか俺の背中にピタリと張り付いた。
「……」
無言で見上げてくるマイナ。
「えっと。そこで良ければいくらでもいてください」
「……!」
ビクリと身体を震わせた後、頬を赤らめ、俺のマントへ埋まるように身を隠してしまった。
「——という状況から、この地の開拓が決定しました! 山脈を越えた向こうに帝国。いまだ人類の踏破を認めぬ深き森に挟まれつつも、肥沃な平野を有するこの地の開拓は急務です! 皆様どうかお力をお貸しください!」
カイルの演説が終わると拍手喝采。
なぜかアルファードまで涙ぐんでいた。「立派になって……」とか親みたいなセリフがわずかに聞こえた。
「もう一つお知らせがあります!」
「ん?」
挨拶でなく、お知らせ?
なにかあったっけと、リーファンに視線を投げるも、首を横に振るだけだった。
「幸い、僕達には素晴らしい錬金術師のクラフトさんが付いています! 皆で良き村を作って行きましょう!」
「「「「わああああああああ!!!!」」」」
謎の喝采が響いた。
「クラフト君……」
「いや! これは!」
お付きの二人、アルファードとペルシアは頭を抱えてその場にしゃがみ込んでいた。
俺のせいじゃないからな!?
「「「カイル様万歳! クラフト様万歳! カイル様万歳! クラフト様万歳!」」」
やーめーろー!!!!!!
「これは責任重大ねぇ。クラフト君?」
「ぎゃあーーーーーす!!」
ええい!
こうなったら全員、俺が面倒見てやるよっ!!!!!
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