5:信じてもらえるってのは、ありがたいよなって話


 鑑定のスキルで判別出来るのだが、物体には品質というものが存在する。

 一般的に手に入る品質の大半が”低”か”普通”のどちらかだ。

 安物なら”最低”も珍しくは無い。


 俺のスキルが教えてくれる範囲だと、自分が知らなかっただけで、かなりの品質が存在することを今知った。

 粗悪から始まり、なんと神器まで一〇段階もランクがあるのだ。

 スキルは嘘をつかないが、流石に疑いたくなる。


 先ほど作製した、スタミナポーションを改めて鑑定してみた。


・スタミナポーション【品質:伝説 ひと匙で、半日ほど種族を凌駕したスタミナを得ることが出来る。副作用は発生しない。食事に混ぜても良い】


 リーファンの言うとおり、品質は伝説となっていた。上から二番目の品質と言うことになる。

 紋章が教えてくれる情報を言葉にすると、だいたいこんな感じだ。


 品質:伝説

 あまりの凄さに、存在すら疑われる。まさに伝説。人が作れる物を遙かに超えた、まさに物語の中にしか存在しない、伝説となる代物。


 えっと。

 存在が疑われるレベルの品質が、当たり前のように完成してるんですけど。


「うそ……ありえない……そんな……え? え?」


 何度も何度も鑑定しなおすリーファン。気持ちはわかる。

 だが、大事なのはそれをどう使うかだろう。


「リーファン。明日の朝から、これをみんなに飲ませよう」

「え? あ、うん。……良いのかな?」

「この薬草って、開拓支援物資なんだろ? 問題は無いと思うんだが」

「そ、そうだね。無い……よね?」


 ギルド長から説明を聞いた限りだと、これらの開拓支援物資は、開拓民や開拓の為に、自由に使って良い物らしい。

 そもそも、開拓民は一〇〇人ほどなのだ。

 カップで二杯も作れば充分足りる。


 そんなわけで、次の朝。

 朝食のスープに、スタミナポーションを足してみた。


「うめぇー!」

「おお! こりゃ美味い! ただのクズ野菜と乾し肉がちょっと入ってるだけなのに!」

「さっきクラフトさんが、調味料を入れてたぞ」

「流石クラフトさんだぜ!」


 え?

 味も良くなるの?

 疑問に思いつつスープを頂くと、確かにかなり美味しかった。

 あえて言うなら、素材の持つ味が残らず引き出されたような感じの、素朴だが飽きのこない美味さだ。

 鑑定じゃそこまで出てなかったんだがな。


 開拓村で食堂を開く予定の料理人が、やたらと首を捻っていたが、無視させてもらうことにした。


 もちろん。味だけではなかった。

 スタミナポーション本来の能力も十全に……いや、予想は遙かに上回るレベルで発揮されていた。


「何か今日は調子良いなぁ!」

「おう! 全然疲れないぜ!」

「俺なんて走っちゃうぜ!」

「あれ? 俺も走れる!?」

「よし! みんなで走ろうぜ!」


 ごく普通に暮らしていた、一般人達が、冒険者ですら不可能な、ランニングし続けるという脅威のパフォーマンスを見せたのだ。

 もちろん俺やリーファンも同じで、いくら走っても全然疲労しないのだ。


「ちょ! ちょっと待ってくれ!」

「お前ら急にどうなってんだ!?」

「リーダー、俺もう走れない……」

「い、いや! 俺達冒険者が一般人に負けてどうすんだよ!?」

「……なんでお前だけ、平然としてるんだ?」

「いやぁ……こっそり開拓民のスープをお裾分けしてもらったなんて事は無いよ?」

「てめぇ! 集団食中毒対策で、食事は別にするって約束だろうが!」

「だってあいつらメッチャ美味そうに喰ってたし! スープだから沢山あったし! 薦められたし!」

「この!」


 むしろ、食事を別にしていた冒険者のレイドック達が先にへばっていた。

 ちょっと尋常では無い。


「あー、レイドック。良かったらみんなにひと匙ずつわけてくれ」


 流石に見かねて、スタミナポーションをカップ一杯作製し、それをパーティーリーダーのレイドックへと渡した。


「スタミナポーションか。ありがたいが、ひと匙で良いのか?」

「朝、一〇〇人前のスープに、このカップ分を混ぜただけであれだぞ?」


 妙に元気にかけ足する集団に、冒険者全員の視線が集まる。


「ありがたくもらうよ」

「ああ。支援物資だから遠慮しないでくれ」

「助かる」


 こうして、冒険者全員もスタミナポーションを摂取すると、その効果は覿面だった。


「やべぇこれ! 全然疲れない!」

「俺、今なら”疾風剣戟”を一〇〇回連発しても疲労する気がしないぞ」

「スタミナポーションにしたって限度がないか!?」

「俺が昔飲んだ、一番高級な奴でも、二〇分くらいの効果時間だったし、普段の倍程度、動けるもんだったぞ」

「それ、普通に考えたらかなり高い奴よね」


 スタミナが二倍近くなり、それの効果時間が二〇分となれば、俺が知る限りでもかなりの高級なポーションだ。

 ところが今飲ませたのは、ほとんど無尽蔵のスタミナと、半日も効果時間が続くのだ。

 ちょっと洒落にならない。


「これ、クラフトが作ったのか!?」

「あ、ああ。……魔術師の紋章から、錬金術師の紋章に書き換えてな」

「それは凄い! たしか錬金術師の紋章ってレアなんだろ?」

「らしいな」

「そ、そうか。出来ればこのポーション売って欲しいんだが!」

「あー。取りあえずその辺りの話は、開拓村予定地に着いてからでいいか?」

「わかった。それより、道中はわけてもらえるんだろうか?」

「それはかまわない。なんなら食事を一緒にすればいいさ」


 元々食事にしても、支援物資の範疇なのだ。護衛の冒険者が食べちゃいけないなんて事はない。


「全員が同じ物を食べると、食中毒が怖いんだよな」


 確かに、長旅だと食中毒は度々発生する恐ろしい物だ。

 だが。


「大丈夫だ。食中毒を治癒出来るポーションも作れる」


 まだ実験はしてないが、スタミナポーションを見るに、問題ないだろう。紋章がそれを俺に教えてくれる。


「そ、そうか? なら昼からご馳走になるか」

「ああ。それが良い」

「しかし、今言うことじゃないかもしれんが、どうしてこれほどの腕があるのに、冒険者としては微妙だったんだ?」

「紋章官の言うことには、どうやら俺が持っていた魔術師の紋章。あれが相性最悪だったらしい」

「そんなことがあるのか」

「滅多にないらしいと言っていた」

「そうか……良かったなクラフト」

「ああ。遠回りしたけどな」


 レイドックと拳を軽くぶつけ合う。

 他のパーティーメンバーがニヤニヤとこちらを見ていた。


 自分のやった事にこっぱずかしさを感じて、慌てて列に戻る。


「さあ進もうぜ!」


 俺が開拓民のみんなに声を掛けると、みんなが元気よく返事を返してくれた。


「あ! クラフトさん! 行きましょう! 行きましょう!」

「いやー! クラフトさんの薬のおかげでメッチャ元気ですよー!」

「素敵な人……」

「走ろう! 走ろう! 俺らは! 元気!」

「はは、慌てて転ばないでくれよ」

「おう!」


 効果も確認出来たので、次の日にはカイル、マイナ、アルファード、ペルシアにも薦めてみた。


「そんな得体の知れないものを……」

「アルファード。その言い方は失礼だろう」

「はっ!? 確かに! 失礼した錬金術師殿」

「いや、気にしないでください。錬金術師としは駆け出しもいいとこなんで」

「効果が凄いのは認める。ただ、凄すぎて逆に怪しく感じてしまうな」


 アルファードだけでなく、ペルシアも不信に思っているらしい。

 たしかに、効果が絶大すぎる。


「他の方を見る限り、害は無いと判断します」

「カイル様。それは少し早計かと」

「僕はね、信じたいんだよ。クラフトさんを」

「……」


 アルファードはそれ以上何も言えなくなり、一歩下がるに留まった。


「それに、マイナがちょっと限界みたいで」

「カイル様も……いえ、なんでもありません」

「僕は大丈夫。でも、そんな効力のあるスタミナポーションなら、ぜひ頂きます」

「わかりました。その前に私が確認いたします」


 有無を言わせず、献上したポーションを飲むアルファード。


「……? な、なに?」

「どうしたの? アル?」

「い、いや、身体の芯に溜まっていた疲労が、すっと溶けていくというか……今なら団長の地獄特訓を丸一日続けられそうなほど、気力が満ち満ちてくる!」

「え? 本気?」

「そのくらい、なんでもやれそうなんだよ」

「それは逆に怖いぞ」

「カイル様。せめて半日、私にテストさせてもらえませんか?」

「わかったよ。マイナも大丈夫かい?」


 こくりと頷くマイナ。


「それでは出発しようか」


 歩き始めて数刻、アルファードは途中で見つけたゴブリンの小集団を一人で全滅させてきた。


「こっこれは凄いものです! 保証します! クラフト! 疑って悪かったな!」

「あ、ありがとう」

「じゃあ、僕達もいただこうか。マイナ」

「……ん」


 こうしてスタミナポーションを飲んだ二人は、見るからに元気になり、馬車旅も楽しめるようになったのだ。

 こんな感じで、俺達は、予定していた旅程の一ヶ月をぶっちぎって、わずか一週間で開拓予定地へと到着したのだった。


 現地についた時、レイドックが呟いた一言が全てだろう。


「嘘……だろ?」


 うん。俺も思う。


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