終幕〈エピローグ〉

 道化の晩餐。


 真夜中の薄闇うすやみで。


 奇妙に歪んだ食堂で。


 俺は意識を取り戻す。

 これは夢だ、なぜかそれがすぐにわかった。


 はて、なぜ“道化の晩餐”にまた来ているのだろうか。

 そういえば主の座を誰にも譲っていないことを俺は思い出す。


 見るとテーブルに並んだ豪華な料理の向こうに誰かが座っているのが見えた。


 ひどく痩せこけた男だった。

 虚ろな目で虚空をぼんやりと見つめている。


 なんだかかつての自分を見ているみたいだな、と俺は照れくさく思う。

 こういう奴には何も考えずにゆっくり過ごす時間が必要だ。

 きっとこの屋敷はそういう人のためにあるのだろう。

 屋敷を必要とする奴があらわれたからこの晩餐会も復活したのだ。


 俺は男に声をかける。


 しかし、男は気がそぞろなのか、聞こえている様子がない。

 おーい。


 少し迷ったあと、俺は自分が道化の晩餐に誘われた時のことを思い出してみる。


 おほん、と大げさに咳払いをすると、俺はもったいぶって言った。


「君のために特別に用意した食事だよ」


 男は俺の声かけに気づいたのか、不安そうに辺りを見渡している。

 どうやらあちらからは俺の姿がよく見えないらしい。


「遠慮せずに食べたまえ」


 俺はあくまで演技っぽくそう言った。


「そして、もしよければでいいのだが…





 ––––––この晩餐の道化にならないかい?」

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道化の晩餐 後藤 大地 @marebito8

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