最後の晩餐。
「
イズミとメイドの声が重なり、目の前に皿がコトリと置かれる。
「これを…」
エビフライだった。
俺の好物の。
「いや、いい」
「お願い、お父さん…
晩餐を食べないと、もう私とは会えなくなっちゃうよ?」
イズミは道化の晩餐が作り出したまやかしのようだった。
もう俺には彼女の姿は見えない。
しかし、声音から彼女が涙を流して泣いているのがわかった。
「死んでからも心配かけてすまんなぁ」
お前を笑顔にすることが目標だったのに、死んでからも悲しませてしまうとは。
我ながら情けない父だ。
「たとえまやかしでも、お前と過ごせた時間は幸せだったよ」
偽りでも。
永遠に続く白夢中のような、あのひと時は俺にとっては居心地の良いものだった。
「でも、俺はひと時でもお前のことを忘れてしまった自分を許せないよ」
「じゃあ、私のことを忘れずに、私がいない世界でいきていくの?
生きていけるの!?
私がいなくても!!」
イズミが叫ぶ。
「父さんはきっと耐えられない…。
ひどく傷つく。ううん、もう傷ついてる!
自分を苦しめて、泣いて、後悔して、
そんな人生に意味ってあるの?
だったら、みんなみんな忘れて生きていった方が楽じゃない?」
たぶんそうだろう。
だから俺は晩餐会の主になったのだと思う。
でも、今は違うと言える。
彼女のことを思い出して俺は気づいたのだった。
「お前のことを愛したから、その愛した分だけ
この痛みを否定したら、忘れたら、俺はお前を愛してない、って嘘をつくことになる。
そんなことはしちゃいけないんだ」
俺はイズミのことを愛しているから、そのぶんだけ痛みを感じながらこの色のない世界を生きていくのだ。
だって俺は–––––––。
「お前に笑顔でいてほしいから」
もうお前にはメイドなんて嘘をつかせたくない。
安心していてほしい。
だから、きっと元気になってみせるよ。
「そっか」
たぶんきっとまたすぐ会える。
さんなに遠くない未来で。
「だから見守っていてほしい」
その時、笑顔で再開できるように。
返事はなかった。
俺は一人、夕方のアパートの一室で座っていた。
一陣の風がカーテンをふわりと揺らす。
俺は重たい腰をあげて立ち上がった。
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