**


「従うしかない……」


 本当にそうなんだろうか。私たちは神の元で、ただ駒のように動かされて、捨てられてしまう運命なんだろうか。


 私たちは一つしか願っていない。それすらも叶えてくれないのか。

 ただ、完結を願っているだけだ。多くを望んでいるわけじゃない。それなのに――――。


「ハヤミマコトさん。こちらへ」


 私は返事をしないで立ち上がる。

 女性に案内されて教室を出た。廊下をしばらく歩き、突き当たりの教室まで来ると中に入るように指示される。


 私はそっとドアを開ける。

 そこでは長テーブルを挟んで向かい合う人がたくさん。一つずつ仕切っているが、声は割と聞こえる。


 さっき話したあの子も端の席に座っている。私は真ん中に案内されて座った。


「一つずつ質問するから、わかる範囲で答えてくれる?」


 役所の人みたいな清潔感のある男性だ。彼は私の目を見て話す。優しい雰囲気を持った人だ。


「教えてくれませんか」


 私はたまらず質問していた。


「ここに来れば全て解決すると聞いて来ました。私は主人公ではない。ただの脇役です。それでも、解決出来るんですか?」

「うん、出来るよ。物語を終わらせる方法はあるんだよ」


 あっさりと男性が言う。その当たり前といった雰囲気に、少し安心してしまった。


「必ずしもそれが最善とは限らない。最後は君がどうしたいかによるよ」


 どうしたいか。あの子は同じ物語の完結を願っていた。私はどうしたいんだろう。私は……。


「君が登場する物語は未完結のまま放置されている。作者さん……あ、君たちは神様って呼んでいたね。神様が完結させるかどうかは我々にもわからない」


 わかってる。それも多分、完結させてくれない方の確率が高い。


「物語はいずれ終わる。そうだね……神様の記憶から消えることは出来るよ」

「それって、まさか……」

「死ぬのと同じこと。ほとんど望む人はいないけど」


 ずっと予感はしていた。いつか、こうなってしまうんだろうって。

 生まれた瞬間から愛してくれていたはずなのに、心が通わなくなったのはいつだっただろう。


「じゃあ、みなさんは? どう解決を?」

「眠るんだよ。時が来たら目覚めるようになってる。とても長い眠りになるかもしれない。だけど、ここにしがみついていても始まらない。新しい始まりが待っていると思えばいいかな」


 本当はずっとこの物語の中にいたかった。このまま完結までいくのだと思っていたから、余計に出たくなかった。

 この場にとどまっていたいと、そんなふうにずっと思っていた。


 多分、私はあの子よりも願いは強かった。この物語を完結させて欲しい。ここで活躍したいって……。


「私の物語の主人公たちは、ここに来たんですか?」

「……来たよ。君が最後だ。よく、頑張ったね」


 言われて涙が止まらなくなった。


 私はあの物語が好きだった。だから完結して欲しかった。でも、必ずしもそれがいい方法ではない。きっと、神様も悩んでいたに違いない。


 もう、解放しなきゃ。

 私が引き止めちゃ駄目だ。

 新しい始まりを――――。


「お願いします。私も眠らせてください」

「うん。じゃあ、手続きをするから。少し待ってて」


 男性が立ち上がって、後ろにある書類を幾つか取り出す。それの一つ一つに何かを書き始める。


 私は待っている間、考えていた。思い出していた。


 主人公たちと一緒に過ごした恋愛小説。神様が作ってくれた、優しくてほのぼのした物語。


 いじめ役な私が活躍した第二章。

 すごく、楽しかった――――。

 

 

 

 

 

 未完結物語救済所。


 この場所に来るのは私たち、作者という神様に忘れられたキャラクターたち。

 いつかまた登場することを願っている……。

 

 

 

 

 

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