100hours

ゆたと

第1話 ねえ、

「好きだよ。好き」


簡単に言わないでほしい。

そもそもなんで深夜に電話なんかしてるんだ。課題が残ってるわけでもないのに。


知ってるんだよ、ほかの人にも言ってるんでしょ。


「うん、」


「いつから好きになったんだろ。でもね、気づいたら頭ん中、あかりでいっぱいなんだ」


よくないってことくらい、わかってる。


「早く大人になってよ」


「もう少し、私が大人だったらよかったね」


「恋なんて、するもんじゃないな」


「そんな当たり前のこと、今更気づいた?」


「でもね、間違いなくあかりが好きなんだ」


騙されてる。よくない。こんなのに踊らされてる私が、浅はかで不甲斐ない。


「私も、一ノ瀬さんのこと、好きだよ」


「かわいい」


あんまり期待させないで。夢から抜け出せなくなる。


「18になったらね」


「そうだよ、私、法に守られてるんだよ」


「あ、でも付き合うのは、やめよう」


「わかってるよ」


「別れた後がたいへんだ」


「そうね、センセイもわたしも、お互い困るだけだ」


「次、月曜日のいつもの時間でいいよね」


「はい、大丈夫です。数学、単元テストあるので」


「わかった。勉強しなきゃな」


「ほんとですよ。今だってなんのために電話してるんですか」


「あー、それはまあ……」


「はいはい、じゃあ月曜日よろしくお願いします」


一方的に切った。

これ以上は、溺れてしまうと思ったから。



その時の私は、月曜日、家に先生と二人きりなんて未来を予想できなかった。

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