あの日の春を、僕は忘れない。

アルアール

第1話 桜に手を伸ばす彼女。

僕は17回目の春を迎えた。


高校2年を迎えた僕は、あの桜が舞い散る

校門の前で、春を見つけた。

綺麗な黒髪が春風にゆれ、儚げな笑顔でサクラの蕾に手を伸ばす彼女。


あれは突然だった。


いつのまにか開く僕の口が、内に秘めた心を打ち明ける。


好きです、一目惚れでした。


初対面の人にいきなりこんな事言われても困るだろうに、彼女はふっと僕に笑顔を向けて


ありがとう


といった。


それは僕を受け入れてくれるって意味ではないって分かってたけど、それでも僕は諦められなかった。


それからは夢中だった。

彼女に少しでも気に入られたいがために、積極的に話しかけ、重い荷物は僕が持ち、何かあれば一番に駆けつけた。


今思えばストーカーって言われても仕方がないよね。


儚げな外見とその可愛らしい声が相まって彼女に告白しようとする生徒が多いらしい。


だから僕は動く。


ーーー三嶋さん! 僕は三嶋さんが好きなんだ!


それでも彼女はありがとう、と笑顔で感謝を述べるのみ。


そんな事があっても彼女は僕との接し方を変えたりはしなかった。

僕が遊びに誘ったら一緒に出かけてくれるし、授業でペアを組む時になったら僕を選んでくれた。


それでも僕の告白は、ありがとうという返答のみだった。



それから2年が経った今、僕らは最後の登校日を迎えていた。


僕は家族が涙ぐみながら卒業を祝ってくれる中、急いで走り出す。

あの彼女と出会った桜の木。

まだ全てが蕾で一つも咲いていないが、見間違えるはずもない。


僕が告白するのは、いつもここだったから。


11時55分。


卒業式が終わってまだ5分しか経っていない。


僕は待つ、長くて短いこの五分を。


そういえば彼女への告白は、これで何回目だろうか。


数え切れないほど繰り返した愛の言葉が蘇ってくる。


僕は待つ、この4分を。


彼女と一緒に勉強して、神社に行ってお祈りをした日。

彼女は言ってくれた。

一緒に大学に行けるといいねって。


僕は待つ、この3分を。


クリスマスに渡したネックレスを、あれからずっとつけていてくれる彼女。

学校では先生に見つかっちゃうからって、服の中にしまってることを話していたお茶目なその顔。


僕は待つ、この2分を。


この2年間で知った彼女の性格、好きなもの、嫌いなもの。

意外と彼女はスポーツが好きらしい。

夏には一緒に海に行って、冬にはスキーをした。

抱きしめれば折れてしまいそうな身体を一生懸命動かして僕と一緒に遊んでくれた。


僕は待つ、この1分を。


そうだ、決めよう。


僕のこの気持ちを伝えよう。

最初は一目惚れだったかもしれない。

でも今は全てを好きになった自信がある。


これで最後にしよう。


僕は待つ、儚げにも笑う君の笑顔を。


伝えよう。


「好きです! 三嶋春さん! 僕と付き合ってください!」


あの時と変わらない、儚げな笑顔を浮かべる彼女の口がゆっくりと開く。



ありがとう、私も好きです。


って。


僕はあの時に見つけた、大好きな春を絶対に忘れない。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日の春を、僕は忘れない。 アルアール @aruarl

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ