FINAL:ラストバトル
「フフフ、ヤッタゾ!!私ノ勝チダ!!!!」
わたしは目を疑った。無敵の必殺技を放ったはずのお父さんは血まみれで地面に倒れ伏し、気を失っている。いくら相手が機械の身体を得ているからって、そんな……
「残念ダッタナ」
「くっ……!」
機械化していない口元を醜く歪め、ダミアン博士は勝ち誇った顔をする。『笑うという行為は本来攻撃的なものである』と前に読んだマンガには書いてあったが、わたしに向けられた表情はまさにそのようなものであった。野生の獣が獲物を前にした際に見せる、狩りの始まりのサイン。思わずわたしはその場から逃げ出そうとした。
「駄目……体が……」
こんな時に限って、いや、こんな状況だからだろう。本能的な恐怖に身体はぶるぶると震え、完全に硬直し切った足は地面に縫い付けられたように動かない。
「ナニ、怯エルコトハ無イ。一瞬デ終ワラセテヤル」
「こ、来ないでっ!」
一歩、また一歩。ダミアン博士はゆっくりと、しかし確実にこちらに迫ってくる。わたしは再び逃走を試みるものの、やはり身体は動かない。このままじゃいけないとわかっているのに。わかっているのに。それでも、動かない。
「そんな……」
「ククク、サッサト諦メロ。オ前モ、人類モ、終ワリダ」
わたしから数歩のところまで近づいたところで、ダミアン博士は鋼鉄の右手をこちらに伸ばす。ゆっくりと開かれた掌に開いた丸い穴からは、紫色の光が溢れていた。
あぁ、わたし、こんな所で死んじゃうんだ。自分でも叶いっこない夢だって薄々思っていたのに、親に命令されたくないからって意地張って家出して、そのせいでこんな風にお父さんまで巻き込んで……こんなことなら……
「……子……加奈子……」
「お父さん!?」
「こうなったらお前が頼りだ……ヤツを……」
お父さん、生きてたんだ。良かった……。でも無理だよ……お父さんですら叶わなかった相手をただの女子高生のわたしが倒せる訳がない。もう、おしまいなんだよ……何もかも……。
「思い出せ……あの日のこと……お前の……ぐふぅっ……っ!」
「黙レ。死ニ損ナイガ」
ダミアン博士に腹部を踏みつけられ、お父さんの口から大量の血液が溢れだす。その表情は苦痛に歪み、身体はピクピクと痙攣していたが、じきに動かなくなった。
「お父さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
「フン、今度コソ終ワリダ」
……よくもお父さんを。許さない。絶対に許さない。でも、どうする?わたしにはアイツを倒す力なんてない。それどころか、先程はここから逃げ延びることさえ出来なかったのだ。一体どうすれば……?
『思い出せ……あの日のこと……』
そうだ、お父さんが最期に遺した言葉……あの日……そうか。
「……ダミアン。アンタは今からわたしが倒す。」
「血迷ッタカ。」
「そう思うなら、試してみたらいい。」
返事はない。ダミアンは無言のままわたしに掌を向けた。先程と同様に、紫色の光が零れ始める。おそらくレーザーか何かを放つ気だろう。わたしは動じることなく、小さく深呼吸をする。そうだ、わたしがアイツを倒すんだ。お父さんの仇のアイツを。だから、こんなことで怯んじゃいけない。自分に言い聞かせながら、全身に意識を集中する。そうしている間にも、紫の光は徐々に大きくなっていく。大丈夫、大丈夫、わたしならやれる。お父さんの娘なんだから。
「死ネッッッ!!!」
極限まで大きくなった光がダミアンの手を離れた。光はわたしに向かって真っすぐと進む。それでもわたしは動かない。ギリギリまで集中を続ける。そして……
「はあぁっっっ!!!!」
「ナ、ナンダト!!」
レーザーが直撃する寸前に、わたしは力を解放した。全身から放出された闘気が金色のオーラと化し、光の束を吹き飛ばす。
「モ、モシヤ、ソノ姿ハッ……!!!」
「そうっ……!!」
小さい頃のわたしにお父さんの昔話をしてくれたのは基本的にお母さんだったけれど、一度だけお父さんからも昔の話を聞いたことがあった。当時のお父さんの仲間だった人の中にはにチンパンジーと人間のハーフが何人かいて、彼らは精神力を極限まで高めることで伝説の戦士に変身できたんだ。だから加奈子も本当は強いんだぞ。って。お父さんが思い出せと言っていたのはきっとこの事なのだろう。
「クソッ!シカシ私ガ小娘ニ負ケル筈ナド!!」
今度は拳を構えてこちらに飛び掛かるダミアン。しかし、
「はっ!!せいっ!!」
「ウッ……!」
ダミアンの攻撃の間に僅かな隙が生じた瞬間、わたしはその顔面にパンチを放った。戦い方を知らない、駄々っ子のようなパンチ。それでも
「マ、マズイ!」
追撃を避けるために空中で体勢を整えようとするダミアン博士。
だが、もう遅い。
「今だっっっっっ!!!!」
わたしは地面を思い切り蹴り上げ、ダミアン博士の目の前まで跳躍する。アイツは自由に身動きを取ることができずにいる。モーションの大きい”あの技”も直撃させられるだろう。お父さんの見よう見まねで右腕を引き、拳を握り締める。怒りを込めて、強く。強く。
「マ、マサカ!?ヤメロォォォォォォ!!!!」
わたしは拳を放った。端から見れば単なる大振りなパンチ。普通ならこんなもの簡単に避けられて相手に反撃のチャンスを与えてしまうだろう。しかしその拳は弾丸よりも早く、ミサイルよりも強い。
そう、その技の名は――
「チーンパーーーーーーンチ!!!!」
カラフルポップクレイジィランド アリクイ @black_arikui
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