ハンギャクの青


「ってて……」



一瞬だった。


音がした。


音がして、深い霧がたちまち視界を覆った。


『ッ!?』




『っ、お父さん!?』





_______








一瞬、地の底に光る赤い光に気付いた後、

僕は父親の姿を見失った。


「み、みんなは!?」


「大丈夫だ、僕はここに居る!」


とっさにさっき口から出た呼称が「お兄さん」で無かったほどに、突然の事に驚いてしまって。けれど、とりあえずグレープさんと……あぁ、レイバルさんも大丈夫そうだ。呼び方も、どうやらバレていないみたい。


「すごい勢いだったけど……シキは!?」


「……あそこだ!」


暗闇だけれど、どこかに光源があるらしく、深い深い穴の奥底にしては明るかった。僕が知らないだけで、サンドスターというくらいだから、ロウでも、少しは恒星然としているのだろうか……。でなければ、僕の父親が、黒い黒い結晶体に壁に押し付けられるようにしているのが、淡く光っているのに理由を付けられる気がしない。


「シキ!聞こえるか!」


……。


「気を失ってるみたい。あのセルリウム壊したら、助けられるかな?」


『待てい!早まるな!』


レイバルさんに続いて一歩踏み出そうとしたら、刀からの声に引き止められた。急くな……なんて、この状況でそれは無理な話だと思うけれど。


『ネジュン!貴女、刀……いいや今はいいわ。とにかく、貴方たちは私たちの結界で無事のようね。』


声の主は、刀からの四神の皆さんの声だった。どうやら私たちを結界で守ってくれたらしい。一瞬の事かと思っていたけれど、結界が張られて、爆風が起こって……瞬きのうち、というのとは少し勝手が違うみたいだ。


ところで……。

「助けて頂けたんですね……で、今何を言い淀んだんですか?」


『ふむ、気付いて無いか。貴殿、その刀を扱える自覚はあるか?』


「……?」


『今、我々は君が刀を引き抜いたのだと思っていたのだけど……まあ良いか。』

『ビャッコ……良くはないでしょう、良くは。』

『今はそのような状況ではなさそうだが……』

『細かいのぅ、とにかく今は奴を……シキを助ける算段、それでもって先の攻撃の正体を特定しなくては……そうではないか?』


全くの実感が無かった。けれど、僕は、いつの間にか四神刀を手にしていた。……受け取った覚えは無し、というか、そもそも父さんが持っていたんじゃないのか……?細かい事はそれこそ今は追及すべきことじゃないのかもしれないけど、記憶に全くない事が起こってる、としか言えない。


「……この結界、本当に皆さまの結界だけですか?」


「え、グレープ?それどういう事?」


『剣の抜刀に合わせ、咄嗟に力を送り込んだわ。水流が覆って、熱で貴方達の傷を治せるようにし、風と大地の力で飛来した物を弾いているはず……』

『抜刀に合わせたのだろう?少なくとも、私は力を貸していないぞ。』

『そも片手で引き抜くのみでは、このスザクか、セイリュウの力しか行使出来ぬはずだ。』


「でも、たしかにこの結界は……。少なくとも四つ……五つは、力が使われているような……?」


「えぇ~、そんな事、ふつー出来っこないでしょ?」


『我もそう思うた。焔と清流を、合わせて使役することなど不可能であろうとな。だが、な、奴なら……シキなら、もしや可能性があるのかもしれぬ。』


というと?

訊くまでもなく、神様が続ける。


『奴を見ぃ。衝撃に巻き込まれたのだとして……あのように傷が無い事などあろうか?おそらく、奴はすんでのところで何か策に出た。この結界は、奴がすんでの所で編み出した妙案、以前共有した知識、二種、三種の能力を同時に剣に宿し振るう……あの、翡翠の様な力を扱ったのではないか?』


「自分から閉じ込められるような真似をするとは思えないですし……それに、攻撃はしっかり喰らっていたのは僕が、ちゃんと見ましたよ。」


口元に手を当てて、悩みながらも、同意してみる。思い返そうとしても、その記憶の前後の隙間だけが、すんと、暗転している。例えるなら、神を目の前にして、神隠しを喰らったとか、なんとなくそんな感じだ。だから、仮に難しい事だったとしても、今はとりあえず、彼がそういう判断をしたものだと思うしかない、と僕は思った。


『ただ……そうね、敵があの体勢を望んだ……という説もあるわ。』

『ふむ、セイリュウ。我はそれに同意しよう。我が今し方、亀ちゃんと蛇ちゃんを其方に送ったのだが……彼の姿勢はまるで、何かに抱えられ、運ばれたような姿だ。』

『……、なるほどね。たしかに、抱えられたというか、掴まれた?それも、あの感じだと、そもそもあの囲んでる結晶……アレ、なんか大きい手で捕えられているようにも見えるねー。』


「なる、ほど……。ともかく、成り行きではなく敵がわざわざそうしている、と。」


「まぁ、今までの二つで見るのが妥当かな。……一瞬、めちゃくちゃなお膳立てをしたシキに嵌められたのかと思ったけれど、流石にそんなことは無いかー。」


彼がそんな事をするわけはない、とレイバルさんに言ってやりたくなったけれど、彼女の気持ちも分からなくない。

手に握られている、あるいは何かに抱きかかえられているような彼の姿には、全くの傷は無いし、僕がここから見える限りなら、セルリアンに大切にされているようにだって見える。他のどんなセルリアンでもない、その歪な腕の姿と、ほの暗い、火山の底の底……。敵地の、影の王だと言われたって、なにも知らなかったら信じてしまいそうだ。


だからこそ、僕はお父さんを信じなくちゃ。


ふよふよと動くヘビとカメの姿が、暗い中で揺れる。それを見ながら、僕は父を信じる事を、もう一度念じた。


「行きましょう。お兄さんを助けなくちゃ。」


「ああ。そうだね。」


「パークのため、頑張るっきゃない!」


そうして、僕たちは……

結界を、一歩踏み越えて、踏み出した。








________







暗くて、深くて、より深い。

深淵っていうのはこういうのを言うんだろう。



「深い、ふち……ね。」


呟くように……一つ暗い世界の輪郭をなぞる。

それと同時に僕らに届く、静かで、不気味な声があった。


『ミライをカえるタメに、カコをカえていいのか?』


「……!?」


その声が響く瞬間、傍にひらりはらりと舞い降りて、脚を立てて、舞う。赤く染まった闇夜の飾り羽が、辺りを照らして、我々を舞うように煽る。


『ジブンがミライをカえたら、カえたくなかったコトまで、カわってしまうかもしれないぞ?』


「……な、なんの話ですか。」


『トボけるのか?』

『ジツは、カレのコウドウこそ、パークをスクっていたのかもしれないぞ?』


「それは…………」


僕に向けた言葉、それは意味深で、知った気になった感じの、セルリアンの言葉だ。脳裏に降り注ぐ闇夜の申し子、影に踊る過去からの使者。未来を伝う、現代の喜劇。

…………フウチョウ、という種族の事は知っていたけれど、まさかこんな形で初めて、見てしまうことになるなんて…………。全く、これを見ても喜劇と言う者は、きっとセルリアンに魅入られてる。


もしくは、僕みたいな、時代を飛び越えた者は?


「ネジュン!気にしちゃあ駄目だ。」

「性格悪いセルリアンだね~……なんのことかてんでさっぱりだけど、惑わされちゃだめだよ!」


僕に向けた言葉、それは意味深で、知った気になった感じの、セルリアンの言葉だった。未来で寝たままの父親、彼が下した行動が最適解だったという仮定、それを変えてしまうリスク…………。

すべて承知だ、僕はそれを承知だったつもりだ。それを承知で、過去のここで、生きている彼を、父を、それ以上に、この時代を相手している……その覚悟で、ここにいるという自覚がある。


はずだったのに。


「……っ、」


一瞬、たじろいでしまった。

隙を、見せてしまったんだ。


『モラッた!』


しまった。


そう口に出すよりも早く行われた、相手による勝利宣言。夜に輝くは、赤色の煌々とした星々。


「ぐぁ……!」


吹き飛ばされ、地面に体を叩きつけられる。衝撃は体に伝わった。

その無限のような一瞬から、黒い地面に身体が接触するまでのわずか数コンマの間に、もう一度様々を想起した。

過ちを?いいや、おそらく正解だった事も含めての行動を全てだ。


「いっ……」

「大丈夫!?」


「たく、無かったな……?」


掛けられる声に、すぐ気づいて、敵を見据えるように、立ち上がる。それはごくごく自然な形で、相手を見つめる事が出来た。全く、何も喰らわなかったように。


「なん、で?」


『よそミはヨくないぞ?』


飛んでくる、影のうちのひとつ。周りの仲間を狙う気配が無い辺り、狙いは僕?もしくは、持っている刀の方か…………。ん?刀?


「ッ!っと、あぶない。」


そういえば、僕が今使えてる、んだっけ?


『……!?やるナ。』


敵の攻撃が、一瞬心が澄んだみたいになって、止まって見えた。なんと表現してやればいいのか…………例えるならそう、さっきも感じた、一瞬が永遠になる?というような感覚?層流、とか言うアレかな。水のようで、流れるのが、止まって見えるけれど、でも、時間は進んでいる。


「あのクッション的な感覚、……今の瞬間的にきた永遠のような感覚…………ってなると、まさか!」


『ボサっとしてないで、戦うわよ。』


「やっぱり、セイリュウ様……!」


『……貴女がね、どんな存在かなんて私たちにはどうでもいいの。けれど、このままセルリアンに一杯食わされたままじゃあ、嫌でしょう?』


「そんな言い方は無いじゃないですかあ 。でも、僕もそう思います。なんとしても突破しなくちゃあ!」


『なら凛としなくちゃ。使えるとは、『操れる』とは違うのだから……いい?水の流れは運命、凛として、それを自ら定めるのよ。出来るわね?』


「やってみせましょうッ!」


僕には、未来から来たという事実があって、いまここにいる運命があって、それと付き合っていく必要があって、今はお父さんのために戦わなくちゃいけないという何よりも大きな目的がある!


やってみせる?


やるしかない!


「僕を通してもらう!」


『……ヤれるのなら!』

『やっテみるとイイ!』


飛びかかってくる影右より来たりて、

大地掠めるように滑る影左より舞う、


僕の眼中に、


既にある!


「切り払うッ!」


構えを取って待ち構え、納刀された刀をするりと抜く。無理のない力を乗せて、けれど剣に、瀑布を強く乗せて!


「挟み込もうったって、そうはいかないぞ!」


『ちぃッ』

『いっペンにタイショしてくるなんテ……!』


しかし、こんなサラッと使えるものなのか?僕が天才少女すぎて困ってしまうと思ったり、いやでも普通に考えて、自分でやっといてなんだけど、適応がちょっと早くない?


「やっぱ僕って天才少女か。」


『あら天才少女さん、だったら私のお手伝いなしで戦ってみる?』

「え、」

『向こうは二人、こっちは向こうで湧いてきた雑魚の相手をしているお仲間二人を除けば残り一人と『一振り』、どう?やってみる?』

「……失礼しましたー。」


お父さんが使えてる理由も含めて、僕なりにまとめると…………知らず知らずにアシストを受けてたってことになるのか。刀は使えても、操れるようにならなくちゃならない……とは、つまりはそういう事?僕の意思で、そのアシストを呼び出せるような動きが出来れば完璧ってとこ?

向こうで知らず知らずに始まっていたザコ戦の負担を減らすためにも、とっとと突破しなくちゃ!


『わかればよろしい。さあ、まだ来るわよ!』


この感じは、右かな?


「ふっ!」


振って、切り払ったと思って、そちらを見て見ると、けれど霧を払い除けただけだった。


『ワタシたちも、そこまでアマくないぞ!』


『幻影ね……厄介なことを。』


二体が増えて、いくつになった?ちらっと見ると、グレープさんたちの方にも現れている。一瞬手応えがあった辺り、鋭いもので風船みたいなものを触って、割ってしまってる……って言えばいいのだろうか?



「どうしたものか……」


『とことん面倒だわ。一網打尽というのはどう?』


性格的に、多分お父さんと相性が一番いい四神の一柱はこのセイリュウさまだと思う……。片手に剣を持つスタイルもそうだが、シンプルに物言いがそっくりだ……。


「でも、一騎当千なんて……」


『いい?私は水の神でもあるの。水鉄砲から、ここを水浸しにするのだってお手の物。貴女は……あの人間と違って自分で使えるものがあるでしょう?幻影は、言ってしまえばサンドスターがたくさん集まって見えているだけで、切った気になってるのはそのツブツブを剣が叩き割いた時の感触よ……ああ、あと時に……不純物が多いと脆くなるのは、なんでも同じ、だそうよ。』


……まわりくどいな、はっきり「氷を使えばいい」と言えばいいものを……。セイリュウさまー?それだと、相手によっては曲解しかねませんけどー?大丈夫そうですかねー?


ともかく。



「じゃあ、レイバルおねーさん!手伝って欲しいんですけど!」


「はいにゃーっ!対処しながらだけどきーてるよ!」


「ネクストフリーズを使ってください!周りがカチンコチンになっちゃうくらいに、ひんやりしてください!」


氷。それは僕、つまり天才ガールなネジュンちゃんでも使える力。母親譲りの力と、父親譲りのセンス……だよ!天才だから刀片手に棒で氷も使っちゃうのさ!


「合点承知!グレープもほら、ついでだし分けてあげるから使って!」


「みんなでカチコチになっちゃう……の?ん、いや違うな、何となく把握した、このまま!っとい、消耗を避けつつ、冷気を振りまけって事ね……!僕寒いの苦手なんだけど!」


グレープさんは相変わらず、読みが鋭いな。なんて僕が思うのは勝手として、集中しなくてはいけないのは目の前。神様の想いを実現する……つまり、(かなりわかりにくい内容の)神託を授かった僕がやるべきことは…………。


「セイリュウさま!よろしくです!」

『ええ、いいわ。霧雨の構えっ!』


その場で、セルリアンの幻影を払い飛ばすように刀を持ってぐりん一回転。霧のように、周囲へと水滴を散らす。悲惨な事が起こる前に、飛散していく細かい粒を放つ。そうしたら、この状況で出来上がるのは何か……流石にさ、察しが悪くても気付くでしょ?


『コレは……!』


「凍ってくんだよ。」


動きの鈍る幻影たち、分身体に見えたそれの正体は、実のところなんて事のないサンドスターの集合した「雲」のようなもの。水と氷の小さな粒の集合体から雨や雪が降ってくる。でも、敵さんは、それより考えた方がいい事があるかも?


「ホイっ!すごーい!こんな簡単に割れる氷になるなんて!」


「それは君の氷が硬すぎるだけじゃないか?でも、これならかなり楽に、対処できるね。」


僕はこの刀を操ることが出来て、この刀に今宿っている神様は、好きに水を操ることが出来る。それは、地上版の雲、つまり霧のようにしてばら撒いた水を、敵の惑わしに上手く寄せて集め、低すぎな温度といっしょに固めてしまうことが出来る事を意味していた。集められた水で出来た氷は、奴らという不純物を含んでいて、かなり脆い。


『それに、凍ってしまうのは幻影さんだけじゃないもの。ねぇ?』


『クッ、ツバサが上手くウゴカない!』

『ヨゾラ色が、白く染まって目立ってしまう……!』


「そこまで見越してたんですか?セイリュウさま。」

『当然。さぁ、このまま倒すの。出来る?』


出来るかどうか?


ちがうね、やるんですよ。



「レイバルさん!そっちからで!」


「はいはーいっ!」


僕がここに居る理由は、

この闇夜の最中のような、

火山の底の底から、

運命の玉座に座るその闇を!


「グレープさん、これ預けるので使ってください!」


「棒ね!承ったよレディ!」


彼がここに居る理由は、

この楽園の中央のような、

火山の外の空から、

闇夜の巨塔に眠るその敵を!


…………ねえ、そうでしょ?


「滅する為ッ!たぁッ!」


右から展開して、黄色い光を漏らすような鳥に、凍り付くような爪を突き立てる彼女の姿と、左から飛び込んで、水色の光を漏らすような鳥に、突き刺さるほどに硬い直線を突きつける彼の姿に、未来の似姿を感じながら。僕は、退路を失いよろけぶつかった黒いセルリアン二体に向かって、ただただ鋭い、鋭利な青をブチあてた。


『征龍の構え、よ。』


静かな声が耳を触る。


セルリアンが僕の父を征した気でいるのなら、

僕が!!!


僕が、反逆してやる!



『『グワァァァっ!?』』


「よっし。」

『若干装甲が硬いようだけど……もうかなりの手負いね。』


暗い暗い底の底。そこで横たわるセルリアン二体。こちらをじろりと睨みつけてくるが、それにもはや生気と勝機は無かった。僕を見る目は、恨みと、痛みのまじりあったようなもので、濁ったような赤の目が、静かな怒りを湛えている。


でも、怒りを抱いてるのは僕だって同じだ。そういう意味合いでは、僕はこいつらと同類なのかもしれない。こいつらだってたぶん、セルリアンという大きなくくりの中で、共有された敵意みたいなものに従っているはずだ。僕の行動に揺さぶりをかけたのも、根底にはそういう理由があるのだと思う。


「あの結晶に包まれた彼をああしたのは貴方達でしょう。さぁ、あの人間さんを解放してもらいましょうか。」


だが、それはそれとして、怒りの留まるところではない。これは運命にも似た、それへの反逆にも似た怒りだ。僕が言えるセリフに限りはある。それは、生きているモノ皆が直面する限界だ。時間に限りがあって、僕は怒りという感情に支配されて、聞くべきでもない相手に、こんなことを言うのだ。


『ワタシたちは……』

『……コレも、"決まってる事"ナノか?ワタシたちの"オウチ"の為なのか?はるかのトオイ昔から、そうなるって、決まってるコトだからなのか…………?』


「え、何を?……ッ!?」


『離れて!』


再びの、地鳴りのような音が響いた。僕がいる地面は揺れた、仲間の二人は、僕に似てその揺れに翻弄されている。セルリアンの方に目を向けると……先ほどまでそこに居たはずの二つの影が無くなっていた。


『ウワァァァァァ!?』


その居場所を探すと、敵の姿と地鳴りの正体とが線で結ばれた。


「握られてる!?この壁の結晶だと思ってたのって、やっぱりセルリアンだったのか!?」


それは、父を…………彼をまるで心臓と捉えたかのように両方に突き出した壁だった。大きな大きな怪物が、僕の前に壁として文字通り立ちはだかっていた。楽園の英雄を握る腕のようだと比喩したものは、今はまるで肋骨に見える。未だ目を閉じたままの彼を、檻に閉じ込めるみたいで……。


『…………早いな。しかし、ここまで歴史が変わっていたとは!』


低く唸る声がした。それは地鳴りそっくりで。

叫ぶフレンズの姿をまねたセルリアンは見る見るうちにその身体へと吸収されて……つまり、食べられていく。そんな大きな壁のような奴は、圧政を敷く、「王様」のようで。


『しかし、今やこやつもワタシの"うち"よ……忌々しい、この血を持つ者どもめ!』


「大きなセルリアンが、喋ってる……!」

「な、なにコイツ!?」


困惑、驚愕、不安、恐怖。一瞬のうちに、心臓の奥からいろんな感情が漏れ出して、僕の脚を掴むようだ。挑もうとする気持ちを隠すみたいに、僕の身体を掴む。僕が掴んだ刀から漏れ出した声は、この大きな姿が何なのか、知っているようだった。



『奴は…………』『まさか……』

『なんじゃと…………!』




『…………ダイオウ!』


栄「華」が、復活を遂げた様に見えた。

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カミヒトエの色 タコ君 @takokun

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