@apfelnehme

第1話

その赤い列車の出発瞬前で間に合った。息をつく暇もないまま、私は赤い列車に飲み込まれた彼女の元へ向かったのだ。

嗚呼、彼女はどう思うだろうか。弱虫で貧弱、小心者で更には下戸である私が彼女の傍に寄り添うことを良しとしてくれるだろうか。憂苦する自分が何とも情けない。

三番車両に乗り込んだ私は、彼女を見つけるために赤太い蛇の腹の中を奥へ奥へと歩き続けた。嗚呼、嗚呼、彼女だ。彼女を見つけた。八番車両で、白のワンピースを纏った彼女が珍妙な形状の窓に凭れ掛かりながら、流れる風景をぼんやりと見つめていた。私はすかさず、彼女の目の前にある緑の椅子に腰を下ろしてこう言ったのだ。

「貴女様が私を轢き殺してくださるまで、私はげこげこ聲を上げながら、貴女様に寄り添いましょう」。

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