第4話 適合

第4話 適合


 全速力で走ってビルの路地に逃げ込んだ二人は、声を出して大笑いをした。ハウは文字通り屈んでお腹を抱えて笑い、ハウも立ったまま手を口に当てて、くくっと声を出して笑っていた。

 到着したカフェの入口では優男のウェイターが、まるでメニューを見せるように、実行するべきオーダーを二人に渡した。口調が余りに自然だったので、書かれた内容とウェイターを二度見してしまう。

 メニューにはまさしくメニューのようなレイアウトで、

【左手裏の従業員位置口から入って、用意された衣装に着替え、5分以内にカフェに居るストライプのスーツの男性のスマートフォンを取り上げ、マルウェアに感染させよ。端末のロックナンバーはドローンでチェック済み。1103。マルウェアは下記のQRコードより入手のこと。なお、これは幹部職員研修で事前に通知されている抜き打ちテストとして行われる。】

と書かれていた。

 衣装には学生服もあったが、パトロはともかくハウにはあきらかに似合わないので、やや浮きすぎず、しかし体型の分かりやすい衣装を選択する。一人が気を引き、もう一人がその隙に実行するシナリオにしたが、ハウが驚いたのは、パトロが気を引く役やると主張したことだ。ここまでの行動で、パトロがアバター操作のわずかな通信タイムラグを差し引いても、それをかなり使いこなしていることを理解していたので、ハウはその選択に乗った。

 実際、パトロは見事それをやり遂げた。躓いて飲み物ごと相手に突っ込み、下から目線で視線誘導すると、急いで処置しないとシミになると言って、男性を手洗いに引っ張っていった。タイムラグを見越して動かすテクニックは、はたから見るとおっとりとしたようにしか見えなかった。

二人が手洗いの方に消えると、ハウはテーブルに座り、インカメラに紙ナプキンをかませて親指で塞ぎ、さも自分のスマホをいじるかのように操作、途中トラップになりそうなものが仕込まれていないか、現在のOSのタイムスタンプが十分古いかを確認しつつ、指示通り感染させる。その後スマホをロックして指紋を拭き取り手際よく元の場所に置いた。

 パトロと男が戻ってくると「もう時間が」とパトロを急かし、愛想良く挨拶をし、二人で足早に出口に向かう。途中ウェイターがハウたちだけに見えるようにVサインを出しているのと確認して、店を出ると全力ダッシュで逃げたのだった。

 落ち着くとパトロが

「なんか食べよう。おなか好いちゃったし。」

 という。それがあまりに自然だったので、ハウはそのまま「うん!」と返事をしたが、彼女がアバターである事を思いだし、しまったという顔になる。

「大丈夫。私も向こうで食べるから。」

 パトロは屈託がない顔でそう言った。その笑顔に、ハウは気の置けない友だちのような錯覚を得た。あまりそういう経験は無かったのだが。あるいは感情をハックされているのかなと少しだけ思う。

 バッグからHUDを取り出して付け直すと、二人は「そうできる場所」を探して歩き出した。


「えっ。それって、向こうでは本当に食べながら、同時にBMIでアバターをに動かしてるの?」

ハウの驚く声と姿が暗い部屋のモニターに映し出されている。その前に立ちながら、秋尾はタブレットに表示されたハウの経歴書を見ていた。

 

 本名:白井美波(しらいみなみ)25歳

 出身:長野県松本市

 所属:海上保安庁 第3管区新羽田特殊警備基地、第9特殊警備隊所属。二等海上保安士

 経歴:帰化した米国人夫婦の元、長野に生まれる。日本国籍。米国の国籍なし。8歳で両親と共に交通事故に遭い、両親は他界。本人は頸椎損傷による全身麻痺となる。両親と交友があった医師に引き取られ、長野県蓼科仙郷高原病院に入院、療養。その後IPS細胞による神経再生術が普及したことで、これを受けて手術は成功し身体機能を回復する。(任官時の診断書より)

学校には通わず、独学で高校卒業資格を取り、18歳で海上保安学校に入学。リハビリで行っていた剣道、および潜水に適性を示す。救難強化巡視船の潜水チームを経て、4年後、所属長の推薦によりSST研修に。のちこれに合格し、新設された第3管区新羽田特殊警備基地、第9特殊警備隊に配属。現在に至る。入学当初より取得していたスキルにより、新羽田特殊警備基地サイバー攻撃対処CSIRTチーム。作戦行動時における独断専行による謹慎歴あり。


期待はしていなかったが、白井の存在感に関してと、緩徐のモチベーションに関する答えが得られず頭をかく。秋尾は表示をスクロールして備考欄に鍵付きの所見があることに気づき、これを権限で解除する。


備考:普段は愛嬌や協調性があり、隊員達の中でもかわいがられる存在であるが、過去に2回不審船への制圧作戦行動中、独断専行し、単独で制圧任務を遂行してしまったことがある。その時から付けられた名前は「ブラック・ドッグ」。独断専行を行う「引き金」は不明。そのような傾向は本来であれば、特殊警備隊員を辞するべき事由であるが、基地長による「白井が先行しているのではなく、他の隊員が白井についていけていない」とする考えに従い、謹慎処分のみとされた。現状、白井の能力を十分に引き出せるバディは不在。剣道と潜水に異能を持ち、制圧時にはパワードスーツと特殊電磁警棒の使用を好み、潜水は勤務外、そして非公式ながらフリーダイビングにおける日本記録保持者にその能力が並ぶ。また嗅覚・聴覚が著しくよく、本人の弁から推測するに、共感覚を持っていると思われる。脳科学の専門家に寄れば、これらは神経再生術の結果脳の使用部位が一般人と異なるかたちになった故と推定される。なお脳波形状が特殊なため専用のBMIを必要とするものの、BMIを用い新規に接続する機器のほぼ全てを即座に掌握する。著しく順応性が高い特殊な脳構造をしていると思われる。独学で学んだと思われるサイバーセキュリティ・ハッキング・プログラミングに関する能力にも著しく長けており、現状海上保安庁にはその必要性の低さからサイバー攻撃に対処する常設部署はないが、緊急時の対処チームのメンバーとなっている。なお海上保安官を目指した理由は「海で探すものがある」とのことであるが、おそらくそれは救助を行う使命感とはことなると考える。

第9特殊警備隊隊長 二等海上保安正 敷島保


「所感見たかい?」

暗い部屋の奥の扉が開いて、背広の男が入ってきた。その扉から街の喧騒も入り込んできて、この場所が、道路上に駐車された偽装トレーラーの移動作戦司令室であること思い出す。逆光で顔が見えない男が、名刺を投げるようなジェスチャーをすると、秋尾のARグラスに身分証明カードが表示された。秋尾が瞬間で背筋を伸ばし敬礼する。

「初めまして!椎名副本部長!」

 書類の上では知っているが遭うのは初めてである。秋尾の上司に当たる形になる、警視庁

サイバーセキュリティ対策本部の副本部長だ。

「やめようよ。背広なんだから。それに僕等が所属する内閣官房は、色んな省庁のごった煮だから、ビシッって感じじゃないんだぜ。お互い親元離れて羽根伸ばそうよ。」

 そういうと、片方の手をポケットに突っ込んだまま、手をひらひらとさせて、秋尾の前を通りすぎ、ハウとパトロが写っているモニターの前に来た。

「で、そいつを引っ張ろうとしている理由、分かったかい?」

 首だけを後ろに折って、秋尾の方を見る。秋尾は白井が残るべくして残ったのだと認識する。

「あるいは、なぜSATチームの編成が遅れているか…」

 秋尾はその理由を容易に想像出来た。その当事者でもあるからだ。

「…ナイトアーマーですか?」

「そのとーり!」

 椎名が自分の手で太ももをパンとたたいて、近くにあった椅子を回転させ、座った。40代後半の、渋く、そして身なりもしっかりしているが、ややくたびれが漂う顔つきだった。

「産総研が作ったその変態パワードスーツは、日本の特殊部隊員多しといえど、今現在、一人しかまともに使える奴がぁいない。作った産総研もいないってんだから、こりゃわらっちゃうよね。」

 膝をバンバンと叩いて、声を上げて笑う。その口調とリズムはまるで、なにかのたたき売りを見ているようだ。その一人とはドールのことであり、ドールは産総研にテストスタッフとして多大なる貸しがある。またそうであるが故に、秋尾の手元には予算にも台帳にも計上されていない、そのオーパーツとも言える機材が、テストという目的で存在する。ただし、適合者が一人だけであるが故に、ツーマンセルを組めず、実戦への投入もできずにいるのだ。

「別にサッチョーがこの話に乗り気じゃないわけじゃないよ。僕が腕利きのハッカーチームを引き連れてきたり、所轄とのパイプもきちんと作ってあるとおり。そして、いざという時は稲妻角さんに印籠出してもらえばほとんどの役人はよい子になるしねぇ。でもSATはそれを本来ならばまず本業で使いたい。少なくとも同時。かといって僕等には彼らのシンデレラの儀式を待ってあげられる時間も無いんだよ。その間にもエレクトロワールドの盗賊達は、ドアを叩いて回っている訳だしね。」

 上半身を椅子の奥に沈めて、スーツの前ボタンを外して足を組む。

「今日これから、警視庁が、羽田近くの港湾管理会社の自社サーバーに、勝手に盗んだデータをため込んでいる悪い奴を釣り上げに行くんだ。君の部隊も初陣といこうよ。そしてもし彼女が、今ここで起動テストに合格してシンクロできたら、彼女メインでいってみよう。知りたいんだろう、彼女のデータじゃあないスペック。海保にも頼むことがあって、合同作戦にしてあるよぅ。」

 そう言って、椎名は後ろにあるモニターの中のハウを指さした。そう、確かに知りたい。パワードスーツを使いこなせる人間がいるかもそうだが、それがドールに見あうかどうかも。そしてハウが選抜に現れた事も含め、明らかに椎名は状況を整えすぎている。この新たな上司の誘いが、自分をはめる事が目的でないならば、癖はあってもおそらく自分と意図は同じだ。秋尾は意を決した。

「了解しました。」

「そういうと思った!」

椎名は大げさな仕草で秋尾を指さした。そして背もたれの反動を使って立ち上がり、胸ポケットから薄型のARグラスを出すと装着して、室内の大型のロッカーのようなスペースに近寄ると、認証してそれを開けた。

「ちゃんと積んであるしな!」

 秋尾はその中に、いつもの大型のトランク状のものを見つけ、それが積み込まれていたことを知る。ただし黒いケースに印字された番号はドールのそれとは異なっていた。

椎名はARグラスのつるを叩き、「白井美波に政府秘匿回線通話、オンフック」という。一秒ほどでモニターの中のハウが怪訝そうな顔をして、口を「通話」の形に動かす。

「ああ、白井君、この研修を運営している内閣官房情報セキュリティ室の椎名です。」

政府秘匿回線は通話時に身分証が表示される。その為ハウは通話の相手が誰で、階級は何かをすぐに認識する。背筋が伸びる。ハウの映像の口元は動かないが、BMIを使った音声が返ってきた。」

「はい。白井であります。」

「堅くならなくて良いよぅ。ちょっとお願いしたい事があってねぇ、君から見て背中のあたりに止まっている貨物のトレーラーがあるでしょ。」

ハウは目線を自分の目の前にある、喫茶店のガラスに向ける。

「そこに来てくれないかなぁ。」

「同じ研修を受けている同行者がおりますが、いかがいたしますか?」

「一緒に来て下さい。よろしくぅ。」

 そう言って椎名は通話を切った。ハウはなにかパトロに説明すると、二人は手早く荷物をまとめて動き出した。

「椎名副本部長。」

「堅いから『さん』でいいよぉ。」

「では、椎名さん。もし脳波がシンクロできなかったらいかがしますか?」

「まだ堅いなぁ。アニメや映画じゃないんだから、動かないだけでしょ。心配ないない。そうなってるよね。」

 なるほど、無茶やでたらめや功名心じゃなく、この人はこいつのコードがどうなっているか知っているんだなと秋尾は理解した。

「まぁ、それと実戦で使えるかどうかは別だけどねぇ。」

 ドアが開き、「いらっしゃいました」という男性の声がして、ハウとパトロが入ってきた。

「ようこそぉ。椎名ですぅ。僕、警視庁のサイバー事案の担当もしていてね、これから一件、羽田地区でうちの仕切りの捕り物があるのよ。」

ハウは先ほどまでのパトロと居たときの雰囲気と異なる。近寄ってくる際に居最初に秋尾を見て気付いた後、不動で眼光鋭く椎名を見ている。

「で、これ海に逃がさないように海保とも連携作戦になってるんだけど、サイバーにも詳しくて、面白いものも使えて、手伝ってくれる人はいないかなぁ。」

「面白いものとは?」

「君が好きなもの。」

そういって椎名は黒い箱、バスガイドのような仕草で指し示した。そして小さく首をかしげる。

「いつもつかっているもの?」

椎名のおどけた仕草に答えず、ハウは質問をする。

「通話してよろしいですか?」

「どうぞぉ。」

「秘匿回線通話、隊長、スピーカー。」

ハウは椎名から視線を逸らさぬまま、BMIをリズムを持っていくつかの指で叩くと、そう声に出して言った。コールが数回鳴って相手が出る。

「隊長、内閣官房の椎名」

「話は通ってる。後でチームも作戦に参加する。」

「では、私のトライデント、後ほど指定する場所に…」

「分かった。」

 ブツリと音がして通話が切れると、ハウは即座に答えた。

「やります!」

「そうこなくっちゃ!」

 椎名はハウを指さしてそう答えた。ハウは反応せず、所在なげに立っていたパトロの方を見て椎名に尋ねた。

「彼女はどうしますか?」

「もちろん参加してもらうよぉ。これは研修の一環だからねぇ。」

「分かりました。」

 ハウはパトロの方に向き直って、

「何かあったら私が守るからね!」

 と言った。両手を胸の前で握っていたパトロはそれ頷く。


作戦指揮車の一部の扉を横から起こし、後部を隔離して準備をする。

「これどうすれば使えるようになるんですか?!」

「たぶん起動プロセスのダイアログを見ながらやっていると思うけど、起動ワードを音声認識でセットしたら、賢い機械だからあとはほぼ自動だ!」

 壁越しなのでハウの声しか分からず、秋尾はタブレットでマニュアルを見ながら指示をする。パトロが手伝っているようで、手こずってはいない。

「起動ワードはなにを?!」

「ONでも蒸着でも変身でもメタモルフォーゼでも、好きなものでいい!」

 壁の向こうに届くように少し大きな声で言う。数秒の間があって、ハウが返事をする。

「じょうちゃく……ってなんですか?」

「スマン!マニアでごめんよ!」

 秋尾のせりふに椎名が声を押し殺して笑う。

「ようは好きな言葉でいいんですね!わかりました!」

BMIを使った入力をしたようで、十数秒すると機材の起動音と、また数秒後にブン、ブンと鋭く風を切り裂く音がした。パトロであろう小さな音で拍手が聞こえる。

 椎名は秋尾の方を見て、胸の前で両手を開き、おどけるような仕草をこう言った。

「じゃあ行こうかぁ。」

 続いて、右手の指を揃えて、顔のやや前で縦に振り下ろす動作をした。

 移動指揮車は湾岸に向けて移動を開始した。


「秋尾君の部隊は全員つながったな。ギーク隊ハッカーチーム、準備はできているかい。」

「INしてますよ。済です。」

「警視庁、神流川県警、そしてSSTの第9チームもつながっているね。全員揃った所で、作戦概要を説明する。今回ウチのネタ元なのでウチのしきりなのと、新チームが開業準備中なので私の方で説明させてもらう。」

 椎名は先ほどと違い、外部向けの顔をして説明を始める。指揮車の中にはARで各チームの主要メンバーが画面で浮かぶ。

 椎名が自分の立っている場所の後方に地図を展開した。

「5年前に、我が国も、データナショナリズムの高まりと、過度のネット匿名性の排除要望、対サイバー攻撃の目的での国家的フィアウォール【アマノイワト】の導入などにより、海外からの国家、あるいは民間ブラックハッカーによるデータの詐取は比較的困難になったのだが、その代わりに国内で盗み、どこかに溜めて、物理メディアで運び出すという犯罪形態が顕在化した。これもこのタイプの犯罪だ。そしてこのメンバーが首を揃えている理由は、ワーストケースを考えると敵対的国家による物理攻撃もあり得るからだ。」

 画面の中の幾人かの顔が引きしまる。

 「作戦ポイントは4つ。ポイントAは詐取されたデータが保管されている港湾管理会社社屋。この中にある自社サーバーがデータの保管場所だ。ポイントB、大田区にある奴らが根城している偽装企業。事前に監視し続けた結果、最大で構成員は6名。ポイントC、横浜の八景島ヨットハーバー。ポイントBから外出したリーダーとおぼしき人物一名の現在地。ポイントDは新羽田空港沖海上偽装貨物船およびその周辺海域。ポイントAからの脱出経路として海上を選択した場合の封鎖、及び、一連の活動に関わる偽装貨物船の臨検。」

 続いてメンバー、および活動するチームのアイコンを用意し割り振る。

「警視庁サイバーセキュリティ対策本部より電力交通関係企業に協力要請を出し、現在作戦行動に必要な電力インフラ、道路施設、カメラなどの掌握済み。偽装企業をあぶり出すために、作戦開始と共にギーク隊により該当地区停電と回線の遮断を行う。電源は復旧させるが、通信機器が壊れてつながらないというシナリオで行く。それによってポイントBより最大2名の人間がポイントAに向かうと思われる。白井他一名は港湾会社サーバールーム周辺で、事務員に扮して待機。秋尾隊長は現場指揮。秋尾隊の残りの人員は、スナイパーとスポッター兼現場での索敵と周辺監視、必要に応じたスナイプのよる白井のアシスト。そしてECMを使われた場合のバックアップ回線の形成に2名。敷地入口で不要な追撃を排除するために1名。警視庁チームと協力して当たれ。侵入者が物理的破壊高度を起こした段階で確保。ポイントBには秋尾隊から2名。ポイントAへの後続による物理的介入があるようであれば、機動隊共にこれを阻止。無い場合でもポイントAでの戦闘開始と共に機動隊は突入。制圧せよ。ポイントCにも秋尾隊から2名。途中で神奈川県警と合流し、さらに現地に派遣されて監視を行っているギーク隊と合流。指示があった時点で身柄を抑える。ポイントDはSST第9チーム。こちらもポイントAでの戦闘開始と共に偽装貨物船へ突入し臨検。また同時に海上からポイントAに近づく、全てを海上海中問わず阻止せよ。」

「了解!」

 全員から野太い声で返される。

「詳しい作戦要綱と、各ポイントで必要な資料は配布する。ギーク隊によるリアルタイムの情報は中継する。作戦行動用の暗号コードブックは、各ポイントに向かうギーク隊から受け取るように。作戦行動開始時点より使用。では準備、かかれ!」

「了解!」

再び野太い声が響いた。作戦会議が終了すると、通信を切って、ゆるい雰囲気に戻った椎名が秋尾に告げた。

「君の隊の誰を何処に振るかは任せるよぅ。」

椎名はそう言ったが、今の人数と状況の割り振りを考えると、椎名が隊のメンバーの能力を熟知して、割り当てているのは明らかだった。

「それから秋尾君。なるべく現場では手を出さないねぇ。」

椎名はそう言ってにやっとした。スペックを見るためだと理解する。そしてスペックを見られるのはハウだけでなく、自分たちもなのだと実感する。だが今はそれをどうこう言うべき時でもないし、必要以上に、そして意図的に危険にさらされているわけでもない。秋尾は頭をぶんと一度降って、メンバー用の回線をONにする。人型のアイコンが目の前にずらりとならぶ。

「聞いているか?」

「はい!」

 全員が答える。

「スピア、対岸から港湾会社ビルの三階にあるサーバールームが見える位置を取れ。ファルコンはバードドローンを使っていつもの対応とスポッターだ。」

「了っ解い〜」「分かりました」

「ハッパー。PKOでさんざん待ち伏せされた経験を生かして、命令があれば排除できるように準備しろ。死なない程度に手加減しろよ。」

「了解でーす。やったー。」

「タクシー・ギャルソン、追跡用の『当ててもいい足の速い車』を手配してポイントB。ポイントBからAのルートを確認しろ。椎名副本部長の言い回しと機動隊がいるっていうのが気にかかる。会社自体が海外勢力の拠点なら、武器もあれば逃走手段もあるはずだ。テロリストの拠点制圧と同レベル装備でいけ。ベースから追加の機材は回させる。」

「いやぁ、楽しそうですねぇ。了解!」「了解」

「バトラー、コング、ポイントCへ。身柄拘束時に穏便かつ確実にやるならバトラー、現地人交渉と同じだ。それなりの格好でいけ。コングは身柄拘束要員。」

「アラブ人になりきったことはありますが日本人ですか…、了解しました。」「オス!」

「警視庁のハッカーチームが参加している以上、おそらく必要は無いが、ハックキングは必ずバディをスポッターに記録しておけ!お漏らしすると、免責にならないぞ!パーフェクトで行く!いいか?!」

「了解!」

全員がシンクロする。話を聞いていたハウがパトロの耳元で問いかける。

「パトロ、政府認定ハッカーの資格持ってる?」

パトロはハウを見上げてから頷いた。

「…うん。持ってる。」

「じゃあサイバースポッターやったことある?」

パトロはもう一つ頷いた。

「…うん。」

「ラッキー!じゃあ、あとでお願いしていい?」

「…分かった。準備しておくね。」

「ありがとう!」

ハウは小さくガッツポーズした。

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