正位置と逆位置で微妙に意味合いが変じていくタロットカードさながらに、ここに描かれる愛と憎しみは、表裏と呼ぶにはあまりに縺れ絡み合い、容易く上下が入れ替わってしまうほどに似通っています。
心の内面に溢れていく、そんな愛≒毒が丹念に表現され、心理ドラマとしても見事な出来栄えだと思います。
奇を衒わず、抑揚の利いた展開も好感触です。
刺激が欲しくなるとどうしてもストーリーを力業で動かしたくなり、結果どこかに無理や齟齬が生じてしまいがちなのですが、この作品にはそれが全くありません。着地点もこれ以外ない、素晴らしいラストだと思いました。
読みやすい上に大人でも楽しめる、ほろ苦いエンターテインメントです。