―――


 私はおもむろにソファーから立つと、蒼井さんの方に歩いていく。彼は最初気づいていなかったようだったが、気配に気づくとソファーの上で身じろぎしたようだった。


「ねぇ、蒼井さん?私の事、愛してるってホント?」

「あ、あぁ……」

 私の突然のセリフに、蒼井さんが動揺するのがわかった。

 構わずゆっくり近付いていく。


「答えてください。」

「…本当だ。」

「いつから?」

「初めて逢った時から。」

「……そう。」


『初めて逢った時から』


 その響きに気を良くした私は、更に近付いた。

「蘭の事は?好きじゃなかった?」

「蘭ちゃん?彼女は患者だ。医者と患者として接していただけだ。」

「ふ~ん。でもあの頃の先生は、私とはあまり話さなかったよね。私はもっといっぱい先生と話したかったのに。」

「ゆ、百合?」

 蒼井さんの慌てた声に私は動きを止めた。

 私たちの唇の距離は、ほんの数センチ。

 吐息さえも邪魔くさくて、息を止めたまま彼の唇に自分の唇を触れさせた。


「もしかして、照れてただけ……だったりして?」

「………」

 何も言わない蒼井さんに、何故だか笑いが込み上げてきた。

「ふふ。蒼井さんって意外と純粋なんですね。」

「…君こそ、意外と大胆だ。」

「報われないと思ってたんですよ?だから封印した。そしてこの間まで忘れていたんです。私の初恋。」

 もう少し近付いて、蒼井さんをソファーに押し倒す。


「私たちの空白の時間、埋めてください。今日は蘭の事も母の事も、全部忘れたい…」

「百合……」

 ブラウスのボタンをこれ見よがしにゆっくり外していく。彼の喉が僅かに動くのを目の端で確かめた。


 こんな大胆な事をするだなんて、本当にどうかしている。男性経験などほとんどないに等しいのに。誇れるような身体など持ち合わせていないのに。


 誘っている。ずっと想っていた彼を。

 求めている。ずっと忘れていた彼を。


「蒼井さん……好きです…」


 すがりついた私の体を強引にひっくり返した蒼井さんは、そのまま深く口づけた……



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