Ⅱ
―――
私はおもむろにソファーから立つと、蒼井さんの方に歩いていく。彼は最初気づいていなかったようだったが、気配に気づくとソファーの上で身じろぎしたようだった。
「ねぇ、蒼井さん?私の事、愛してるってホント?」
「あ、あぁ……」
私の突然のセリフに、蒼井さんが動揺するのがわかった。
構わずゆっくり近付いていく。
「答えてください。」
「…本当だ。」
「いつから?」
「初めて逢った時から。」
「……そう。」
『初めて逢った時から』
その響きに気を良くした私は、更に近付いた。
「蘭の事は?好きじゃなかった?」
「蘭ちゃん?彼女は患者だ。医者と患者として接していただけだ。」
「ふ~ん。でもあの頃の先生は、私とはあまり話さなかったよね。私はもっといっぱい先生と話したかったのに。」
「ゆ、百合?」
蒼井さんの慌てた声に私は動きを止めた。
私たちの唇の距離は、ほんの数センチ。
吐息さえも邪魔くさくて、息を止めたまま彼の唇に自分の唇を触れさせた。
「もしかして、照れてただけ……だったりして?」
「………」
何も言わない蒼井さんに、何故だか笑いが込み上げてきた。
「ふふ。蒼井さんって意外と純粋なんですね。」
「…君こそ、意外と大胆だ。」
「報われないと思ってたんですよ?だから封印した。そしてこの間まで忘れていたんです。私の初恋。」
もう少し近付いて、蒼井さんをソファーに押し倒す。
「私たちの空白の時間、埋めてください。今日は蘭の事も母の事も、全部忘れたい…」
「百合……」
ブラウスのボタンをこれ見よがしにゆっくり外していく。彼の喉が僅かに動くのを目の端で確かめた。
こんな大胆な事をするだなんて、本当にどうかしている。男性経験などほとんどないに等しいのに。誇れるような身体など持ち合わせていないのに。
誘っている。ずっと想っていた彼を。
求めている。ずっと忘れていた彼を。
「蒼井さん……好きです…」
すがりついた私の体を強引にひっくり返した蒼井さんは、そのまま深く口づけた……
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