ラスト五分の運命

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

ラスト、5分の運命

「なるほど、残り5分か…」


 爆発解除を行っていた青年が目の前の爆弾を睨みつけていた。


『ねぇ。野村君? 野村君⁉」


 電話の向こうから彼女の声が聞こえた。


「ああ、聞こえている。だが、この解除は相当苦労しそうだ。それも水銀レバー式の爆弾。中の物体が少しでも線に触れたらおじゃんだな…」


 野村は、瞳孔を開きながら睨みつける。


 外で待っていた野村の彼女である沙耶は心配そうにジェットコースターを見つめていた。


『でも、もし仮に失敗でもしたら、俺の死体を見たくなかったらここから半径百メートル以内に近づくな』


「本当に5分で解除できるの? 警察を待った方がいいんじゃない?」


『そんなの待っていたら被害は大きくなるだろ』


 彼は一人、コースターの頂上で止まっているところで処理を行っていた。


「なあ、少し聞いていいか? これやばいかもしれない。デジタル画面に何か文字が浮かび上がってきた」


 野村は面白そうに笑い、その画面を見た。


『何を言っているの? 早く、降りてきて‼ もう、いいから。お願い‼』


「それは無理な相談だな。もし、俺がここにいなかったら警察が動けねぇーだろ?一般市民の俺がヒーローになる。いい事じゃないか。人の役に立てて死ねる。こんなに素晴らしい名誉ないさ」


 野村は夜空を見上げて、輝く星を見た。


「知っているか? 今日が何の日だったか? 星空を見ろ‼ すげー綺麗だぞ‼」


『そうね。あなたはそういう人よね。だったら、私を助けなさい。そして、無事に帰ってくるのよ‼ いいわね‼」


 沙耶は涙を流しながら笑顔で言った。


 それは悲しい気持ちを抑えながら、自分の気持ちよりも野村の気持ちを尊重する。


 爆発まで3分30秒——


「君、あそこにいるのは誰かね?」


 沙耶の肩を掴んだ青い服を着た警官が声をかけてきた。


 爆発まで2分30秒——


「こりゃあ、解体が難しいな。どの線を切ればいいんだ? マニュアルを学んでても実線は少ないからな……」


 野村は、ニッパーで考えながら線を切っていく。


「ああ、これで俺の人生も終わりが近いか…。最後にプロポーズでもしておけばよかったかな?」


 爆発まで残り1分10秒——


「沙耶。俺はもうだめだ。みんな逃げてくれ、俺は一人寂しく、亡骸もなく、ここで散るよ。大丈夫だ。被害は最小限にしたある」


『君‼ 今すぐにでも飛び降りても構わない。すぐにこっちに来なさい‼ 危ない真似は止すんだ‼』


 彼女の声ではない。太い男の声が電話の向こうから聞こえた。


「あんた、警官か? 沙耶に代わってくれ…。頼む。時間がない…」


 野村は、沙耶に代わるように指示した。警官は大人しく彼女に代わってくれる。


「ああ。沙耶か? 最後に言いたいことがあるんだ」


 爆発まで残り15秒——


「今までありがとう。愛していたぜ‼ 沙耶。俺よりいい人を見つけろよ‼」


 と、同時に爆弾は爆発し、彼の体は吹き飛んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラスト五分の運命 ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ @kouta0525

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ