9章 彼女の救いかた
――なんで。なんでリュイスちゃんがここに――
さっき素直に言うこと聞いてくれたから、てっきり素直に戻ってくれたものと思ってたのに……素直に……素直すぎた時点で、念を押しておくべきだったのかも……
あの時は正直考える余裕がなかったし、彼女が了承してくれた時点で安心してしまっていた。
けれど、今思えば心配性のリュイスちゃんがすんなり退いたのはおかしかった。最初から、引き返して様子を見に来るつもりだったんだろう。でも――
「アレニエさん、ですよ、ね……? でも、その姿は……」
――まずい。まずいまずいまずい。よりにもよって、こんなタイミングで戻ってこなくても――
衝動は限界が近い。解消しようとしてた矢先だったのもあって、爆発寸前だ。目の前にいるのがリュイスちゃんだと分かっているのに、堪えきれそうにない。いや、それよりも問題は――
「(見られた――……!)」
彼女は、純粋で真面目ないい子だ。意味がわからないであろうわたしの質問にも、真剣に考えて答えを出してくれるような子だ。
彼女ならもしかしたら、わたしのことを知っても受け入れてくれるかもしれない、と思った。
でもそれは、もっと様子を見てからのつもりだった。こんな形で、知られたくなかった。――見られたく、なかった。
顔を上げられない。彼女の目が見れない。彼女が、わたしを見る目を確かめるのが、怖い。
だから彼女を遠ざけたのに。だから、待っていてほしかったのに――どうして――
「――どうしテ?」
――……!?
「えっ……」
「――どうして、戻ってきたノ?」
あ、れ――わた、し――……
「その、私、やっぱりアレニエさんのことが心配で……」
「――わたシ、逃げてって、言ったよネ。戻らないで、っテ」
わたしの体――意識――溶けて、混ざって、赤く、紅く――……
「……言いつけを破ったことは、謝ります。でも、私……!」
「――言うこと聞いてくれないなんて、リュイスちゃんは悪い子だネ。だから……おしおきしなきゃいけない、よネ?」
「……本当に、アレニエさんなんですか……?」
わたしは笑う。――わたシが嗤ウ。
わたシは顔を上げて、異形と化した左腕を掲げル。前方のリュイスちゃんからわずかに警戒と、怯える気配が伝わってくル。
「……アレニエさんは、人間じゃないんですか? ……魔族、なんですか?」
「ふふ、どっちだと思ウ?」
怯えながらも気丈に振る舞うリュイスちゃん。ああ、かわいイ。やっぱりリュイスちゃんはかわいイ。
「実を言うと、どっちでもないんだけどネ。半魔、って知ってル?」
「……人と、魔族の、両方の血を持った……アレニエさんが……」
「そウ。どっちにも受け入れらない嫌われモノ。どっちにもなれない半端モノ」
初めて会った時から惹かれてタ。すごく好みの子だと思っタ。
それは多分、最初から気づいていたんダ。わたシの嗅覚ガ。わたシの本能ガ。――獲物ヲ。
「この子を使わないと勝てそうになかったから、リュイスちゃんには離れてもらったのニ。見られたく、なかったのニ」
「アレニエ、さん……」
「これは、知られちゃいけない、秘密なんだヨ。誰かにバレたら、また、居場所が無くなっちゃウ。だから、そうならないようニ――」
わたシは、嗤いながら彼女に近づク。彼女はビクリと体を震わせるが、逃げるような素振りはなかっタ。
ああ……かわいいなぁ、リュイスちゃン……それにとても……美味しそウ……。ああ、もうだメ……我慢できなイ――
わたシは駆け出ス。彼女の元へ真っ直ぐ向かい、鉤爪を振りかぶル。
警戒していたのだろう、彼女は咄嗟に前方に光の盾を張るが、わたシの左手はそれをたやすく引き裂いタ。衝撃で背後の木に叩きつけられるリュイスちゃン。
「あ……うっ……!」
押し殺した悲鳴までかわいイ。興奮が治まらなイ。
わたシはそのまま駆け寄り、彼女に向かって再び異形の手を振り上げル。彼女は怯えを含んだ瞳を向けながら、体を強張らせル。
そんな目で見られたら、わたシ、本当に我慢できないよリュイスちゃン……
もう、いいよネ? いいよネ? 押し倒して、引き裂いて、美味しくいただいちゃ も――
――って――
――いい訳ないでしょうがぁあああああああああああああああああああああああああああ――!!」
「……!?」
本能に盛大に飲まれてる場合じゃないでしょわたし!
わたしは彼女に突き立てられようとしていた自分の左腕に対して、振り上げた右膝を思い切り叩き込む!
鈍い音と共に左腕に衝撃が伝わる。しかし、無理な態勢だったせいか蹴りに上手く力が乗らず、わずかしか逸らすことができなかった。
左手の爪は彼女を引き裂こうと迫り……彼女の頬をかすめ、背後の木に突き刺さっていた。
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
……ギリギリで、左手以外の感覚を取り戻せた。かなり無理矢理だったけど、間に合った。あと少し遅かったら――
彼女は、茫然とした表情でその場にストンと腰を落とし、背後の木に背を預ける。そこから見上げる彼女に、わたしは精一杯笑顔を振り絞る。
「怖い思いさせて、ごめん、ね。リュイスちゃん……」
「アレニエ、さん……」
「もう少し、一緒にいたかった、けど、ここまでだね……今のうちに、逃げて」
「え……あ……」
「今度こそ、ちゃんと逃げて。今は、頑張って、抑えてるだけ、だから……それで、できれば、わたしのことは、秘密にしてくれると、嬉しい、かな……」
大きく息をつきながら、彼女に話し続ける。今言ったとおり、なんとか本能を抑えつけてるだけなので、またいつ飲まれるか分からない。
「でも、そうしたら、アレニエさんは……?」
こんな時でもわたしの心配をする彼女に、無理矢理じゃなく、自然に笑みが零れる。
「わたしは、大丈夫……しばらくすれば、治まる、はずだから」
治まらなかったら、最悪、『戻れなく』なる可能性もあるけれど、そこまで説明することもないよね。
……本当は、秘密を守るために、ここで彼女を殺すのが正解なのかもしれない。わたしの生活を、わたしの命を守るために。
だけど、そうしたくなかった。そう思ってしまったんだから、もうしょうがない。
あとは、彼女が逃げてくれればそれでいい。ここで見たことは黙っていてくれれば嬉しいけど、報告されたとしても恨まないと思う。
心残りはとーさんのことと、結局、勇者に会えなかったことかな。わたしのことが報告されれば、討伐するために向こうから来るかもしれないけど。
そんな自虐的なことを考えていたら、いい加減痺れを切らしたのか、左腕が蠢きだす。それと共に、再び本能が暴れ出すのを感じる。
「う……く……リュイス、ちゃん……そろそろ、ほんとに、逃げて……」
本当に、これ以上は抑えておけない。だけどリュイスちゃんからは、いまだに逃げる気配が感じられない。
彼女は、なにか覚悟を決めたような顔で目を閉じている。再び開いたとき、その右目は青く輝き、光が不定形に揺らめいていた。
座り込んだ姿勢のまま、彼女はわたしを見つめる。そして、両手を前方に掲げ、祈りを唱え、叫ぶ。
「……封の章第二節、制約の鎖、セイクリッドチェーン!」
彼女の声に応え、魔力が光の鎖を形作り、わたしの体を絡めとる。両腕は上に持ち上げられ、広げた状態で拘束された。
「……え、と、リュイスちゃん? なにしてるの?」
こんな状況で緊縛プレイはおねーさん困っちゃうな。
リュイスちゃんはわたしの声には反応せず、その場から動かないまま再び祈り始める。どうも、逃げる時間を稼ぐため、とかではなさそうだ。
……もしかして、自分の手で始末をつけようとしてるのかな。
そういう子じゃない気はするけど、仮にそうだとしても仕方ない。ついさっき、死にそうな目にあわせちゃったばっかりだし。
「(やっぱり、嫌われちゃった、かな。半魔は、怖いかな。怖い、よね)」
半魔だと知られるのはこれが初めてじゃない。でも、誰かに知られるのは、いまだに怖い。
わたしを見るひとたちの、恐怖と、嫌悪と、憎悪の入り混じったような、あの目。あの視線が、わたしはいまでも怖かった。
リュイスちゃんにも、あの目で見られてるのだろうか……それを思うと、怖くてしょうがない……彼女の目が、見れない。
心が乱れたせいか、さらに意識が呑まれるのを感じる。拘束された左腕は、力任せに鎖を引きちぎろうとしている。
彼女が成功すればわたしが死に、失敗すれば彼女が死ぬ。どちらにしても、多分ここでさよならだ。
最後がこんな形でごめんね、リュイスちゃん――
「……封の章第三節……静寂の庭、サイレントガーデン――……!」
リュイスちゃんの叫びを境に、わたしの意識は途絶えた。
*****
子供のころ、好きだった絵本がある。
題名はもう忘れたけれど、内容は、勇者が仲間と共に旅をして魔王を倒しに行く、というありふれたものだった。
神さまが造ったというすごい剣を手に入れた勇者は、仲間と一緒に旅をしながら、立ち寄った村や街の困りごとを解決していく。
弱い人や困っている人の味方で、強くて悪い魔物を退治して、最後には一番悪い魔王も倒して、たくさんの人を助ける勇者さま。
そんな、どこにでもあるようなそのお話が、わたしは大好きだった。
うちに一冊だけあったその絵本を、わたしは擦り切れるくらいに何度も、何度も、読み返した。
時には、夢の中でその続きを見ることさえあった。
ずっとずっと、勇者に憧れていた。
――あの日、本物の勇者に会うその時までは。
先代の勇者は、家族を魔物に殺された青年だった。
魔物への憎しみを糧に自身を鍛えた彼は、ついには神剣に選ばれ、勇者となる。魔に連なるものを全て滅ぼすと誓って。
わたしが実際に彼に会った――いや、遭遇した――のは、十歳のときだった。
かーさんを亡くし、住んでいた村の住人に半魔だと知られたわたしは、村を追われ、そこから少し離れた森で暮らしていた。
獣を狩り、道行く旅人から持ち物を奪い、なんとか生きていたわたしは、その日も訪れた旅人の一団に襲い掛かった。
しかし、その旅人たち――勇者の一団は、今までの相手とは違い容易に荷物を奪わせないばかりか、わたしよりもずっと強い相手だった。
焦燥感からクルィークを起こし、半魔の姿を露わにしたわたしは……その姿に我を忘れた勇者に殺されかけることになる。
凶暴な憎しみを露わにする勇者の姿は、わたしの幼い憧れを粉々にするのに十分だった。
絵本で何度も読んだ、優しい勇者はどこにもいなかった。
いたのは、鬼気迫る形相で神剣を振り上げ、わたしを、半魔を殺そうと迫りくる殺戮者の姿。
その殺戮者からわたしを助けてくれたのは、勇者の仲間の1人だった剣帝と呼ばれる剣士。
わたしはそのまま彼に引き取られ、こうして今まで生きている。
わたしが彼女の依頼を受けたのは、新しい勇者に興味があったからだ。
先代の勇者は、わたしにとってはただの恐怖の象徴だった。
なら、今回の勇者は?
わたしが魔族の血を引いているとわかれば、やはり殺そうとしてくるだろうか?
あの絵本に出てきたような勇者は存在しないのだろうか? それとも――
どうやって確かめるか、なんてなにも考えていなかった。
とにかく実際に会って、どんな人間かを知りたかった。
結局、それは叶わないまま依頼は終わり――彼女との旅も終わった。
*****
――夢を見てた気がする。……できれば、見たくない類の。
久しぶりにクルィークを起こしたからかな。それとも、彼女の目をちゃんと見れなかったことが、気になってたから、かな。
今まで、全部知ったうえで受け入れてくれたのは、とーさんだけだった。
他のひとたちはみんな、半魔のわたしをあの目で見るだけだった。
わたしの方も、とーさんさえいれば他のひとなんてどうでもいいと思っている。
それでも時々、もしかして、と思う相手に出会うこともある。
今回は、リュイスちゃんは、今までで一番そう思う子だった。もしかして、本当に受け入れてくれるんじゃないかと。
でも、それもおしまい。
「(これでお別れなんだろうなぁ……)」
わたしのことが知られた以上、もう彼女に会う機会はないと思う。彼女の術が成功したにしろ、失敗したにしろ。
ん? というか、どっちだろう。成功? 失敗? わたし、生きてる? それとも、死んでる?
そういえばさっき夢を見てたよね。じゃあ、生きてる? それとも、死んだあとでも夢って見れるのかな。
疑問に思ったからなのか、段々、意識が浮き上がっていくような錯覚を覚える。そして、わたしは徐々に明るい場所に昇って――
――最初に感じたのは、音。風に揺られる樹々の音が耳に入ってくる。
それから、匂い。土や草の匂いに混じって、花の香りがする。
まぶた越しだけど、光も感じる。まだ明るい時間らしい。
体の感覚もある。手足は動きそうだし、他の部分にも(多分)異常はない。少し、ひんやりする。
でも、それは首から下だけで、頭部はなにか柔らかく、暖かいものに乗せられている感じがする。とても心地いい感触。
なんだろう、これ。ポン、ポン、と手で触って確かめてみる。
「んっ……」
なにかを我慢するような、誰かの声が聞こえた。すごく聞き覚えのある声。具体的には意識を失う直前まで聞いていたような。
確かめるために目を開こうとすると、閉じていた視界いっぱいに光が入ってくる。
しばらく眩しくてなにも見えないが、それが収まって見えてきたのは……逆さまにわたしを見下ろすリュイスちゃんの笑顔。
「おはようございます、アレニエさん」
「……リュイス、ちゃん?」
「はい」
彼女はわたしを見下ろして静かに微笑んでいる。
あの目じゃない。今までと同じ笑顔で、彼女はこちらを見ている。
わたしは地面に寝かされていた。ひんやりするのはそのせいらしい。
でも、頭の周りは暖かいし柔らかい。もっかい触ってみる。むにむに。
「あの……それ、私の足で……くすぐったいです……」
あ、これリュイスちゃんの足なんだ。むにむに。つまり……どういうこと?
「……? ……?」
え~と。整理しよう。
あの状況なら、わたしかリュイスちゃん、どちらかが死ぬと思っていたのに、どうやら二人とも生きているらしい。
ちらりと左手を見れば、暴走は治まり、クルィークも篭手の形状に戻っている。
眼前には逆さまのリュイスちゃん。そして後頭部の柔らかい感触は彼女の足らしい。つまりこれは……リュイスちゃんに膝枕されてる?
膝枕なんて話に聞いたことがあるだけで、かーさんにもやってもらったことないよ。そもそもかーさん膝枕知らなかったと思うけど。
そっか、膝枕か。じゃあこのほんのり香るいい匂いはリュイスちゃんのかぁ。どうりでいい匂い。――じゃなくて。
「……どう、して?」
どうして、まだここにいるのか。なぜ逃げなかったのか。それを聞いたつもりだったんだけど、彼女は、どうして二人とも無事なのか尋ねられたと思ったようだ。
「アレニエさんの魔力を、一度、封印しました」
え……どうやって?
「『流視』でアレニエさんを見たら、左腕のあたりから魔力が湧きだしているのが見えたんです。だから――」
彼女が言うには、光の鎖で私の動きを封じたあと、『一定空間の魔力を遮断・沈静化させる』術を使ったらしい。
通常は人一人をすっぽり包み込むぐらいの範囲のそれを、小さく、狭く、凝縮することで強度を増し、わたしの魔力の発生源だけを遮断した。
それにより、わたしを飲み込もうとする魔力は体内で封じられ、残りの魔力もクルィークが食べてくれたことで暴走は停止。
解放した魔力をクルィークが食べきれなくなったのが暴走の原因のため、彼女の術で一度沈静化したあとは、以前と同じ休眠状態に戻った。
……と、いうことらしい。とりあえずそこまでは分かった。
分からないのは、わたしの正体を知ったうえ、あんな目に合わされたリュイスちゃんが、まだここにいること。しかも、今までと変わらず笑顔で。
だから、わたしは改めて尋ねる。
「……どうして、逃げなかったの?」
「どうして、そんなこと聞くんですか?」
彼女はあくまで、穏やかに微笑んでいる。
「だって、あんな目に合わせたのに……もう少しで、死ぬところだったんだよ?」
「私は、生きてますよ。アレニエさんが抑え込んでくれたおかげで」
「……あれは、ギリギリで間に合っただけ、だよ。それに……わたし、半魔なんだよ? ずっと、隠してた。だから……」
だから、てっきり嫌われたと……リュイスちゃんにも、あの目で見られると。そう、思っていたのに。
なのに、彼女からはそんな気配が感じられない。
「そんなことを言ったら、私なんて故郷の村を滅ぼしてますよ。隠し事はお互い様ですし」
「いや、それはリュイスちゃんのせいじゃ――」
「――なら、半魔だからって、アレニエさんが悪いわけじゃ、ないですよね?」
…………!
「さっき私が死にかけたのだって、私が言いつけを破ったからです。アレニエさんは、私を遠ざけようとしてくれていたのに」
あれ、なんか……
「それに、半魔は確かに疎まれているし、場合によっては危険かもしれませんが……アレニエさんは、大丈夫です」
なんか、胸のあたりがきゅーってする……
「ここまでの旅路はわずかでしたが、アレニエさんがどんなひとなのか、私なりに知ることができたと思っています。
なにより、私は貴女の言葉に救われました。感謝してもしきれません」
それに、視界が……歪んで見えて……
「人間でも、半魔でも、例え、魔族だったとしても、私は、アレニエさんのことが好きです。逃げたりしません。だから――」
ああ、零れてきた……リュイスちゃんの服が濡れちゃう……
「――だから、泣かないでください。アレニエさん」
そう言って、リュイスちゃんがわたしの目元を優しく拭う。
――ここで、わたしの理性は職務を放棄したらしい。
わたしは腹筋だけで上体を起こし、同時に伸ばした両腕で彼女の頭を抱え込む。そして――泣きながら彼女にキスをした。
お互いの顔が逆さまのまま、わたしと彼女の唇が重なる。
「――? ……っ!? むーっ!? むーっ!?」
リュイスちゃんのくぐもった悲鳴が聞こえる。構わずわたしは彼女を抱きしめ、その悲鳴を抑え込んで柔らかい唇を堪能する。
しばらくして。
「……ぷはっ」
満足したわたしは彼女を解放し、再び彼女の膝枕のお世話になる。体起こしっぱなしでちょっとお腹痛い。
リュイスちゃんはしばらく、赤く染まった顔で荒い息をついていたが、そのあとすぐに抗議してくる。
「ア、ア、ア、アレニエさん……!? ななななにをして……!」
「ごめん、我慢できなくて」
嬉しさとか愛おしさとかが溢れすぎてもう抑えきれませんでした。さっきまで本能全開だったしね。
「我慢できなくてって……だだ、だって、私たち、女同士で……!」
「え? なにか問題ある?」
「ありますよ!」
彼女は耳まで真っ赤にして狼狽している。やっぱりかわいいなぁリュイスちゃん。
「そんなに嫌がられると傷つくなぁ」
「えっ……い、嫌ってわけじゃ……で、でも、やっぱり女同士っていうのは、いろいろ問題が……」
「わたしのこと、好きって言ってくれたのになぁ」
「それは……でも、そういう意味じゃないというか、その……」
慌てつつもはっきりと拒否はしないリュイスちゃん。
わたしのことを全部知ったうえで受け入れてくれた、二人目のひと。
彼女のことが愛おしくてたまらない。
「わたしは好きだよ、リュイスちゃん。そういう意味でも違う意味でも」
だからわたしは言葉にする。彼女の目を見て笑顔で。
彼女は、顔や耳どころか首のあたりまで真っ赤になりながら、少し恨みがましい目でこちらを見てくる。
「…………アレニエさんは、ずるいです……そんな風に言われたら……あんなに、気持ちを伝えられたら……嫌いに、なれないじゃないですか」
そのリュイスちゃんの返事にわたしは――いつぶりか分からない、心の底からの笑顔を返していた。
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