後輩ちゃんの企み

オリハ

後輩ちゃんの企み

「今から5分後に世界が終わるとしたらどうします?」


 彼女の問いは唐突だった。

 放課後の部室内に、俺の「はぁ?」という間抜けな声が響く。


 なんだこいつ、急に何を言い出すんだ。よりにもよって人がカップ麺を作り始めた時に。


 俺は一瞬、3分後に出来上がったとして2分で食べきれるだろうか、と考えた。

 いや、世界が終わるって時にカップ麺食ってる場合じゃないか。


 5分で出来ることを考えてみるが、なかなかパッと浮かばないものだ。「明日世界が終わるとしたら何をする」という質問ならよくあるが、5分となるとまた違ってくる。


 今から買い物に行く時間は無いし、豪遊の類は全般的に無理そうだ。

 ちょうど目の前に女子がいるんだし、悪い事をしてやるのはどうか、と考えたが、可愛い後輩が悲しむような事はしたくない。その案は却下だ。

 というか5分で事が終わったら、すごく傷つく事を言われそうだ。いや間違いなく言うな、こいつは。


 好きな相手に告白するというのもある。

 まぁ、俺は今好きな人なんていないんだが。もしいたとしたら、電話でもかけて想いを伝える時間くらいはありそうか。とはいえ、成功したところで何をする時間もないのは後悔が残りそうだ。振られたら振られたで落ち込みそうだし、どちらにせよその後のカップ麺を味わえそうにな――


 いや、カップ麺は置いておこう。なんで食べる前提なんだ。



 らしくはないが、お祈りでもしたらどうだろうか。


 その場合だと、むしろ5分は長く感じそうだ。その間ずっと目を閉じて手を合わせているというのも辛い。せいぜい出来ても3分くらいだろう。そしたらちょうどカップ麺が出来ているだろうし、残りの時間で食べ――


 いやいやいや、だからカップ麺は良いんだって。



 それによく考えたらお祈りに3分は長いな。1、2分が限界だろう。カップ麺が出来たら残り時間がそれくらいだからその時間でお祈りを――


 カップ麺作ったあとにお祈りしてどうするんだ。



 ぴぴぴぴっ。


 電子音が鳴る。カップ麺用にセットしたタイマーだ。


「ざんねーん、時間切れでーす」


 後輩はおどけた口調で言う。


「じゃあ、答えられなかった罰としてこちらは没収でーす」


 言い終わるや否や、彼女は俺のカップ麺をすすり始めた。


 …………。


 食べたかったなら初めからそう言え!

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後輩ちゃんの企み オリハ @Hakato_Ori

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