夏のまま息が出来ない
灯野 誰
1
写真を撮ることが好きだ、そう思ったのはいつからだろう、もう覚えていない。ただ、目の前の世界を切り取る、それだけのことが、何の取り柄もない僕に眩しく見えた、それだけは鮮明に覚えている。
写真はどこか自分の心を映している。だから、写真は誰かの心に刺さることがあるのだ、とどこかの無名の写真家が呟いていたのがずっと頭に残っている。
夏が好きだ、そう思ったのは君に出会ってからだ。君に出会ったのも君を失ったのも同じ年の夏だった。もう君はいないけれど、写真を撮ろうとする度、レンズの向こうに君がいる気がする。決して写真に君が映ることはないのだけれど、今も僕は君の姿を無意識に追っている。
夏の夕暮れの空を背景に、君を被写体にして撮っていた。逆光になって、陰になる君が不意に見せる悲しげな表情が好きで、よく撮っていた。それなのに、今になって写真を引っ張り出すと、そんな写真は一枚も残っていなくて、
君が好きだ、そう思ったのは君がいなくなってからだ。君がいなくなってやっと気づいた。それとも、気付かない振りをしていただけかもしれない。
もう、全部遅いけど。
夏のまま息が出来ない 灯野 誰 @kanatahe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夏のまま息が出来ないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます