2-5 メリの路地裏散策
「露店って見てるだけで楽しいんだよなー。しっかし路地裏まで露店が充実してるのを見ると本当に商業の街って感じだぜ。」
特にこれといった用事はなかったが姉と少し離れたくて別行動をとったメリは、大通りより規模の小さい通りの露店を見て歩いていた。
興味を惹くものがいっぱいあって目移りする。流石、各地から集まっているだけあって見たことないものが山ほどあった。
規模は小さいが道の両側に並んでいる露店は大通りと同じで観光客向けから日用品まで様々なものを扱っている正規の市場という感じがする。しかし少しその線上をはずれ狭い路地に足を踏み入れるとなんとも怪しい小さな露店が姿を現す。よくわからない置物や骨董品、薬品などが売られているのが目に入る。売っている人もいかにもな雰囲気を醸し出していた。
「・・・すっげー。」
メリは少しの躊躇いと好奇心の間で揺れ動いていた。もっと奥に進んで見てみたい、だけど1人で行くのは怖い。元来臆病な性格のメリはこの路地裏の雰囲気に怖気づき、先程の少し広めの通りへと引き返そうと足を引いたーー
「やめてくれ!!それがないと・・・」
「うるせーな。恨むならこんな人気のない路地通った自分を恨みな。」
ふと、横の路地から穏やかでない会話が聴こえてきた。益々怖い。メリはこんな所早くおさらばしようと体の向きを変える。
「頼む!!金はいいからそれだけは・・・!娘に贈る特別な物なんだ!」
「黙れじじい!」
あぁ自分はこんなに損な性格をしていただろうか。
ガラの悪い男と絡まれていた初老の男が目を丸くする。男が振り上げた拳はメリの顔面にヒットした。
メリが初老の男を庇うようにして間に入ったのだ。
「・・・なんだお前。いきなり」
「い・・・痛いっ!めっちゃ痛い!」
メリは自分の頬を抑え涙目で拳を放った男を睨みつける。男は突然飛び出してきたメリに困惑したもののすぐに体制を立て直しまた拳を振り上げる。
「ガレッドウォール!フュウスパック!」
メリは男の振り下ろした拳を光の壁で弾きその後空中で火花を散らし牽制した。喧嘩は苦手だが魔法ならまだ立ち向かえる。
「・・・チッ。面倒な奴が出てきたな。」
男はメリの放った魔法を見ると舌打ちをして去っていった。執拗いやつではなかったのが幸いだ。男が去るとメリはため息をついてその場に崩れ落ちた。
「いたっ・・・いたい。殴られたことなんて・・・うぅ姉ちゃんくらいにしか・・・」
メリは殴られた頬を涙目で抑えてぶつくさと呟いた。
「もし、坊ちゃん。ありがとうな」
庇った初老の男がメリに後ろから声をかけた。
「ひっ!あ・・・あぁ。ふぅ、怖かったな。おじちゃん大丈夫か?」
突然の声にびっくりしたが庇った相手だと思い出し安堵する。
「おぉ、いきなり声をかけてごめんよ。助かったよ。娘に贈るこの髪飾りが無事で。本当にありがとう。それと頬が腫れてしまいそうだな、ちょっと待ってな。」
そう言うとおじちゃんは背負っていた木箱を空けゴソゴソと何かを取り出し始めた。
「あったあった。これを・・・こうして・・・よし。ちょっと我慢してな。」
「う・・・いっ・・・つ」
「よし、出来た。いい子だ。」
おじちゃんはメリの頬にペタペタと何かを塗るとその上から布を貼りつけた。
メリがまた少し涙ぐむとおじちゃんは頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「って俺子供じゃねーし!これはその、俺は魔法特化系だから痛みにちょっと弱いだけだ!」
「おお、すまんすまん。ついな。」
恥ずかしくなり顔を赤くしておじちゃんを睨む。おじちゃんは笑いながら手をよける
とハハっと朗らかに笑った。
「わたしはリオネロ・アルベルティ。アルベルティ薬屋の店主だ。ちゃんとした薬師だから頬に塗った薬については安心してくれな。」
「へえ、おじちゃん薬師なんだ。俺はメリ。一応旅人なんだ。」
「旅人なのか!じゃあ色々と大変だろう。助けてくれたお礼に色々役立つものをあげよう。時間があればお店においで。」
「いいの?助かるけど。」
「もちろんだ。じゃあ一緒に来ておくれ。」
メリはおじちゃんのお店についていくことにした。何かと旅に物資は必要だ。くれるというなら貰っておいた方がいいだろう。
道中おじちゃんは今日から始まる仮面祭のことについてや可愛い娘のことについて話をしてくれた。
「そのキラキラの髪飾り娘さんにあげるんだよな?仮面祭でつけるのか?」
「そうなんだよ。娘はべっぴんさんで街でもちょっとした有名人だからね、仮面祭の最終日にこの街の金持ち達が集まる仮面舞踏会に今回お呼ばれしてね。わたしも鼻が高いよ。・・・そこでつけるように知り合いの鍛冶に金塊から作って貰ったんだ。特注品さ。」
おじちゃんは髪飾りを嬉しそうに見つめながらそう教えてくれた。
「そっか。それは本当に盗られなくてよかったな。それにもしてもおじちゃんの話聞いてたら娘さんに会ってみたくなっちゃうぜ。」
「言っておくが娘はやらんからな。」
「別に狙ってないって。」
そこからまた仮面舞踏会についての話などを聞いているとあっという間にお店についたようだった。おじちゃんにつづいてお店の中に入ると心地よい薬草の匂いに包まれた。お店の中はこじんまりとしているがどこか暖かみのある雰囲気だ。棚に瓶や箱が沢山並んでいてカウンターでは店員さんが調合している様子を目の前で見ることが出来る。
「雰囲気あるお店だな!」
「だろう。妻と・・・最近は娘もで3人でやっているんだ。小さい店だが割と評判はいいんだよ。今そこで調合しているのが妻だ。」
「あらお客さん?ふふ、元気ね。こんにちは。ゆっくりしていってね。」
白衣をきて薬を調合しているのはおじちゃんの奥さんらしい。ほんわかした雰囲気で優しそうな人だ。メリの方をみてにっこりと挨拶をしてくれた。
「この子は絡まれてたわたしを助けてくれたんだ。旅人らしくて、丁度この前色々貰ったものがあるだろう、それをお礼に渡そうと思ってね。」
「まぁ!そうだったの。本当にありがとうございます。そうだ、大したお礼にはならないけどもし良ければ奥でおやつでも食べていきませんか?丁度お茶の準備もしていたの。」
「いやいや、偶然通りかかっただけだからさ。お礼言われるようなことはしてないぜ。・・・おやつ・・・それは食べたいかも・・・」
おじちゃんはメリを奥さんに紹介して出会った経緯を軽く説明していた。奥さんは深々とメリに礼をしたあと思い出したように手を叩くとおやつのお誘いをしてくれたのだった。小腹が空いていたメリはおやつの3文字にに少し顔が綻ぶ。
「それじゃあ奥へどうぞ。ゆっくりしていってね。」
お店の奥には休憩室のような場所があり大きな机が置いてあった。敷かれた綺麗な植物柄のテーブルクロスの上には透明なポッドにハーブが入れられたものが置いてあり、奥さんがそれに沸かした湯をゆっくり注ぎ入れるとフワッと周りにハーブの爽やかな香りが広がった。
お茶をクッキーと一緒に頂き、メリはあまりの美味しさに無言でそれらを頬張った。
そんな様子をアルベルティ夫婦が微笑ましげに見つめる。
お茶が終わるとおじちゃんは薬草や回復薬、魔法道具などがひとまとめになった袋をメリに渡してくれた。旅にはとても役立ちそうだ。
「もう行くのかいメリくん。」
「そうよ晩御飯も食べていったらいいのに。」
夕方にはメリはアルベルティ夫婦とすっかり打ち解けていた。少しお邪魔させて貰っただけだが帰るのが名残惜しいくらいに。
「うん。姉ちゃん達が待ってると思うから。おじちゃん、おばちゃん色々ありがとな!おじちゃんはもう人気のない路地あんま通るなよ。」
「はは。くれぐれも気をつけるよ。メリくんも病気や怪我に気をつけるんだよ。また、この街に来ることがあればいつでも寄っていいからね。」
おじちゃんと奥さんと握手を交わし手を振りあって別れを惜しむとメリはリル達のいる宿へと帰り始めた。
待ってて勇者さま!〜異世界でお姫様と勇者を救う旅をする〜 ここのつ @kokonotu
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