2-4 ミカゲの用事
「まぁ今回はこんなものですかね〜。」
ミカゲは手の中の少し膨らんだ巾着を見つめてそう零した。
リル達と別れミカゲがまず最初に向かったのはレブリックの冒険者ギルドだ。情報や仕事を仕入れるにはもってこいの場所。どこかの街で簡単な登録を済ませれば誰でも利用することができる。
ミカゲも旅をする途中で収入を得るために利用登録をしていた。もちろん登録情報はほぼデタラメだが。ギルドに所属している過半数はミカゲと同様真面目に登録などしていないだろう。ようは仕事さえこなせればいいのだ。
レブリックのギルドに1人で来た理由は色々あるが、一番の理由は収入を得るためだ。手持ちがなくリルに食事も宿もお世話になってしまったため返さねばならない。
「得られたのは少しの報酬と妙な噂ですね〜。私の探している魔法使いさんのお話も聞けずじまいですか〜。先程チラと聞いたレブリックの図書館にでも行ってみましょうか〜。」
満足いく情報が得られず、ため息をつきながらミカゲはギルドを後にした。他の調べ物も調べるついでに何かめぼしいものを探そうとレブリックの図書館へと足を運ぶことにした。レブリックは商業の街だ。各地から様々な本が集まる。この街の図書館は「叡智の館」と言われるほど充実しているらしい。
「うわ〜流石にでかい建物ですね〜。ここなら何か見つかるかもしれませんね〜。」
ミカゲはその建物を仰け反り気味に見上げて感嘆の声を漏らす。叡智の館と言われるに相応しい存在感を放つ図書館は世界の全てを知っているかのように屹立していた。
幾許かの期待を胸にミカゲはその建物の中へと足を踏み入れた。
図書館の中へ入ると外の喧騒が一瞬で聞こえなくなり自分の周りの空間を静寂が支配する。エントランスから少し進むと1階から5階まで吹き抜けの広い空間が現れた。天井以外どこを見渡しても本棚の見える造りになっていた。入口すぐ上の2階には共同学習スペースがあるようで少しざわざわと話し声が聞こえる。そのざわめきに少し心を落ち着かせるとミカゲは魔法薬学系統の本が置いてあるスペースへと足を運んだ。
マップで探すと2階にあるようで2階へ上がる。魔法薬学系統の本だけでも30棚くらいの蔵書があり目的の本を探すのも骨が折れそうだ。
「え〜と。これも違います〜。これも、う〜ん。よくわからないですね〜。」
ミカゲは眉間に皺を寄せ小声で呟きながら手当り次第本を漁る。小一時間探したが目的の魔法薬が書いてある本は一向に見つからない、見つかる気もしない。膨大な本は沢山の情報を与えてくれると共に1つの情報へ辿り着く道を阻む。
「1発で目的情報が見つかる魔法道具でもあれば〜。」
「ちょっとあなた・・・」
純粋な願いを口に出したその時先程からチラチラとこちらを見ていた女性が声をかけてきた。度々小さな声で独り言を呟いてしまっていたのでついに注意されるのだろうか。
「すみませんうるさくしてしまって〜。」
「うるさいとかではなくて、困ってるみたいだったから声掛けたの。何について調べたいの?私、魔法薬学には少し詳しいの。」
「えっと〜。ちょっと特殊な薬なのですが・・・」
ミカゲは自分が探している魔法薬と使いたい症状について手短に女性に話した。他人に話すには不確実な情報に溢れたものだったが一縷の望みにかけたいという思いが女性に事情を話すことを後押しした。笑い飛ばされればそれまでだ。
「すみません〜。絵空事のような話ですよね〜。私も手探りというかあればいいな〜くらいの気持ちで探しているのです〜。全然流してもらって構わないですから〜。」
「いいえ。興味深いわ。既存の薬では無理かもしれないけど色々掛け合わせていじれば何とかできるかもしれない。できる可能性は1パーセントにも満たないかもしれないけれど。ねえ、時間がかかるかもしれないけど良ければ私と調べてみない?でもそれ程の薬だと並の魔法使いじゃ作れないから知識だけあっても無駄になるかもしれないけど・・・」
「いいん・・・ですか〜?あ、でも、私旅の途中で〜」
女性はミカゲの想像した態度とは違い思慮深い表情でじっくり考えてくれている様子だった。笑うどころか一緒に調べてくれるとまで言ってくれている。しかし時間の問題がある。
「あなた旅人さんなのね。どのくらい滞在する予定なの?」
「仮面祭が終わるまで・・・です〜。」
「待って仮面祭は今日から始まって・・・明後日までじゃないの!!」
ミカゲは申し訳なさそうにはにかみながらそう告げる。
女性は小声でミカゲにツッコミを入れるとふぅーとため息を漏らした。
「すみません〜。せっかく提案して頂いたのに〜。」
「まぁいいわ。それなら、それまで時間があるだけ一緒に調べてみましょうよ。もし貴方が良ければね。」
「あ・・・ありがとうございます〜!」
「しー!声がでかい!」
女性は大きな黒い瞳を真っ直ぐミカゲに向け右手を差し出しながらそう言った。ミカゲは思わずその手を両手で握り感謝の念を声に出す。少々大きめの声が出てしまい女性に小声で怒られた。
「すみません〜。あの失礼ですがお名前を聞いても〜?あ、私はミカゲと言う者です〜。」
「ん?あぁ、そうね。私は・・・ベル・・・ベルピオージャ。この街で薬師をやってるの。よろしくねミカゲちゃん!」
べルピオージャは夕暮れ時まで真剣にミカゲの調べ物に付き合うとそろそろ家族でご飯を食べなければと謝りながら帰って行った。ミカゲは彼女にお礼を言い明日も約束を取り付けるとリルがとってくれた宿へと帰路へついた。
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