2-3 「探していた」

「ツッキ〜〜!!会いたかったよう!やっぱりツッキーもいたんだあ。」


掴まれた手をなんとか振りほどくと相手は意気揚揚と両手を広げコチラへ笑いかけてきた。見覚えのある顔だ。


「待て待て。いきなり過ぎだ!な、なるみ、成海でいいんだな?」


「そうだよツッキー。ナルミンだよん。」


皐月を引っ張って屋台裏に連れ込んだ相手は元の世界の住人、同級生の合浦成海だった。皐月と実験班が同じ1人だ。


「俺、も。って事は俺以外にもいるんだな?」


「そうだよ。流石ツッキー。いるよ、今この街にはミウミウがね!」


「美雨もいるのか!・・・じゃあアキも。」


「アッキーもいたよ。」


「班メンバーは全員無事だったんだな!」


「あっはは、無事かって言われると無事でもない状況だけどねん。私達以外の同級生は見てないけどいるのかなあ?」


自分の実験班のメンバー全員がいた事に驚くとともに無事だったことに安堵した皐月はため息をつき自分の胸を文字通り撫で下ろした。話を聞く限り自分の班以外の同級生はいないようだ。リル達に助けられ、1人ではなかったとはいえ知らない世界で感じていた孤独感は一気に吹き飛び、頬が緩む。少し嬉しそうに唇を噛み締めた皐月を成海は微笑ましげな顔で見るとそれで、と話を続けた。


「ツッキーは今までどこにいたの?私は2年前からこの街に居続けてるけど・・・」


「は?2年前?」


「うん!ツッキーはいつからいたの?」


成海の言葉に皐月は一瞬固まった。時間の感覚がおかしい。自分がこの世界に来たのは4日ほど前だ、成海の言っていることが本当だとすると同じ瞬間に飛ばされたはずが大きなラグが生じていることになる。思えば成海は随分落ち着いている。普段から能天気な奴ではあったが、訳の分からない状況に放り込まれたばかりなら流石の成海も少しは取り乱しているはずだ。


「俺は4日前・・・だ。」


「レブリックに4日も前からいたんだあ。大きい街だから歩き回ってても中々会えないよねえ。それで、レブリックの前は?」


「レブリックに来たのは今日で。その、この世界に来たのが俺は4日前なんだ。」


流石の成海も猫のように目を丸くし驚いた顔を見せた。


「う・・・ん?待って、待ってね。じゃあツッキー的には実験してたあの日が4日前ってこと?」


「そういうことになるな。」


「ええ!?うそ・・・だって、私達3人は少し日にちはズレたけど大体みんな2年前にここに来たよ。しかも全員レブリックの近くに飛ばされたんだ。」


成海は眉間に皺を寄せ皐月にズイっと詰め寄ると首を振りながらブツブツとそう呟いた。動揺を隠せない様子で目を泳がせ、次第に焦点を皐月の顔に合わせると深呼吸をして息を吐くように続ける。


「ほんと・・・なんだね?話を聞かせてくれる?コチラも色々話したいことがあるし。」


「あぁ、勿論。まだ混乱してるからお手柔らかにな。それと、その前に連れが心配してるだろうから屋台の前に戻っていいか?」


「わ!そうだ、ごめ・・・」



「見つけたわ!!この・・・サツキ泥棒ー!」


成海が慌てて謝ろうとした瞬間横から高い声が響いた。2人が声の方向に顔を向けると。剣の柄に手をかけたリルが成海を睨めつけながら低めの姿勢をとっているのが見えた。斬り捨て待ったナシ状態だ。


「違うんだ、リル!こいつは俺の同郷で久々でその、驚いて!」


皐月が咄嗟に叫び、成海は手を挙げて降参の姿勢を示す。リルは目だけを動かし皐月の顔をチラリと見て続いてまた成海を見るとゆっくりと姿勢をもとに戻した。


「本当なのね?・・・いきなり居なくなったし、サツキが攫われちゃったと思ってびっくりしたの。さっきはぐれないでって言ったばかりなのに。」


リルはムスッとした顔で皐月にそう言うと少し気恥しそうに立ち直す。目線を成海に向けると片手を差し出しながら歩み寄った。


「驚かせてしまったわね。サツキのお友達・・・よね?私はリル。サツキに旅のお供をして貰っている者よ。」


「いえいえ!こちらこそごめんね、いきなりツッキー連れ出しちゃって。私は成海。ナルミンって呼んでね。ツッキーのお友達だよん。」


差し出されたリルの手を握ると成海はペコペコと礼をしながら明るく自己紹介をした。成海の明るい様子にリルも少し笑顔になる。


「いいなツッキーこんな可愛い子と一緒にいるなんて!どうやってこんな可愛い子捕まえたわけ。」


「俺が捕まえたんじゃなくて、リル達が拾ってくれたんだ。」


「そうなの。サツキが原っぱの真ん中に落ちていたものだから道を聞くついでに拾ったわ。我ながらいい拾い物したわね。」


リルは悪戯っぽく笑うと腰に手を当て皐月を指で指し示す。


「ツッキーは割と使える奴だから大事にしてねん。」


「ええ、そうするわ。」


2人はふざけてそう会話すると顔を見合わせてクスクスと笑い合う。モノ扱いされてるのは気にかかるがすぐに2人が打ち解けたようで何よりだ。


「さぁてと、今すぐ話したいところなんだけど私はまだ仕事中なんだよねえ。こちらの都合で悪いんだけど、お二人さん夜・・・時間あったりする?あと申し訳ないのだけどサツキだけとも話したいんだ。」


成海はバツが悪そうにどちらかというとリルに伺いを立てた。


「構わないわ。積もる話もあるでしょうし、私は少し話を聞いたら情報集めにまた他を回るつもりよ。」


「ありがとう!リルルン!あと情報をご所望なら私が役に立てると思うよ。それも夜か明日になっちゃうけど。私一応この街で情報屋さんやらせてもらってるんだ。」


「リル・・・ルン?それはサツキのツッキーと同じで愛称なの?ナルミは面白い人ね。それと情報の方もお世話になれるならなろうかしら。」


成海はリルと約束を取り付けると勝手に愛称をつけフレンドリーに距離を詰める。

リルはそれに一瞬キョトンとしながらも愛称だと気づくとこそばゆいといったような表情を見せ、リルルン・・・と何度か反芻していた。


「それにしても情報屋か、噂好きなお前にはピッタリだな。」


「でっしょ?結構上手くやれてるんだ。知り合いも増えるし、この屋台みたいに副業も飛び込んでくるから一石百鳥くらいの職業だよん。」


成海はへへんと胸に手を当て威張ると屋台を指さしハッとした表情をした。


「いけない、流石に休憩しすぎた!そろそろもどるね。夜はこの大通りの端にある『タルティス』ってお店に8時頃集合で!・・・とちょいまち。」


成海は早口でそう告げると急いで屋台に戻り、お詫びにと焼きそばパンを2つ持ってきてくれた。再びまたねと手を振ると慌ただしく屋台へと戻っていった。


「相変わらず忙しいやつだ。」


「サツキの友達、ナルミンとってもいい人ね!夜また会えるが楽しみだわ。これもくれたし。」


成海にそう呼べと言われたからかリルは成海の事をナルミンと呼ぶことにしたようだ。焼きそばパンを見つめて嬉しそうにしている。


「サツキのこともツッキーって呼んでいいのかしら?私のこともリルルンって呼んでいいのよ?」


「それはやめてくれ。そしてごめん、呼ばないかな・・・」


「あら、残念だわ。」


リルが頬に手を当て少ししょんぼりした様子を見せた。

成海にもツッキーと呼んでいいと許可したことは1度もない。勝手に人にあだ名をつけるのはあいつの癖のようなものだ。むしろまともに名前を呼んでいるのを見たことがない。フレンドリーで大学でも誰とでも話せる気さくな奴だった。こちらの世界に来ても上手くやっているようで、なんだかんだいって羨ましいコミュ力だ。


「サツキそれよりこれ、早く食べましょうよ!」


「それもそうだなお腹すいたし。あそこら辺にでも座って」


「いいわね!待ちきれないわ。」


先程からチラチラと焼きそばパンに視線を落としていたリルが遂に待ちきれないと口を開いた。皐月が同意を示すと早足でサツキの指し示したベンチに向けて歩き出す。


2人は素早く腰掛けると各々まだ温かいパンを手に持ちゆっくりと一口目を頬張った。


「んー!美味しい〜!」


「・・・はぁ、やっぱ美味い。」


幸せそうにため息を漏らすと、二口目三口目と喋る間もなく平らげた。2人は満足気に自分のお腹を撫でるとその美味しさの余韻にしばし頬を綻ばせたのだった。

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