2-2 壁の向こうへ
「リルちゃん、思い返してみて下さい〜。王都は普通の門から出たんですよね〜?王都の門から出るためには1つのグループに1つ、身分を示すものが必要なはずです〜。」
「そう言われても・・・通る時何も言われなかったのよね。」
リルは眉間に皺を寄せ、腕を組み、唸りをあげて考える。一頻り悩んだ後、渋い顔をして、助けを求めるようにメリを見つめた。
リルの視線を受け、頼みの綱の弟は姉の代わりに思い返すように目線を上にあげ顎に手を当て考える。
「えーーーっと、あん時はうーん確か衛兵が、姉ちゃんの無い胸をじっと見てた気がする・・・」
「そうなのね!って聞き捨てならないけど。まぁいいわ、ちょっとまってて!」
リルはメリの発言に手を叩いて納得すると皐月達が声を掛ける間も無く門番の元へ駆けて行った。
暫く見守っているとリルが門番に向かって胸を突き出し何かを言っている様子が見えたが門番が明らかに冷めた目をした後トボトボとリルがこちらへ戻ってきた。
「ダメだったわ。」
「そうでしょうね〜。」
ミカゲも困った様子でリルを見つめた。
「姉ちゃんそういえばこの胸のあたりにさ、ラーチェから貰ったペンダント的なの付けてなかった?どこいったんだよ。」
リルが謎の悪戦苦闘を繰り広げている間も悩み続けていたメリは先程のリルと似た動作で手を叩いて閃いたとばかりにその瞳を煌めかせるとリルを指さし、そう問いかける。
「あの可愛いやつね、戦う時落としたら困るからこっちにいれていたわ。よいしょ。」
リルは腰に括りつけていた袋に手を入れると絢爛豪華とは行かないまでもそれなりに価値があるであろうペンダントを取り出し皆に見せた。
「これですよリルちゃん〜!これで通れると思うので行きましょう〜。」
ミカゲはペンダントをじっくり観察し安心したように嘆息すると待ってろとばかりに門番を指さしフンと鼻を鳴らした。
意外と彼女は好戦的なのかもしれない。
門に近づくと先程から色々と付き合っていただいている門番さんが呆れた顔でこちらを見ていた。
「何度来ても同じですけどね・・・」
ため息と共にそう漏らすと門番は腰に手を当て懲りない来訪者に向き直る。
「これが目に入らないのかしら?」
リルは門番に偉そうにペンダントを見せ付けると得意げに笑ってみせた。
「・・・これは!そうでしたか。見た目で人は判断出来ませんね。王国騎士団の方々。大変失礼致しました。先程までの無礼の数々お許し下さい。ここをお通り頂いて問題ありません。」
門番は最初こそ少し失礼な事を言ったものの綺麗な直角の礼と共に丁寧に謝罪の言葉を並べ立てた。
その後門番が横にずれて槍を上に少し挙げ、その先端をクルリと回すと重厚な門がゴゴゴゴゴと地響きのような音を立てながらゆっくりとその口を開いた。
門番は完全に扉が開くと先頭にいたリルに滞在許可証を渡し、扉の先へどうぞと手を向けた。
「通らせてもらうわね。」
そう言うとリルは薄紫色の髪を靡かせて門を堂々とくぐった。他の3人もリルに続いて門をくぐる。通る手前、ミカゲと皐月は門番に軽く会釈をして通った。
門番も会釈を返すとまた槍を挙げ反対向きに回し扉をゆっくりと閉ざした。
門を抜けると眼前には賑やかな街並みが広がっていた。
「うわ〜!すごい賑やかね。王都とはまた違って屋台とかがいっぱい!ねぇ、情報集めする前に少し見て歩きたいわ!」
「あ、あぁ。俺は構わないけど・・・」
リルが紫色の瞳を宝石のように輝かせながらキョロキョロと視線を巡らせる。ねぇいいでしょ?と仔犬のような目で縋られれば皐月に断るという選択肢は一切浮かばない。断る理由も特にはない。
「しょうがないな姉ちゃんは・・・」
メリもそう言いながらその視線はもう大通りの屋台の列に釘付けだ。
「でしたら少し別行動しませんか〜。私も見たいものというか寄りたい場所があるので〜。」
「分かったわ!じゃあ、合流地点を決めておかないとね。別行動する前にこの近くの宿を探して、部屋を取っておくからそこにしましょう。お互い用事が終わったら情報集め開始でいいわね!」
リルはソワソワしながら近くの宿を見つけ、部屋を手早く手配すると足早に外へ出た。ミカゲもすぐに出ていき目的の場所に向かうようだった。
「サツキは私と一緒に行くわよね?」
「そうだな、特に目的もないからリルに付いて歩くよ。」
そう言うとリルは嬉しそうに皐月の横に並び、はぐれないようにね。と皐月の腕を掴むとーー
「いてててて、ま、もうちょいゆっくり!」
凄い力で皐月の腕を引っ張った。皐月の嘆きは興奮したリルの耳には届かず、更に強い力で引っ張られる。皐月は振りほどくことも出来ず、涙目になりながらされるがままに引きずられた。
「こわ。」
そんな様子を宿の入口で見ていたメリは自分も被害を被るのはごめんだとリル達とは反対方向のこじんまりとした露店が並ぶ路地へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれは何かしら・・・あれは、あ!あれ可愛い!・・・うぅー、目がいくつあっても足りないわ。」
大通りのバザールの列に入るとリルは先程よりもはしゃいだ様子でキョロキョロと首を動かしていた。皐月の腕を強く掴んでいた手も他のものに興味を惹かれる毎に力が抜けていき、皐月の腕は少しの痛みと華奢な手跡を残して自由になった。腕が痛くないのは良いが、混雑しているバザールの中で手を離してしまえば小柄なリルを探し出す事は困難だろう。そう考えている内に人の波に押されリルとはぐれそうになった。今度は皐月が咄嗟にリルの手を掴む。
「はぐれたら困るだろ!」
リルは様々なものに向けていた視線を皐月の手ひとつに集中させるとキョトンとした顔で繋がれた手を見つめた。
「私ったらつい・・・はしゃいじゃって。サツキ、ありがと!迷子になったら困るものね・・・サツキが!ふふ。」
リルはサツキの手を握り直すと手から視線を徐々に上げていき最後に皐月の顔を見てイタズラっぽく笑った。
「!!・・・やっぱ手、繋がなくても見失わないから大丈夫。」
皐月はリルの可愛らしい行動と笑った顔に照れを隠せず咄嗟に手を離そうと力を入れた。しかしリルの力はやはり強く、1度握りこまれた手は簡単には引けなかった。
「ダメよ。はぐれちゃうんでしょ?」
そう言うとリルは皐月の横にぴったりとくっ付き、腕を絡ませ腕組みスタイルへと素早く変更させた。
「さ、お腹空いちゃったわ。先ずは腹ごなしに何か食べなきゃ!」
がっちりホールドされた姿勢でまたリルに引きずられている皐月は女子と腕を組むという初めての経験に硬直し返事をする所ではない。先程から返事が帰ってこないことを気にも留めずリルは皐月に喋りかけながら屋台を見渡し歩を進める。
「ん・・・この匂いは。」
「いい匂いよね!サツキもあれが食べたい?凄い行列だけど私も気になるの。」
皐月の鼻を嗅ぎなれた匂いが刺激する。その匂いに安心を覚え皐月の腹の虫はため息のように音を漏らした。
「ふふ、やっぱりサツキも腹ペコよね。よし、並びましょ。」
リルに腕を引かれ行列の最後尾に並ぶと屋台の鉄板の上で焼かれているものを覗き込む。
「やっぱりそうだ、焼きそば!」
「ヤキ・・・ソバ?初めて見る食べ物だけれどそう言う名前なのね!なんかパンに挟んで食べるものみたい、あちこちで皆持ってるわ。」
「焼きそばパンか、こっちもこういう料理があるんだな。」
予めストックが沢山あるのか列は凄いが進むスピードは速かった。あっという間に注文口まで辿り着いた。リルは横で皐月の腕を一旦離し、焼きそばを焼いている鉄板を見ながらウキウキと揺れ動き鼻歌を歌っていた。
「2つお願いします。」
そんなリルを横目に皐月は店員に分かりやすいように指で2を作り注文をする。
「はい!かしこまりまし・・・って・・・ツッキー?」
「わっ・・・!!」
注文を受けた店員はそう言うと屋台の横から突然飛び出して来て皐月の腕を取り、屋台の後ろの路地へと皐月を連れ込んだ。あまりの素早さと状況の飲み込めなさに皐月は反応を返すことも出来ず簡単に手を引かれ連れていかれてしまった。
「ねえサツキ!凄いわこの・・・あら、サツキ?」
リルは後ろを振り向くと皐月がいないことに気づき直前まで輝かせていた顔を曇らせた。
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