STAGE2「仮面と商業の街」
2-1 レッツレブリック
「まったく・・・森を抜けて少ししか歩いてないじゃない!」
晴れ渡った空の下、色とりどりの花が咲き乱れる草原では薄紫色の髪を風に揺らしながら可憐な少女が腰に手を当て、呆れた様子で立っていた。
「はぁ〜?だって森の中もずっと歩き通しだったんだぜ?オマケにあんなキモイ化け物とも戦ったし。サツキは燃やすし燃えるし、疲れたに決まってるだろ!!」
メリは座りながら姉にそう抗議するとその場で後ろにボスんと倒れ大の字になった。
「もう!子供じゃないんだから・・・。ふぅ、それで、サツキの方は体調大丈夫かしら?」
リルはメリの顔を覗き込み、ため息混じりに声をかけるとサツキの方に目を向けた。
「俺もメリと同じに疲れただけ。みんなに助けて貰っといて申し訳ないけど、体力なくてさ・・・」
中腰で休んでいたサツキは汗を滴らせながら苦笑い気味に答える。人並みかそれ以下の体力しか持ち合わせないサツキは森を抜けた辺りで限界を感じていた。
「ほらほら〜。サツキも辛そーだし休もうぜ。」
「しょうがないわね。」
「あーあー!サツキには甘いんだ!ずりー!」
「メリ、いいの?ミカゲが貴方の我儘に引いているわよ。」
「え!!」
メリは勢いよく飛び起きるとチラとミカゲをみる。ミカゲはそんなことないと言わんばかりに首を横に振った。
「年相応で可愛らしいです〜。全然ひいてなんていませんよ〜!」
「・・・!俺、もう歩く!」
ミカゲの必死な動作が逆に肯定しているように見えたのかメリは立ち上がりしゃきしゃきと歩き始めた。
「もう行くのか」
それに続きサツキも体制を起こし歩き始めると女子二人も顔を見合わせ後ろから続いた。
暫く歩くと少し先を行っていたメリが丘の上で立ち止まっているのが見えた。
「メリ、また休憩か?」
穏やかな傾斜をゆっくりと登りメリに近づくと皐月の眼前の景色は急に開け、丘のしたの方にはーー
「すっげー!サツキ、見てみろよでっかい街!あれが本物のレブリックだな。」
「あれがリル達の目指してた・・・」
中世のヨーロッパの街並み。自分の世界で言えばそんな表現が似合う景色だ。なんとも言えないワクワク感が少し皐月の心にこみ上げた。
「本で見たことがあります〜!あの挿絵はここの丘から描かれてたんですね〜。」
丘の頂上についたミカゲが顎に手を当て、なるほど、と頷きながらそう言った。
「ミカゲは本でレブリックの街並みを見たことがあるのね。じゃあ今度こそ、そうね。」
リルはふぅ、と息を吐くと目を輝かせて興味深そうにレブリックの全体を見渡す。
「王都以外の大きい街を見たことがなかったからなんだかワクワクするわね。」
「王都・・・じゃあリルちゃん達は本当に大きい所から来たんですね〜!それでもワクワクするんですね〜。」
「ええ!やっぱり新しい場所って楽しいじゃない?雰囲気とかも違うし。そういうのも旅の醍醐味ってやつよね。」
「旅を楽しむ・・・ですか〜。それはとてもいいことですね〜。」
ミカゲはにっこり笑ってそう言うと、では早速行きましょうとレブリックを指さし、丘を降り始めた。
皐月はミカゲが笑う前に見せた何処と無く面食らったような顔が気になった。しかし、気のせいかもしれないと丘を降りる足を進めた。
「ところでリルちゃん、レブリックは何が有名な街かご存知ですか〜?」
「いいえ、商業が盛んで大きな街としか聞いてなくて。」
「そうそう!姉ちゃんが王都で人に聞いてたのは確か・・・旅人とか商人がわんさかいるから情報が豊富な街だってことぐらいだよな。」
「ええ、そうね。そう聞いたわ。」
ミカゲは暇つぶしとばかりにそう言い出すと。リルとメリの返答を聞いて、咳払いを1つして話しを始めた。もちろん全くレブリックについて知らない皐月は黙って会話を横目に聞く。
「まぁ、これは街に着くまでの暇つぶしになんですけど私の知識をば少し〜。レブリックはですね、リルちゃん達が聞いたように商業が盛んな街です〜。情報も勿論いっぱいでそれを商売にしている人も沢山いますね〜。情報屋さんってやつです〜。それと実は、仮面が特産品で有名なんですよ〜。『仮面と商業の街レブリック』そう呼ばれています〜。まぁこの呼び方には諸説あるんですけどね〜。で、その仮面のお祭りが確かこの時期にあるんです〜。このお祭りには各地から色んな人が集まりますから今回はそこで情報集め、してみませんか〜?」
ミカゲは一気にそう喋るとふぅと一息ついた。
「すげえ!ミカゲさん博識なんだな。」
「えへへ、ご清聴ありがとうございます〜。」
メリが目を輝かせてミカゲを見る。街を軽く紹介しただけでここまで尊敬の眼差しを向けられるなら安いものだと皐月は少し離れたところでその様子を見ていた。
「しかし、仮面の祭り・・・か。」
イタリアではそんな祭りがあったようなと自分の世界でのことを思い出す。仮面舞踏会のような華美なものなのか、はたまた独特のお面をつける民族的な感じのものなのか。見てみるまではわからないが興味は少しそそられる。
「サツキは仮面のお祭りについて何か知っているのかしら?」
「ん?あぁ、いや、故郷に似たようなお祭りがあってさこっちのはどんなのなのかなって考えてたんだよ。」
「サツキの村では色々なことをするのね。楽しそう!」
リルが皐月の独り言に反応し問を投げかけてきた。咄嗟にそう答えたが、自分の故郷がどんどん脚色されていく。そろそろ怪しまないものだろうかとリルの顔色を伺うが純粋な瞳が眩しい。特に気にしていないようだ。もうなんでもゴリ押しでいけるなとそう確信した。
「そうこう話しているうちにレブリックの入口に到着です〜。あの門を通って入るんですね〜。」
レブリックは高い壁に囲まれた街だ。魔物や敵の侵入を防ぐため、この世界では大きめの街には必ず壁があるらしい。これもよくゲームとかで見るやつだな、と皐月は壁を見上げる。丘から見ていた時には分からなかったがかなり高い。
門の入口にはもちろん門番が立っていて物々しい雰囲気を出していた。
「これって普通に通っていいのか・・・?」
皐月は声を小さくし、ミカゲにそう聞いた。
「え〜と。リルちゃんが居れば多分・・・?」
曖昧な返事が帰ってきた。
「え、ミカゲさんこういう大きい街入ったことないの?」
会話が聞こえていたのかメリが横から会話に参加する。
「入ったことはありますけど〜・・・門を通ったことは・・・」
ごにょごにょとミカゲの声が小さくなっていく。
「じゃあどうやって・・・」
「えっへへ、それは秘密です〜。」
皐月がそう聞くとミカゲが人差し指を口に当て意味深にそう告げた。不法侵入を肯定したようなものだ。彼女のなりからして・・・皐月の頭には忍者の壁を登る道具が頭に浮かんだ。
「3人ともどうしたの?いくわよ。」
リルの遠くからの声に振り向くといつの間にかリルは3人から離れ門番の近くまで行っていた。物怖じしない姿勢流石だ。
「姉ちゃんいつの間に。」
3人は急いでリルの方に向かった。
「さっさと通してちょうだい!」
リルは腰に手を当て偉そうに門番に言い放つ。門番がムッとしたのが皐月には分かった。それはミカゲも分かったのだろう、慌ててリルの方に駆け寄る。
「リルちゃん、ど、どうしたんですか〜。あの、すみませんここ通れるんですよね〜?」
リルの肩に手を置くとミカゲは門番にやんわりと話しかける。
「先程からそこの子にも言ってますけどもね。身分を示すものか商業許可書を提示してください。」
「ないわ。」
「リルちゃん持ってませんか〜?王都から出られたんですよね〜。その時に見せたものとか・・・」
「だって、そんなもの本当に持っていないわ。」
リルが訝しげな顔でミカゲと門番の顔を見る。
「ではここをお通しすることは出来ませんね。お帰りください。」
門番は持っていた槍を床にドンと降ろし音を立て、また元いた位置に戻ると人形のようにこちらを意にも介さず立ち直した。
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