一番の思い出は?
いなばー
関係が終わるまでの最後の五分間
真知
「ねぇ、一番の思い出って何?」
速人
「え? いきなりなんだよ」
真知
「いろいろ思い出あるでしょ? 長い付き合いなんだし。その中の一番」
速人
「うーん、とっさに出てこないなぁ……。真知は?」
真知
「初めての朝」
速人
「……ああ、あの日か」
真知
「目を覚ましたら隣に寝顔があるの。そっと手を伸ばして頬に触れたんだ。すごく安心した。あの朝が、私にとって一番の思い出」
速人
「そうか。俺にとってもそうかもな、言われてみれば」
真知
「いやいや、私が言ったことに便乗しないでよ。ちゃんと自分の一番を言って下さい」
速人
「うーん……あ、やっぱりあれかなぁ……ファーストキス」
真知
「ファーストキス? 確か私が小学四年で……」
速人
「俺は高一」
真知
「そうだったそうだった」
速人
「はぁ……思い出しただけで嫌になる……」
真知
「なんでそうなるの? そもそもどっちの方?」
速人
「真知の方」
真知
「私の方……ああ、確かに私としても黒歴史だ」
速人
「すごいはしゃいで言うんだよ」
真知
「そうそう。事細かに語ったよね、お兄ちゃん相手にさ」
速人
「はぁ~」
真知
「そんなにショックだったの、妹のファーストキス?」
速人
「うーん、まぁそうなんだよな。それまでずっと一緒に寝てたのに、カレシができたから一緒に寝ないとか言いだして」
真知
「その日のうちに別の部屋に移ったよね?」
速人
「でも、すぐに戻ってくるだろうって俺は思ってた」
真知
「そこへ妹からのファーストキスのご報告。とどめ刺しちゃったんだ、私ってば」
速人
「そういうことだ。すごいショックだった……」
真知
「当時中学生でそれって、シスコンだよね?」
速人
「うるさいな。自分だって小四までお兄ちゃんと一緒に寝たがるブラコンだろうが」
真知
「そう言わないでよ。結構、純な想いだったんだから」
速人
「どういうこと?」
真知
「私、最初に会った時からお兄ちゃんのこと好きだったの」
速人
「そうだったのか? それって……いつまで?」
真知
「最初のカレシができるまで」
速人
「よかった。今までずっと好きだったなんて言われたら、どうしようかって思ったぞ」
真知
「そんなに焦ること?」
速人
「いや、今まで何人か彼氏作ってたんだろ? 本当は俺が好きなのに、他のオトコと付き合ってたなんて、いい加減なオンナみたいだ」
真知
「なるほど。ま、私はそんなオンナじゃないけど。一度に好きになるのは一人の男だけ!」
速人
「これからもその調子でな。浮気なんて旦那さんがかわいそうだ」
真知
「失礼な。私、すごいいい妻になるから」
速人
「よろしく頼みます。ああ、ようやく次だな。役所は本当、待たせる」
真知
「じゃあ、お兄ちゃんともバイバイだね」
速人
「だな。で、結局いつ好きになったんだ?」
真知
「私が仕事辞めて実家に戻ってすぐくらい? 半年前だね」
速人
「それで昨日のプロポーズか。義理だったら兄妹でも結婚できるから! すごい強引だった」
真知
「かなり手加減したよ。じゃ、今日からまたよろしくね、速人」
一番の思い出は? いなばー @inaber
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