最後の5分

21グラムの私

 ――人間の魂の重さは、21グラムである。


 なんて説が少し前に流行ったっけ。なんでも、人が死んだときに体重が21グラム減少するから、それが魂の重さなんじゃないかっていう話なんだけど、実際は発汗作用による体重変化が原因だっていうのが有力な説らしい。

 その21グラムが本当は何の重さなのかは未だはっきりとはわかっていないらしいけれど、汗の重さよりも魂の重さの方がロマンがあっていいよなあ、なんて。



 その“21グラム”になってしまった私はそう思うのである。



 どうしてこんなことになっているのかは全く記憶がおぼろげでわからない。けれど、目の前に横たわっているのが私の身体だということ、今ここでこうして佇んでいる私はどうやらこの身体から抜け出た魂のような存在であるということは、何となくわかる。



 私は、死んでしまったのだろうか。


 死んでしまったから、こうやって魂が体から抜けてしまっているのだろうか。



 死んでいないにしても、それに近い状況であること、そして今ここにいる私がこの身体に戻らないことには、いずれ死んでしまうであろうことは推察できた。

 横たわる私の身体にそっと手を伸ばす。体温はおろか、触れた感触すらもわからない。本当に触れているのかどうかすらあやふやで、肩を揺さぶることも、身を起こさせることも出来そうにない。身体の上に折り重なるようにしてみても、わたしが身体の中に戻りそうな気配はない。

 ううん、これはどうも、ダメっぽいな。

 観念して、私は私の身体をじっと見つめる。わたしという21グラムが抜け落ちて、少しだけ軽くなった身体。その表情はとっても安らかで、まるで眠っているみたい。どうして死んでしまったのかは全く覚えてないし、皆目見当もつかないけれど、苦しんで死んだわけではないようだ。


 だったら、べつに、もういいんじゃないかな?

 こんなに安らかな顔で、眠るみたいに死んだんだったら、きっと私も満足なんだろう。


 そうして私は私の死を受け入れたわけだけれど、それでも一つ、疑問が残る。

 身体から抜け落ちた21グラム――つまり、魂の私は、これからどうなるのだろう。

 いわゆる『お迎え』みたいなものが来て、どこかに連れて行かれるのだろうか。それとも、空気に溶けていくみたいに、このままゆっくり消えて行ってしまうのかな。

 どちらでも構わないけれど、私は最後まで、身体のそばにいようと思った。だって、わたし身体わたしも、同じ私だったんだもの。

 目の前に横たわる私の身体、その手にそっと触れる。やっぱり触れた感触はなかったけれど、それで充分だった。



 そうしているうちに、段々視界が霞んでいく。何もかもの境界が曖昧になっていく。


 どうやら、そろそろお別れみたい。


 だから最後に、これだけは言わせてね。



 それじゃあ、おやすみ。

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最後の5分 @smtk_knell

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