絶望輪廻

水乃流

絶望輪廻

 まァまァ、其処まで決意が堅いなら、もう止めはしないよ。だけど、少しだけ爺ィの昔話を聞いてまいか? 五分、五分でいい……そうか、聞いてくれるか。ありがとう。


 実は以前、わしもお前さんと同じような目的で、ここに来たことがある。当時は、事業に失敗し女房子供にも逃げられ、絶望していたのだよ。そう、ここには死にに来たんじゃ。ところが、わしが崖から飛び降りようとしたその時、藪の中から爺さんが現れてわしを止めてたんじゃ。爺さんは言ったよ、『よせ、絶望しかないぞ』とね。馬鹿な話さ。絶望している人間にそんな言葉を投げかけるなんて。だから、わしはためらうことなく身を投げたんだよ。


 ……生きているじゃないか、って? まァ、続きがあるんだよ。

 次に気が付いたのは、わしが生まれ育った街の中だった。しかも、わしは若返っていたんじゃ。いや、若返っていたんじゃない、記憶を持ったまま、昔に戻ったんじゃ。そこからは、わしの天下じゃった。なにしろ、これから起きる出来事を知っているんだからのぅ。前の人生でダメにした事業も成功させた。順風満帆じゃった。だが、それも前の人生で経験したところまで。わしは、また失敗した。そして、ここに来た。やはり爺さんが出てきて止めたが、わしは構わず飛び降りた。死ぬ気などない、もう一度やり直すためじゃ。


 思った通り、やり直すことができた。次の人生では、失敗せんように注意しながら生きたがやはり上手くいかんかった。そして、わしはまたここに来て、命を絶ち、再び若い頃に戻った。そうやって人生を何度も繰り返し、わしはようやく成功者として寿命を全うできた。大勢の子や孫に看取られながらわしは逝った――はずじゃった。

 そう、元に戻ってしまったんじゃよ。そこからは、地獄じゃった。刺されて死んだこともあれば、事故にあって死んだこともある。大抵、寿命で死ぬ前に苦しんで死んだよ。

 ほれ、今がそのなれの果て、という訳じゃ。わしの話を聞いて、それでもおまえさんは……やはり信じないか。残念じゃ。


 なぁ、もう一度、考え直してみてはくれんか? なにも死ぬことはない。んじゃ……あぁ、飛び降りてしまったか。


 言い忘れていたことがあったのにな。この死を繰り返す新値の輪から抜け出すには、自殺しようとする人間を止めて、なおかつその人間が自殺してしまうことが必要なんじゃ。そして、自殺した人間は、わしの代わりに輪廻に囚われるんじゃ。

 君の犠牲によって、わしはようやくこの地獄から抜け出すことができるよ。


 ――本当に、ありがとう。

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