第4話

 アラームの音で目を覚ます。手探りで目覚まし時計を探して、アラームを止める。

「……爆弾?」

 半分寝ぼけつつ、隆は呟く。確かに男はそう言った。坂本さんは、そんな物騒なものを作りそうには見えないけれど。

 スマホの日付を見ると、やはり昨日のままである。

 着替えて顔を洗い、朝食を食べて学校へ。仁志といつも通りのやり取りをして、一日が始まる。

 授業中、隆はどうやったら坂本さんを助けられるか、それだけを考えていた。放課後、竹内さんたちと会わせちゃダメだ。何とか早く、帰らせないと。

 隆は思い切ったことを思いついた。そうだ、デートに誘おう。竹内さんたちが来る前に、学校から連れ出してしまおう。女子とデートなんかしたことないが、それしかない。

 放課後に近づくにつれ、緊張が高まっていく。場所は駅前のゲームセンターでいいだろうか。なんて言って誘おう。もし、断られたら?

 終礼が終わり、隆は立ち上がる。勇気を持って、坂本さんのもとへ。できるだけ落ち着いて、声をかける。

「坂本さん」

 坂本さんが、こちらを見る。

「これから暇だったら、ゲーセン行かない?」

「え」

 断られるか、と体が固まる。が、

「いいよ」

 意外とあっさり承諾してもらえた。

「あ、ありがとう」

 隆は礼を言う。これで世界を救えたんじゃないか?


 竹内さんたちが来る前に二人で学校を出て、駅前へ向かう。横に並んで歩きながら、話題を探す。

「坂本さんって、科学好きなの?」

「え?」

「いや、科学の本読んでるから」

「ああ、うん、好きだよ」

「……爆弾、とか?」

「爆弾?」

「いや、何でもない。どこら辺が好きなの? 科学の」

 坂本さんは少し考えて、

「終わりのないところ、かな」

「終わり、ないの? 科学って」

「ないよ。人間がいる限り、どこまでも続く」

「へえ、そうなんだ」

 こんなことを言う彼女が、どうして世界を終わらせることになるのか、隆は不思議に感じる。

 駅前のゲーセンでしばらく二人で遊んで、別れる。それなりに楽しかったし、坂本さんも楽しそうだった。これで坂本さんを助けることはできたんじゃないだろうか。

 家に帰り、夕食を食べる。風呂に入り、ゲームをして、ベッドに入る。日付が進むことを願いながら、眠りに落ちる。



 男が立っている。

 男が言う。

「少女は救われたよ。でも、世界は終わるよ。全部燃えてなくなるよ」

 隆は抗議する。

「は? なんでだよ。坂本さんは助けただろ?」

「もう一人助けないといけないよ」

「誰だよ」

「君のクラスにいる、一番目立たない生徒だよ」

「分かんないよ。誰だよ」

「その少年はいずれ、テロリストになって戦争を起こすよ」

「何だよそれ」

「世界は燃えてなくなるよ。やり直してください。やり直してください」

「待ってよ。なんで俺が」

「やり直してください。やり直してください。やり直して――」



 アラームの音で隆は目を覚ます。手探りでアラームを止め、スマホの日付を見る。

「……進んでない」

 隆は落胆する。そして思う。うちのクラス、やばい奴多くないか? 爆弾だのテロリストだの。

 重い体を起こして洗面所へ向かう。顔を洗い、制服を着て、朝食を食べながら、「一番目立たない生徒」は誰かを考える。候補は何人かいるが、一番は誰だろう。

 食べ終えて、カバンを持って家を出る。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 自分にこの世界が守れるだろうか。

 自信は全くないが、隆は学校へ向かって、歩き出す。

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青春 @ninhatto

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