第3話

 アラームの音で目を覚ます。隆はアラームを止めず、天井を見つめたまま動かない。

 今の夢は、何だ? 坂本さんを助けないと、世界が終わる?

 アラームを止め、体を起こす。スマホを見て、日付を確認する。

「ああ……」

 日付は昨日のままだ。また昨日に戻ったのか。

 顔を洗い制服に着替えて、リビングへ。

「おはよう」

「おはよう」

 父親に挨拶してテレビを見ると、アメリカでロケットの打ち上げに失敗したニュースがやっている。

「またか……」

 隆は落胆しつつテーブルに着く。朝食を食べ終え、カバンを持って家を出る。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 母親に見送られ、通学路を歩きながら考える。どうやったらこの繰り返しが終わる? 夢の中の男は、坂本さんを助けろと言っていた。でも、どうやって?

 考えながら学校に着く。教室にはもうほとんどの生徒が来ている。窓際の後ろのほうの席に、坂本さんが座っている。手には分厚い本を持って。あれは何の本だろう。

「よ」

 仁志が話しかけてくる。

「おう」

 仁志はにやけながら、

「今日はオナニーしてきた?」

 かなり面倒くさいが、

「してねえよ」

 しぶしぶ答える。

 教師が入ってきて、朝礼が始まる。


 昼休み、隆は思い切って、坂本さんに話しかけてみることにした。

「何読んでるの?」

 坂本さんは本から顔を上げて、

「あ……科学の本」

「科学? どんなの?」

「えっと……素粒子物理学とか、超ひも理論とか」

「すごいね、なんか」

 そこで会話は途切れる。

「えっと……今日だけど、早く帰ったほうがいいかもよ」

「え?」

 坂本さんは不思議そうな顔。

「いや、何となくだけど」

 隆はそのまま自分の席に戻る。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


 放課後、隆は自分の席に着いたままでいる。

 仁志はとっくに部活に行ってしまった。

 坂本さんは、まだ帰らず自分の席で読書をしている。

 そこへ、竹内さんや佐野さんや、女子数人が近づいていく。

「坂本さん」

 竹内さんが声をかける。坂本さんは本から顔を上げる。

「ちょっと、トイレ来れる?」

 いいえ、とは言えない雰囲気で、竹内さんが言う。坂本さんはゆっくり立ち上がる。隆は行っちゃダメだ、と言いたいのを堪える。

 女子たちに囲まれて、坂本さんは教室を出て行く。隆は後を追うかどうか迷うが、立ち上がる。

 廊下へ出ると、坂本さんたちが女子トイレに入っていくのが見える。隆はトイレの前まで行き、聞き耳を立てる。何かしゃべっているようだが、内容は聞き取れない。

 しばらくして、竹内さんたちがトイレから出てくる。が、坂本さんの姿はない。竹内さんと目が合うが、何も言わず通り過ぎていく。

 トイレの中がどうなっているか、坂本さんがどうなったか、ものすごく気になるが、女子トイレには入れない。しばらく突っ立って待つが、坂本さんは出てこない。

 隆は諦めて、家に帰ることにした。あの男の言った通り、坂本さんを助けないと世界が終わるとしたら、これは失敗だ。

 家に着いて、昨日と同じようにレースゲームをする。セーブデータが元に戻ってしまうので、ハマっているRPGはできない。

 夜になり、夕食を食べ、風呂に入り、ゲームをして、ベッドに入る。いつまでこの繰り返しが続くんだろう。



 男が立っている。

 男が言う。

「また世界が終わったよ。全部飲み込まれて消えたよ」

 隆が言う。

「なんで世界が終わるの? 教えてくれよ」

「あの少女が世界を終わらせるよ」

「坂本さんが? どうやって?」

「新しい爆弾を作るよ。全部飲み込む爆弾を作るよ」

「坂本さんが?」

「今日助けないともう学校に来ないよ。そして爆弾を作るよ。やり直してください」

「ちょっと待って」

「やり直してください。やり直してください。やり直して――」

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