第2話

 アラームの音で目を覚ます。手探りで目覚まし時計を探して、アラームを止める。あくびをして、ゆっくり体を起こす。眼鏡をかけて、洗面所へ向かう。今日はちゃんと眼鏡を外してから、顔を洗う。

 制服に着替えてリビングに向かう。父親が食卓に着いている。

「おはよう」

「おはよう」

 テレビを見ながら朝食を食べる。テレビでは、アメリカでロケットの打ち上げに失敗したニュースがやっている。

 あれ? このニュース、昨日も見たような。

「このニュース、昨日もやってなかった?」

 父親に聞くと、

「いや? やってないけど?」

「ん?」

 違和感を覚えつつも、食事を終え、カバンを持って家を出る。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 母親に見送られ、いつもの道を歩き、学校に着く。

 教室に入り、仁志に、

「よお」

 と挨拶すると、仁志はニヤけながら、

「今日はオナニーしてきた?」

「してねえよ。またかよ」

 仁志は不思議そうな顔で、

「また?」

「昨日と同じこと言うなよ」

「は? 言ってねえよ」

「え? だって昨日も言ったじゃん」

「何言ってんだよ。言ってねえよ」

「……そう?」

 また違和感を覚えたが、教師が入ってきて朝礼が始まる。

 そして、この日の授業は、昨日受けたものと全く同じだった。

 しかし、確かに昨日書いたはずのノートに、何も書かれていない。

 隆は混乱しながら授業を受けた。俺はおかしくなったのか?


 昼休み、隆は仁志に言ってみた。

「今日って昨日と一緒じゃない?」

 仁志は怪訝な顔をして、

「何言ってんの?」

「なんか、今朝からずっと、昨日と体験したことが一緒なんだけど」

「……お前、大丈夫か? 熱ある?」

「いや、ないと思うけど。……今日って何曜?」

「火曜だよ」

「水曜じゃなくって?」

「火曜だって。お前、ゲームのし過ぎじゃねえの?」

「……そうかな」

 信じてもらえるわけがない。隆は諦めて、午後の授業もおかしな気持ちで受け続けた。


「じゃあまた明日な」

 放課後、部活に向かう仁志に声をかけられる。

「おう」

「ゲームし過ぎんなよ」

「……うん」

 隆はカバンを持って、玄関へ向かう。学校を出て少ししたところで気づく。

「あ、攻略本」

 昨日と同じように、来た道を引き返す。教室に入り、自分の机の中を見ると、そこに攻略本があった。

 そこで、視線に気づく。

 教室の後ろのほう、数人の女子がこちらを見ている。その中心には、うずくまる女子。

 昨日と同じだ。

「……どうしたの?」

 昨日と同じように聞くと、

「何でもないよ。帰りなよ」

 立っている女子、竹内さんが、昨日と同じように言う。

 だが、今日は少し、食い下がる。

「……しゃがんでるの、坂本さん? 大丈夫?」

「いいから、帰んなよ。大丈夫だって」

 竹内さんが少し強く言う。

 その時、隆の耳に、坂本さんのすすり泣く声が聞こえた。

「……泣いてるの?」

「泣いてないって。帰んな」

「女子の話に口出すなって」

 竹内さんと佐野さんに言われ、しぶしぶ隆は攻略本を持って教室を出る。

 帰り道、考える。今のはもしかして、いじめではないか? うちのクラスにいじめがあるなんて聞いたことがなかったが、坂本さんは確かに泣いていた。竹内さんたちが彼女に何かしたのか?

 隆は嫌な気持ちになりつつ、家に着いた。

 自分の部屋へ行き、カバンを置いて、ゲーム機の電源を入れる。どんな時でも、ゲームはする。が、昨日の続きをやろうとして、衝撃を受けた。

 セーブデータが、一昨日のままだ。昨日進めたはずのゲームが、進んでいない。

 隆は確信する。なぜかは分からないが、一日戻っている。昨日と同じ一日を、繰り返している。

 こういう時は、どうするべきだろう。誰かに相談するべきか。相談するなら親だろうか。だが、仁志と同じ反応をするかもしれない。もしかしたら、病院に連れていかれるかも。

 隆はスマホを使ってネットで調べてみた。どうやらこの状況は、タイムリープというらしい。フィクションではよくあるが、現実に起こったという事実はもちろんない。解決法も、書いていない。

 しばし呆然とした後、仕方がないので、昨日と違うレースゲームをやることにした。これならセーブデータはあまり関係ない。

 夜になり、昨日見たのと同じテレビを見ながら夕食を食べ、またゲームをし、風呂に入り、ベッドに入る。

 早く明日になってくれ、と念じながら、目を閉じる。



 男が立っている。

 男が言う。

「また世界が終わったよ。全部飲み込まれて消えたよ」

 隆は尋ねる。

「どういうこと? なんで世界が終わるの?」

「あの少女を助けないと、世界は終わるよ」

「あの少女って誰?」

「いじめられているあの子だよ」

「坂本さん? なんで?」

「あの子を助けないと、世界は終わるよ。やり直してください。やり直してください」

「ちょっと待って。何を――」

「やり直してください。やり直してください。やり直して――」

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