クレシェンド

安良巻祐介

 

 三日月型の電燈とクロワッサンが町に流行り出してから、夜の灯りが少しばかり青系統に寄り過ぎているものと思われる。

 雑踏を行きかう人々の顔も、心なしか心霊的になっており、水底のくらしのような気配が漂っていた。

 部屋に帰り、照明を入れると、青白く弧を描いた電燈の管の周りを、蜻蛉に似た体の細い羽虫が、ふわふわと寄る辺なく飛んで行くのが見上げられる。

 熱いミルクとクロワッサンで夜食を取った後、寝床へ入っても、どことなくそわそわとして落ち付かず、開け放していたカーテンを閉めに立ったら、ビル群が背を寄せあう向こうの空に、流行り病の仕掛け人が、よほど儲かったものか、少しばかり太った姿でゆっくりと上がって来るところであった。

『今日は弦月』

 部屋のお喋り時計がそう呟くのを聞きながら、空の半ばあたりで雲の紫煙をふかす青い顔を、こちらも青い顔でしばらく見つめていた。

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クレシェンド 安良巻祐介 @aramaki88

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