カウントダウン
楸白水
カウントダウン
実際は世界の時の流れというものはただ連続した単調なものでしかない。しかし人間は何かと節目を付けたがる生き物である。その区切った時間の一つ一つの枠の中で喜びや悲しみの色を付けてゆく。何もしなければその節目の前後になんの違いもないのに、つくづく人とやらはお祭り騒ぎが好きなのだと実感した。
「さて、今年も残すところあと五分です!」
テレビには、もう夜中だというのに寒空の下で楽しそうに飛び跳ね笑い声をあげている大勢の人々が映っていた。その周りでは色とりどりのイルミネーションが主張激しく喚き散らし、まるで昼間のようにぎらぎらと点滅を繰り返しながら夜空を飾っている。その中でリポーターが人の波に埋もれながらなんとかカウントを取り続けていた。
ふと自分の真横に目を向けると、瞼が半分閉じてしまっている情けない横顔がすぐ近くにあった。先ほどまで「カウントがゼロになったらジャンプする」と子供みたいなことを言ってはしゃいでいたのだが、もう力尽きてしまったらしい。だから体力は温存しておけと言ったのに。呆れながら机に広げた菓子を頬張った。テレビの中はあんなに騒がしいというのに、自分には話し相手もいないことを残念に思った。
「残り三分です!皆さんは来年の抱負は決めましたか?ここにいる方たちにも聞いてみましょう!」
「ええと、来年こそは寝坊しない!」
「早寝早起き、頑張ってくださいね!」
楽しそうに会話を繰り広げるテレビが羨ましくなって、軽くこいつをゆすってみる。小さく唸って少し身を捩ったかと思えば完全に目を閉じて動かなくなってしまった。一度寝てしまったらもう朝まで起きないであろうことはこの数年の付き合いでよく知っている。
まあ、仕方ない。諦めるとしよう。お前も今年はジャンプができなくて残念だったな、相棒よ。
「あと二十秒です、さあ皆さんもご一緒に!十九、十八……」
うるさいテレビの音は放っておいて、ゆっくりと起こさないように自分の口をこいつの耳元まで近づけた。
これは別に聞いていなくてもいい、ただの自己満足の終わりと始まりの言葉である。
「今年もありがとう。まあ、来年もよろしく頼むよ」
「ゼロ!明けましておめでとうございます!」
ただ連続した単調な時間の中、人々は祝福の言葉を並べて湧き上がる。それは自分自身もそうだった。興味の無いふりをしながらも大勢がそうしているように喜び、祝い、幸せな気持ちに満たされている。
こうして世界は一秒前と何ら変わりない、しかしとても大きな節目を迎えたのだった。
カウントダウン 楸白水 @hisagi-hakusui
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