始まりを告げる、最後の五分間

あきのななぐさ

ラスト五分

「はい。――いえ、延長はなしで」

年越しカラオケも、もう最後の時間となった。

一晩中歌った曲は数知れず。

年越しのソングは『贈る言葉』で、新年一発目は『明日があるさ』だったのは俺達らしい。

新年早々、いきなり元旦をすっ飛ばせって感じになってしまって楽しかった。J-POP、アニソン、バラード、洋楽など、自分の持ち歌を余すところなく披露した。


でも、それも残り五分。


俺と徹と渚とあかねの四人だけでよく歌いきったものだ。まあ、こいつらとは小学生からの腐れ縁だからかもしれないな。

もっとも、普通男女二人ずつなら、誰かが付き合ってもよさそうだけど、俺達はそうならなかった。


何せ距離が近すぎた。


今更付き合うって何だろうと思ってしまうぐらい、お互いの事を知っている。

大体、徹はあかねが好きな時はあったし――今は知らないけど――、俺も渚が好きだった。でも、渚は徹の事が好きだと気付いてしまってから、密かに言わなくてよかったと思っている。


でも、それも過去の話。今ではそれも封印した思い出だ。


「なあ、あと五分だってよ。ラスト一曲入れてくれ」

多分、俺は疲れていたのだろう。普段なら、この面子でこんな事は言わない。


研究データ整理と、卒論の手直しや、入試準備で忙しかった。

助手だから、こんな時しか自分の研究に没頭できない。ただ、今年は機械のメンテナンスが入ったからそれもできなかった。


徹から脅されるように呼び出されたけど、実を言うと体力も精神力も限界だ。


「って、お前ら、ふざけてんのか!」

画面に表示されたそれを見て、ついそう叫んでしまった。

一瞬の気の緩みで、油断した自分が情けない。


「ラスト五分っていっただろ? 何で三曲入れてんだよ! 一曲だろ? 短くやって二曲だろ?」

こうしてる間にも時間はすすむ。


「だってぇ」

「だってねぇ」

渚とあかねがここぞとばかりにアピールしてきた。


「可愛く言っても駄目なもんはダメ。選べよ」


でも、とりあえず内容を見ないと……。って何だこれ?


「だって、だってぇ」

「うるさい! お前はまず消せ! 大体、これ徹だろ? なんで最後に『サライ』を入れる? 残り五分って言ったよな?」

「お前、ラストっていったら『サライ』だろうが!」

「まあ、定番だよ。でも、五分じゃ終わらねーって! 長いんだよ! あれ!」

「ちぇ、今年も細かいよな、お前」

「当たり前だ、まだ半分去年だ! 盛り上がってる時の電話終了。新年早々、残念すぎる」

「ちぇ、わぁーたよ。別のにする」

「辞退しろ! あかねと渚のを順番に回せばいいだろ?」

「それこそ、途中で終わるじゃねーか! いい加減選べよ! お前のせいだ、お前の! じゃあ、どっちにするんだ?」

「はぁ? 何だそれ? もういい。なあ、二人とも譲るつもり……。ないんだな?」

まあ、聞いた俺がバカだった。でも、これも俺達らしい。


頑なに首を振る二人がいれた最後の曲。

『Marry you』と『butterfly』には、一体どんな意味があるのだろう。

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