もう少しだけでいい。

藤咲 しおり

終わりですね。

 永遠と広がる暗闇。そこに散らばっている、色とりどりの……どう言い表せばいいのか。星、みたいなものが大量にあった。赤、黄、檸檬色、山葵色、若草色などなど。とてもこの世のものとは思えない、不思議な光景の中に、私は独りでいる。なんで? 私はどちらかというと社交的で友達もたくさんいる方。なのに、なんでこんな何もないところにいるのだろう。しかも独りで。そう思っていると、突然目の前にあった光景が変わる。……巨大な影が近づいて来る。目を凝らして見ると、影は人の形をしていた。私は、このままではあれとぶつかる! と思い、空中でもがく。でも、避けられそうにない。すると、

「はぁーやぁーくぅー」と、人影が恐ろしく低い声でうなってきた。もう、びっくりしましたよ、ほんとに。殺されるかと。勇気を出して、

「なにを〜!」

 と叫び返すとすぐに、

「なーーにーーいーーってーーんーーのーーよーー!」

 と、少し怒った? ような、でもやっぱり気味の悪い、ひくーい唸り声が返ってきた。そして人影は怒ったせいなのか、さらにスピードをあげて私の元に迫ってくる。もう無理だ。人生終わりだ。人影が黒い巨大な手を伸ばしてくる。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 叫んだらどうかなると思った。どうかなって欲しかった。すると、巨大な手はぎりぎり目の前で止まった。……た、たすかっ、た?……そう思いたかった。目の前にある黒い手は、みるみる白くなっていき……。


「もうっ、あんた朝から叫ぶなっ!!」

 お母さんが怒鳴っている。その怒鳴り声を聞いて、もう既に開いていると思っていた目をゆっくりと開き、私が発した言葉は、これだけだった。


「最後に5分間だけ寝かしてェーーーー」


 お母さんのため息を聞いた直後、私は再び暗闇の中へと冒険に出た。

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もう少しだけでいい。 藤咲 しおり @hime-21

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