さよならのための花言葉
夏川 流美
手紙
貴方を好きになって、1年が過ぎました。もうすぐ、更に半年が経ちます。私はいつだって、貴方の隣にいたつもりでした。
席替えで席が近くなれば、休み時間になる度に目一杯話をして。移動教室の授業があれば、一緒に教室まで歩いていって。放課後だって、陽が落ちるまでずっと話していました。
ここまでして、なんで貴方は私を好きになってくれないのだろう。何度も疑問に思っては泣きました。貴方に想い人がいる限り、私と目を合わせてはくれないと分かっていたのです。
私は、学校を辞めることにしました。いきなりでごめんなさい。これ以上、貴方の声を聞いているとおかしくなってしまいそうで。大丈夫です。これを機に、貴方に対する想いも消し去ります。
もうきっと、会うことは無いと思います。ラインから貴方のことを消してしまうので、会話することも無いと思います。夜の仕事をするつもりなので、本当に、会わないでしょう。
寂しくって堪りません。辛くって堪りません。こんなに貴方のことを好きにさせられたのに、どうして貴方は私のことを、見てはくれないのですか。お願い、こっちを見て。あの子の話なんて、しないで…………。
ごめんなさい。心から、ごめんなさい。こんな私が、貴方を好きになってしまってごめんなさい。多分いつも私のこと迷惑だったと思います。ごめんなさい。貴方が私を頼ってくれたとき、すごく嬉しかったです。ありがとう。次はあの子に、話してあげてください。
さよなら、というやつですね。貴方と別れる日がくると思いませんでした。言葉を交わさなくなる日々がこれから続くなんて、どうにかなってしまいそう。
それでも私、耐えますから。心配はしないでください。貴方は心行くまであの子とお話してください。私はそのうち慣れます。いつしか、貴方と話さないのが当たり前の日々に戻ります。だから私は、大丈夫です。
長くなってしまってごめんなさい。最後にこんなことして、なんて未練がましいのでしょう。ごめんなさい。
今までずっと、ありがとうございました。楽しい毎日が、嬉しかったです。貴方が私のことを忘れてしまう日がくるかもしれないけれど、私は貴方のこと、ずっと覚えています。
本当に心の底から、貴方のことが、大好きでした。
さようなら。
*
考えに考えて、1時間もかけた手紙。ピンク色の便箋を封筒に入れる前に、心の全てをぶつけるように丸めた。なんて気持ち悪いんだろうと、嘲笑う。目から温かいものが次々に流れて、私の拳を濡らした。
――まったく、馬鹿だなぁ。
か細い声で呟いた。辛過ぎる片想いはもう、明日で終わり。最後まで私はあの人に、想いを伝えられはしない。なんて情けない最後の学校生活を迎えるんだろう。
こんなにも胸が締め付けられて苦しいのに、痛いのに、あの人に想いを伝えられる勇気は出てこない。大好きなあの人に振られることが、あまりにも怖すぎた。
机上に置かれた、小さな花に目を移す。ミニポットの鉢に入った、白とピンクの日々草。近くの花屋さんに無理を言って、お願いした物。ご丁寧に、ミニポットの鉢には淡いピンクのリボンが巻かれている。
明日の帰り、気づかれぬようにあの人のロッカーの中へ入れるつもり。それが誰からのものか、何の意味を持つのか、あの人は分からないんだろうな。
はは、と乾いた笑いを漏らした。目から流れているものは、まだ止まりそうになかった。
大好きです。
たくさんの想いを、人知れず日々草に込めて、明日、貴方に贈ります。それが私からの、精一杯の想いです。……ありがとう。
さよならのための花言葉 夏川 流美 @2570koyama
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