第2話 折り紙の鶴
「お兄さん元気?」
「うん、元気だよ。もうピンピンしていてね、子供みたいに走り回ってはしゃいでいるよ」
「そうか、ほどほどにって言っといて」
「いつも言ってるよ・・・」
病室にある丸椅子に腰かけながら、あきれたように美玖は自分の兄のことを語った。
美玖のお兄さんは元々ここの患者だったんだ。美玖はお兄さんのお見舞いの為に来ていたらしい。お兄さんは事故に巻き込まれて足を骨折して、この病院に救急搬送されてきた。全治半年と言われていた骨折をわずか三か月で治してしまった超人だ。二か月前に退院していったきりもう会っていないが、入院中は良く美玖のことで話したものだ。美玖のことを話すたび、美玖に恥ずかしいと怒られるのが定番の流れだった。
「そうだ、ユーくん。都さんの渡し忘れたから渡しておいてって言われてこれ渡されたんだけど・・・」
「・・・?」
美玖はカバンの中をあさり、中から取り出したのは折り紙だった。
うすうす折り紙だろうなとは思っていたが本当に出てくるとさすがにダメージがあるな。僕は肩をがっくりと落とした。
なぜ僕がそんなにも折り紙を残念がっているのかは、窓際を見ればすぐに分かる。僕の病室の窓際には千羽鶴がかかっている。七束。しかもすべてが、僕と美玖が作ったもの。僕は、美玖以外に千羽鶴をもらったことがない。
それなのに姉ちゃんは、折もしない折り紙ばかり渡して帰って行く。姉ちゃんに悪気はない。そんなことは分かっていても、折り紙はもう見たくない、と思う自分がいる。それを見るたびに自分の死を感じるから。
「ユーくん、大丈夫?」
美玖が僕の顔を心配そうにのぞき込む。僕の顔はそんなに暗く見えてのだろうか。
「う、うん。大丈夫だよ。それにしても姉ちゃんは、もう少し違う暇つぶしは持ってこないのかな。いい加減折り紙も飽きたよ」
「そうね。今度都さんに行ってみるわね。せっかくだし、また鶴でも折る?」
「そうだね」
二人は病室の机の上で鶴を折り始めた。
海辺の赤い鶴 @tamabou
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