海辺の赤い鶴

@tamabou

第1話 患者の僕

 海辺のそばにある病院。


 その言葉を聞いただけで、恋愛の王道と感じる人もいるだろう。僕だってそう思う。入院中の彼女とお見舞いに来た主人公。映画やドラマで使い古されたありきたりなストーリー。


 だが、使い古されているから面白くないわけでもない。むしろ、面白いから使い古されるまで同じ物語が作られたのだ。


 そう考えると王道は面白いと痛感させられる。でも、この物語は、病弱な彼女がいてこそのものだと思う。だとしたら、僕の生きる人生は、王道をなぞれてはいないのだろう・・・。


「悠?着替えと暇つぶし持ってきてあげてわよ~」

「ありがとう姉ちゃん。いつも僕が動けないから」

「なに言ってんの。姉弟でしょ。それより美玖ちゃんこの後すぐ来るって」

「うん。分かったよ」


 姉ちゃんは、僕の身の回りを手早く片付けると足早に去って行った。


 ここは、病室。茜病院という、海辺のそばにある大きな病院の海の見える個室。僕はそこの重病患者。年齢は17歳。名前は小鳥遊悠。病名は・・・がん。正確的にはすい臓がんと食道がん。その他にも小さな転移が見られ、医者からはもう治らないと言われた。余命は3か月もない。余命が出たとき、家族は膝から崩れ落ちていた。父の泣いた顔はその時初めて見た。あのときばかりは、生まれてきたことを後悔し、自殺を考えた。


 でも、今こうして生きている。自殺しようとしていた僕を救ってくれたのは美玖という少女だった。年齢は16歳。名前は花村美玖。少し恥ずかしいが、今では美玖は僕の彼女だ。とてもいい彼女で、優しい心を持った子だ。


 僕たちが初めて会ったのは半年前。余命宣告をされてちょうど1か月のとき。7階のこの病室から身を投げようとしたのを止めてくれた。たまたま前を通りかかったとき、窓から落ちようとしたのをひぱって止めてくれた。ま、その後さんざん説教されたけど・・・。それから縁があり、何度か会っては話すようになって恋仲になった。


「ユーくん。来たよ」

「おはよう美玖。姉ちゃんには会った?」

「うん。都さんとは下であった。受付でばったりと。ニヤニヤされたよ」

「姉ちゃんはそんなんだから、ごめんね?」

「いいよいいよ。楽しいし」


 美玖は口元に手を当て楽しそうに笑った。美玖の笑顔を見れば病気など治ったと錯覚するほどだ、癒される。こんな事、絶対に口には出さないけど。


 美玖と僕の家族は、付き合って2回目に会う時に僕が紹介した以来、仲よくしているようだ。本当は紹介したくなかったんだけど、美玖がどうしても紹介してほしいというので仕方なく・・・。美玖にどういう意図があったのかは分からなかったが、その時の美玖はとても真剣は様子だった。

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