第2話 ウソの破壊者
ヒカリは僕達に注意する。
「そろそろループ機能を使うわ。赤山以外は、小さな箱庭へと行ってもらう。気をつけることは、再現度が七十二パーと低いこと」
「つまり、ヒカリでも予想出来ないこともあるということだな」
と、ナゴムは気合いを入れる。
「そういうこと」
と、ヒカリはボタン操作を始めた。メンバーと連絡は取れるはずだったよな。
よし。準備は出来た。出来ていないのは、心の準備だけさ。それはいつまでも残るだろう。
僕とユキはどうなった? ここは連サカのフィールドじゃないか! どうやら僕達はどっかに飛ばされたらしい。
「あれが噂のホシ選手か。エントツ以上の器らしいぜ」
「最強のスキル『体の傷』ってスゴイんだろ?」
「早く見たいよ」
「ワードがエントツを手放してでも欲しい選手か!」
えーと。いろいろと声が聞こえるが、状況が見えない。
しかし、ユキは一瞬でここの事態を把握する。
「ここはホシの少年時代だねえ。つまり、ループを繰り返していた頃よ。あの時とは違い、ホシとエントツのトレードが成立した世界ということ」
僕は状況を把握するとともに、首を振る。
「ユキさんよ、問題はここの状況ではない。何故ナゴムが僕を手放したかだー!」
ユキは僕の肩に手を置く。
「昔の恋人ナゴムのことは忘れて、ホシ!」
「おかしな言い方はしなくていい」
と、僕はユメに言う。
まだ見物しているチームワードのメンバー達は騒いでいる。
「ホシは本当にエントツより凄いのか?」
「最強の連携って、ワードさんと出来るんだろ」
「ウソだって」
そんな時、一人の少年が前へ出る。
「本当だよ、みんな。ホシはワードにも劣らない。久しぶりだねホシ。って俺のこと忘れた?」
僕は思い出す。
「オオカミじゃないか。チームナゴムとチームワードの練習試合で一緒になった」
オオカミは首肯く。
「そうそう。マコトもいるよ」
ボーイッシュな少女は挨拶をする。
「私とオオカミは、スタメンとベンチを行ったり来たりだけどね」
「これでも地方では、トップクラスだったんだよ」
と、チームワードのレベルの高さが解る。
遂にワードの登場だ。今より少し幼いな。
「ホシ。遂に来てくれたか。俺とエントツとの縁が消えた訳じゃないぞ。ただ、エントツには実力が足りなかっただけだ。んっ? ホシではあるが、印象が違いすぎる。ホシの『体の傷』がない。ククク、それはそれで面白い」
ワードの声が小さく、後半が聞き取れない。
「どうした、ワード?」
「いや、楽しくなってきやがったってことさ」
僕の問いに、ワードは言葉を少し濁す。ワードはチームメイト達に言う。
「ホシは体の傷を封印中らしい。それでも実力は本物だ。軽くトレーニングでもしていけ、ホシとユキ」
僕はユキに問う。
「作戦はどうする?」
「ワードは実力主義だから、力を見せれば細かいことは気にしないよ」
「解った」
ユキの作戦に僕は頷き、気合いを入れる。
僕は、いつも通りドリブルからヘルシュートにつなぐ。チームワードの実力は、この程度か? って、当然だろ! 僕はアバターとはいえ大人で、チームワードは少年チームだ。少女もいるけど。
「ワードさんより凄かったんじゃないか?」
「さすがに言い過ぎだろ」
「うーん」
と、チームワードのみなさん。
連携値が上がっていく。何故だ? 僕は下がると思っていた。仲良し度は、さっきの僕の好プレーで下がると思ったんだがな。ユキが解説する。
「ホシはぼっちだから、勘違いをしている。連携値イコール仲良し度ではないの。チームワードは仲良しではなく、ワードへの『憧れ』で連携している」
「つまり、憧れの相手はワードだけではない。かつてのエントツも、そうだったということか」
「うん。好プレーはここではプラスだよ」
と、僕とユキ。
そして、今日は解散。
「今日もチェーン店の『ぼっちホシ』で、カタログ注文するよ」
「俺もだ」
と、チームワードの会話。
「ユキというよりヒカリか。このあたりはデータだな」
と、僕はつぶやく。ユキは知らんぷり。
ここで、オオカミとマコトが声をかけてくる。
「いよいよチームアローとチームワードの対決だね」
「アローは凄いけど、ホシとワードなら勝てるわ」
そんなことになっていたのか。因みにチームナゴムとチームサトルの対決もあり、先に行われるらしい。トーナメントだから、勝ち上がったチームが、また戦う。
「データ管理システムスターとも、勝ち上がれば対戦出来るって」
何だと! スターと僕はまた戦うのか?
マコトは僕とユキをジロジロ見る。
「ホシとユキって、ヒカリ選手と何か似ているね。チームヒカリとはトーナメントで対戦しているけど」
それを聞いて、ユキは不機嫌になる。
「ヒカリ選手のようなわがまま娘と、一緒にしないで欲しいよ」
「うん、解った」
と、マコトは追及を止めた。
ユキは僕に話があると、ループルームに移動した。ユキはどうしたんだろう? ユキは真面目に言う。
「ホシがチームワードと仲良くなるのはいいんだけど、この世界はヒカリが『キープ』しなければ、消えてなくなるんだよ」
「何? この世界はそれだけのものなのか」
僕は少し残念に思う。この世界で楽しんだことは、ウソの破壊者と化す、つまりは、ただのゲームだ。僕とユキは、大きな勘違いをしていることに気づけずにね。ヒカリとの連絡によると、そういうことだ。ヒカリの言う勘違いとは、ヒカリの『直感』に過ぎないらしいけど。僕は強い気持ちで、チームワードの思い出を作るつもりさ。
チームナゴムとチームサトルの対決の日が訪れる。エントツのコンディションを僕は心配していたが、エントツの気合いは凄い。これはチームナゴムにとって、いいトレードかもな。ワードは確認する。
「もうすぐ試合が始まる。チーム全員ではないが、この対決はよく見ておけよ」もうすぐなのか。僕のいないチームナゴム。僕が気にしないわけないだろう。
試合開始。何だ? チームサトルの動きが悪すぎる。確か三十分の試合だ。オオカミはつぶやく。
「これはエントツのスキル『スピードの沼』だ。チームサトルにはスピードではなくパワーが要求されるぞ」
ユキも加わる。
「へえ。チームサトルはそれでもパス回しにシフトせず、真っ向勝負だね」
スピードを失なえば、普通パスに切り替える。だが、それがエントツの狙いだった。しかし、チームサトルは、冷静に立て直しつつある。
しかーし、ナゴムがそのスキを許すわけないだろう。ワードはあやしく笑う。
「この試合は九割近い確率で、チームナゴムが勝利するだろう。『ナゴム』よ。キサマの相棒はチームワードにいる。ユキの作戦もない。大切なものを、発動出来ないってことだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます