夜宴の客・03
数分後、見習い
ユリィは支度部屋に移動した。
舞踏用の衣装を脱ぎ装飾も
───面倒くさいなぁ。べつにこれでもいいじゃん。
と思うのだが。
蓮李の
とにかく暑いので薄物を身につけたい。
上衣から裳裾まで透き目のある織り布で仕立てた水色の衣装に着替える。
素肌にその一枚ではさすがに裸体が丸見えなので、その上に薄い
羽織りには飾りで穴のあいた小さな乳白色の
髪を梳かし、化粧を直し、髪飾りをどうしようか悩んでいると、予感通り蓮李が顔を出した。
「なんだ、まだ用意ができてないのかい」
蓮李はユリィの上から下までじっくり眺めると、飾り箱の中から青玉の首飾りと紫玉の髪飾りを選び、ユリィに渡した。
「〈紫蘭の間〉でお待ちだよ」
「………へぇ、随分と豪華な部屋を用意したもんだ」
首飾りと髪飾りを着けながらつぶやくユリィに、蓮李は笑う。
「それに見合うだけの客ってことさ。
あの客が支払った金子は一晩分だけどね、短時間で終わるような「占売り」の料金とは比べものにならない額だからね。よ~く、肝に銘じておきな」
「はいはい。朝まで一緒にいりゃいいんだろ」
(悪夢を喰わせたら催眠術で熟睡させてやろう)
身支度を済ませ椅子から立ち上がったユリィを、蓮李はもう一度眺め、首飾りと同色の
光沢のある青色の布に紅色の小花の刺繍が可愛らしい沓を履き、満足げに頷いた蓮李に見送られ、ユリィは覆面が待つ〈紫蘭の間〉へ向かった。
◇◇◇
「失礼致します」
紫蘭の間に入ると、座椅子に座る覆面男がこちらを見た。
───覆面、いつ外すのだろう。
それとも朝まで外さない気だろうか。
そんなことを思いながら、ユリィは静々と歩み寄り、覆面の横に腰を下ろした。
「酒はもういい」
男の言葉にユリィは頷いた。
「それでは早速「占」を致しましょうか。どのような占をお望みですか?」
覆面は小さく首を振って答えた。
「少し話をしたいがよいか?」
はい、と答えたユリィを見つめながら覆面は続けた。
「おまえの舞踏はまるで風を操っていたように優美だった」
「ありがとうございます………」
舞踏を披露することなど滅多にないので褒められることは珍しい。
集中特訓と演出効果の甲斐もあってか、優美だったという感想に、ユリィは素直に嬉しく思えた。
「お褒めいただき、とても嬉しく思います」
「妖力にはそういう使い方もあるのだな」
さすがにドキリと心臓が跳ねた。
「………なんのことでしょう」
「そのままの意味だ。おまえは妖力持ちなのだろ? ………そんなに睨むな」
覆面の中で男は目を細め苦笑している様子に見えた。
睨んでいたつもりはないが、自分の動揺は伝わったに違いないとユリィは思った。
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