神能件14
「こんばんは、人の子」
「……時間感覚とかあるんですね」
「日報は退勤直前に書くものだからな、人の子はさっさと書いてしまうせっかちさんなのか?」
「そうでもないんですけど……」
長い金髪と青い目の神様が愉快そうにこちらを見ている。言い方は少し変わっているが……おそらく見下ろしているにも関わらず、態度は変わらないだろう。
「日報とは過程を見るものであって、結果ではないからな」
「はあ」
「私は確かに全ての事象を知ることが出来ても、人の持つ考えや可能性はそうではないだろう。人の子が成長したい、を目標として掲げている以上、経験により興味がある」
経験や可能性に興味がある、か。あんなものを国に置いているというのに。
心を読んでいるはずの神様は表情を崩すことなくにこにこしている。これがデフォなのだろう。神様の道楽に使われてしまったと嘆いても良いだろうか。
「いや、人の子が差し出した命を、私はこうして還元した。それ以上のことは手を出さない。そうだな、制裁は終わった」
「それは、神様の遊び道具として生きることが確定したから?」
「いいや、人の子は自由だ」
「あんなのに自由なんてありますか」
「そうだな、だから人の子が十分に生きることが出来る世界に行ってもいい。あの国に留まって、安定した享楽を得るのもいい。もう一度言うが、私が人の子に罰したことと言えば、転生を促したこと、そして償いは終わった」
「でも話は聞きたいんですよね」
「それは、出来ればでいいんだが……ダメか?」
そんなにしょげた顔されても困るが少し行動がちぐはぐな理由が分かった。信仰が強い中で、自分がより良く使っているにもかかわらず、汚染されたのは本人の意思によるものだろう。
だがそれでも不明瞭な点はいくつかある。
①なぜ神様はこの魔法を作ったか
②彼らの汚染を見て、神様は助けようと思わないのか。
この二点はどうしても分からない。神様の性格を考えれば、(大胆だが)自分にこのような状態にしたことは好意であると納得が出来る。
しかし問題は神様の目線で、自分は他と違うことを示している。
それはなぜか?自家用車で轢いたから?だったら、こんなことをしないで、然るべき何かしらに金だのを詰めば済む話なのだ。神様は人として人を轢いてしまった。詫びに転生する、というのは突拍子もない。
「どうした?報告しようにも不明点はあるか?」
「…はい」
「それじゃあ、二つほどに絞ろう。多く聞かれるのは好きだが、それよりも大事な友人の顔が大事だ。プライベートは長い方が良いだろうし、人の子が分からないときはまだ世界を十全に過ごしていないからだろうしな」
「二つ…」
「あくまでも目安だ。あれこれ聞くよりは少し整理されるだろう」
だが、今考えている話を信じてくれるかは分からない……ただ別の質問がないわけではない。
「神様は、自分を崇めている人をどう思いますか?」
「崇める?」
「ここに来た時、俺は貴方の信仰が強いことを知りました。
しかし、あなたの言動を見ている限り……自分の仰っていることと、今の状態は食い違っているように聞こえます」
「前提として、私を至上として首を垂れる人間は好かないな」
「では、見捨てても良いと?」
「見捨てる、とは?もう人の子はそういう立場でもないだろう」
「……それは関係ないでしょう、良心として聞いています」
「悪い悪い……だが、人の子と話してなんだが、私の良心として放置することを選んだ」
「何故です?」
「人の子は見たはずだが、あちらでは少人数の淘汰は信仰を背景にしている
……それに、無暗に手を出すわけにはいかない。君には分かるだろう」
それは、分からなくもない。
神が言うように、絶対的な権力があればどんな弱者も立ち直り、そして力を見誤る。それまでの強者は慄いて、それまで与えられた加害がそれ以上に被ることだってある。
「勧善懲悪というものがあるが、あれは私という力があるから言えることだ。私が、それに断じる場であってはならない。私は力だ、人に光を与え、他の稲穂を焼き尽くす火と変わりはない。力が、人として生きることはあってはならない。
過ぎた力は人を変える、変わらない力は動物のように停滞させる。成長する力を持つ人間に、水を差すようなことはしたくない」
神が言いそうな言葉だが、これは本心だろう。事実余計なことは言いに来たが、立場として使者にもなりえる自分に対して、力を強制的に使うことも命令することもない。
ただこの世界で生きろ、ということは、この現状を中立的に傍観するのだろう。
だが、それでは矛盾が多い。
「つまりこう言えますよね。俺が目の前で、貴方に対して疑問を投げかけることは、慢心ではなく、成長だと」
「構わない」
「正直、貴方の言うことは信じられないです。何故なら、貴方は自由を重んじているが、信仰はその度を過ぎている。今の状況は、貴方の思想に反している」
「結論を先に言うとモテるぞ」
「もう一つの質問ですが……貴方の敵はいますか?」
「人の子にとっての敵とは?」
「考えに反するもの、またそれを逆手に取り利用するもの……具体的に言うなら、あのような支配的な魔法を作り出したのは、貴方ではない」
「……何故そう思った?」
「そのような考えでなければ、貴方の考えることに矛盾がありすぎる」「貴方は……神に違いないですし、その能力を持ってる。だけど、俺に対して力を恵はするけど、今ある魔法は関わろうとしない、自分の思想に反するが人が人であるために自分は現世に関わりを持つことはしたがらない」「それで、回りくどい方法で、俺に回ったのだと」
「……人の子の考えは大いに合っているが、訂正したいところがある。
何度でも言うが、私は人の子に自由な選択を与えたくてしていた」
けれどそれと同等の理由が無い訳では無いだろう。
「俺の質問は以上です」
「そうか、二つだけと言ったのは私か……それじゃあ、人の子、今一度聞きたいことがある」
「何ですか?」
「今の街の状況はどうなっている?」
やっぱり、この人が管理している訳では無いらしい。
だが神様には信頼に足る人間ではない。そうだんまりを決め込むと、いくつか生前について神様が話した──それなら、話すしかない。
「……街ではなく学校になりますが、形態としては普通かと思います。
慈愛の神に加護を受け、不死を約束された。これを基準にすると、慈愛ゆえの共存、同化。こういったことで効果的な行動として食人行為や性行為に及ぶことも少なくはなく、日常的に行われている為、ほぼ日常的として組み込まれています」
共同トイレもそうだが、寮の二人部屋に異性がいることは珍しくないことも、その関連だと思われる。
「……ただ、俺の友人や他の方、他の神を信仰している方は、そうではないと考えています。学校の設備環境として維持費は相当掛かっているように思われますが、学校内はそう困窮している生徒は見られません。
あの魔法……しいては、その神様を信じるにあたって、条件があると考えています。ロメは学園の中でただ一人のレベルゼロ、と言うよりも、彼女は攻撃しても彼らのステータスが変わることがない。異端者の彼女と彼らは確実により多くの違いがあると考えています」
「違い?」
「俺は、神様の信仰は呪いだと思ってて……伝染病のようなものだと思っていました。だけど、ロメはその伝搬もなく……国から逃げようとしていた子もそうは見えない。
もしも貴方以外の他の神様が国全体を覆っていたなら、話は分かります」
神様はなるほど、なるほどなと繰り返し頷く。
今の質問の答えだと、「目の前の人物と対抗する同等の存在がいる」「そして、目の前にいる神を信仰する人間は少数派にある」。これなら辻褄が合う。神様がその対抗向けのスキルに偽造したのも、ロメよりも行きやすくするということだろう。
「……ですが、街やその他の周りは分からないことがあります。街についてや……魔王に着いても。俺のスキルは逃げることは簡単でしょうが、焦りはしないです」
「無論、人の子に何かを頼んだ訳でもない。人の子の思うままに進めて欲しいし、どう生きても構わない……ただ、内部を知れてよかったよ。感謝する。用は終わったから、好きな時にここで寝れば目が覚める」
「……ところで毎日するんですか」
「ああ、私は聞いていてすごく楽しかったぞ」
「まあ、いいや……それなら」
「人の子だって、あの様に夢見が悪い物を見たら折角の転生気分が台無しだ」
夢、なるほど、記憶を除いたりすることも出来るのか。
「夢見が悪くても、あるじゃないですか、忘れてはならないこと」
「あるな、だから記録として誰かが残さなければならない。ただ一人の記憶に留まるほど、ただ一人の命もそう易くはあるまい」
それは記録も言えるのではないか……そう思ったが、反論するのはやめて眠りに着いた。
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ある役員達の休息 ぽちくら@就活中 @potikura
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