JK戦国時代

椎野りた

決意

「別れよう」

この言葉、もう何度目だろう。

今の時代じゃそんな大切な言葉さえ電波に乗って伝えられる。

その度にハンカチじゃ心もとなくて、バスタオルにダイブする。いつだって痛い思いをするのは私の方で。 私から毎回出す別れのサインは、相手から出されたことはない。リア充という枠にハマっていたくて、それに毎回利用される私は、ただの馬鹿なヤツだ。

女子高校生なんて、もっと生ぬるいものだと思っていた。実際入学してみると、思い描いていたJKライフはどこにもない。お昼ご飯を屋上で食べることもなければ、授業をサボって友達と遊んだりも許されず、ただひたすらに檻の中を生きるだけ。その中でも、友達と彼氏だけは私を裏切らなかった。

…彼氏と言ってもすぐ別れるけど。信じてた。俺だけは信じてって言ってたのに。

また今回も大きな存在を失った。JKにとってリア充はある意味ステータスであり、みんなが羨む存在。その枠が欲しいだけで、実際胸が締め付けられるような恋をしてる人なんてほんの一握り。

「あーいい人いないかなー。」

決まって私が言うセリフ。これも何回目?

「また愛華別れたの?最近付き合ったばっかじゃん!」

ゲラゲラと笑いながらも話を聞いてくれる友人がいる。それだけでいいはずなのに、どうしてもその先を求めるのは、

私が弱いから。

「聞いてよーーーー!今回もかなり酷いんだよ!?」

「はいはい。で?どうしたの?」

「なんか、4股されました...」

「はぁ!?なんで!?」

こっちが聞きたい。

毎回彼氏が出来ても、浮気されてるとか、実は好きじゃなかったとかで、別れを切り出すのはいつも私。原因は相手なのに、結局利用されて。好きって怖いもので、相手の嘘はすぐ分かる。好きじゃないなら軽々しく付き合わなければいいのに。

「もうさ、愛華!見返しちゃいなよ元彼のこと。」

「簡単に言うけどさぁ、どうやって...」

「反撃するの。可愛くなるの。あー、逃がした魚は大きかったーって相手に思わせるの。」

「難しそう」

「それで終わりじゃないからね?その後、絶対愛華の歴代クソ男共が寄ってくるから。そしたら突き放すの。もうあなたは用済みよ!ってね!」

不敵な笑みを浮かべた彼女は少しかっこよくも見えた。

どっかの失恋ソングにも確かあった。

いつかアイツが後悔するほど―。


私にだって胸が締め付けられるような恋くらいした事ある。でもそれは私がまだ子供だった頃の話で。 きっと誰にだってある気がする。

無我夢中で追いかけて近付こうとして、その時だけは強くなった様な感覚。頭の中がその人でいっぱいで相手の言葉に一喜一憂して、笑顔を見れただけで幸せになれる。周りの世界はどこか輝いて、春の眠気とか夏の猛暑とか秋の哀愁とか冬の寂しさとか、そんなものまで忘れる。

そして失恋した時は、ぎゅーっと胸を締め付けられるような、そんな恋。

いつの日か忘れてしまった。君がいるから世界が変わる、なんてそんな事も無くなってしまった。

妥協。

大人になるにつれてその言葉が常に頭の中にある様になっていった。

好きって何だ。恋って何だ。愛ってなんだ。

変わろう。

まずはそれからだ。


まず私は、見た目を変えようと思った。脚やせを目指してランニングもしたし、メイクも少し勉強した。

それから部活も勉強も熱中した。1年も経てば自然と元彼の事は何とも思わなくなっていた。もしかしたら、さほどすきではなかったのかもしれない。

少しして隣の高校に気になる人が出来た。部活の練習試合で見つけて、笑っちゃうほどの一目惚れだった。

もうその頃になると、自分に自信もついていて、連絡先を聞き出すくらいのことはたやすかった。

毎日の連絡。返信が来る度に高鳴る胸。ぎゅーっと心が締め付けられる。今、恋してるんだと自分でも分かる、そんな感覚。

でも付き合うことは無いんだろうなと思った。恋愛感情では無く、憧れの好きだと理解出来るくらい心は成長してたから。自分は妥協しているんだと分かったから。

彼氏なんて居なくてもそれでいい。人肌は恋しいけど、それでいい。もう妥協して、期待して、騙されるのは嫌だから。


ある日、見覚えのない連絡が来た。

元彼だった。あの浮気した、最低最悪の糞男だった。

「愛華、俺が悪かった。やり直さないか?やっとお前の大切さに気付いたんだよ。頼む。」

無機質な文字で、信じられないような言葉が並ぶ。何を今更。

私が今までどれだけ泣いたか知ってる?どれだけ不安だったか分かってる?結局浮気して、上手くいかないから私の所に戻ればいい

なんて思ってるでしょ?失礼じゃない!?お前みたいな糞男誰も相手しないから!!!

頭の中でぐちゃぐちゃになった想いが走る。と、同時に少し気持ちが揺らぐ。もしかしたら、次はきちんと愛してくれるんじゃないか。本当は寂しい。誰かに愛されたい。枠にはまって安心したい。口先だけでいい。愛されたい。

そんな弱い自分を隠した。

「もう話しかけないで下さい。私の人生を狂わせないで。」

少し、いつもの私よりも強めに言い放った。


時はJK戦国時代。

嘘、偽り、優しさ、裏切り、愛、全てが絡み合う戦の場。何を信じればいいのか誰を信じればいいのかさえ分からない。別れが見えたまま付き合うことに飽き飽きする。

そんな中にも希望を持って恋する人がいる。好きな人の為に自分を磨き、色々な事に一生懸命になって。凄く素敵なことだと思ってた。 でも期待すればするほど、ダメージが大きくなる事を知った。

私もいつか本当に愛せる素敵な人と巡り会うことを夢見てる。妥協や我慢だけの傷つく恋はやめよう。

欲張りは何もかも失う。1番大切なのは、誰かを信じることでも、彼氏を作る事でもない。自分を支えてくれる人を大切に出来るかどうかだ。


運命は自分で見極めるから。

私の時代はまだ始まったばかり。

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