不思議なデート

不思議なデート[1]

 汐留駅に現れたキリさんを見て、一瞬息を飲んだ。

 男装の麗人。最初に浮かんだのはそんな言葉だった。

 出会った日と違って、キリさんはごく一般的な男性の格好をしていたのだ。


 カーキ色のパーカー。その下に覗く、幾何学模様の白いTシャツ。

 長い脚を包む、黒のスリムジーンズ。

 足元は、少しごつめのスニーカー。

 そんな服装の上に美しい頭部が乗っかっているのだから、混乱するのも無理なかった。

 唇にはベージュ系のリップが美しく引かれ、長い睫毛の生え際をブルーのアイラインが縁取っている。

 実際、行き交う人々がキリさんを振り返ったり、二度見したりしてゆく。

 キリさん。

 声をかけようとしたら、彼がこちらに気づいて嬉しそうに手を振った。

 その頭上に、抜けるような秋空が広がっている。


 浜離宮はまりきゅう恩賜庭園おんしていえんは紅葉の見頃だった。

 かえで、桜、もみじ。それからハゼの木に、いちょう、ドウダンツツジに、けやき。

 すかっと晴れた秋晴れの日で、高層ビルが池にくっきりと映り、絶妙なコントラストを生みだしている。

 わたしとキリさんは、ゆっくりと庭園に歩みをめぐらせた。少しずつ、お互いのことを話しながら。

 美しいキリさんは、美しい景色によく似合った。

 服装が男性でも、キリさんは「美人」だった。


「大丈夫?」

 お伝い橋を渡りながら、キリさんがたずねてきた。

「俺、歩くの早くない?」

「えっ」

 それはいかにも男性らしい気遣いだった。

 こんなきれいなひとに、女の子扱いされている。その事実はわたしにはがゆいような喜びをもたらした。

「だい、大丈夫です。わたし早足なので」

「そう? 逆に遅すぎない?」

「全然、何も。ちょうどいいです」

 実際、キリさんのテンポはちょうどよかった。歩くテンポも、話すテンポも。

「よかった」

 キリさんはにっこり微笑む。

 その声は、やっぱり男のひとのものだった。

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