あなたがわたしを見つけた[2]

 背は170cmの教授と同じくらいだろうか。

 水色のチャイナ服の上限を着ており、その長いスカートには深々とスリットが入っている。

 顎のラインでぱっつりと切りそろえられた髪は、栗色に染められていた。

 丁寧に施された隙のない化粧と、その下から匂い立つような美しさ。

 わたしはその目力の強さに引き寄せられ、目をそらすこともできずにそのひとを見つめた。

 周囲のざわめきも、スピーチしている大学関係者の声も遠ざかり、世界がそのひとと自分だけになったような恍惚こうこつに打たれていた。


 なんてきれいな女のひと――

 しかしその気持ちは、にこやかに声をかけられた瞬間に崩壊した。

「ねえ、もしかしてゼミ生?」

 その声は、紛れもなく男性のものだったから。


 混乱した。

 どこからどう見ても女性にしか見えない。

 けれど、一点だけ――ああ、喉仏があった。

「……はい、岩槻ゼミの」

「やっぱり」

 美しいひとはにっこり微笑んだ。

「俺はね、2年前の卒業生」

 俺。その一人称に打ちのめされそうになりながら、わたしは彼女、いや彼の顔を遠慮がちに見つめた。

「そうなんですね」

「何年生? 3年?」

「いえ、4年です」

「そっかあ、ってことは2つ下かあ。あ、食べてる?」

 ビュッフェの方を指しながら、彼は気遣いを見せる。

「はい、デザートまでしっかり」

「よかった。なんか、知り合いいないと動きづらいよね、こういうのって」

 そのとき、ひときわ大きな拍手が鳴り響いた。

 教授が登壇し、感謝のスピーチを始めるところだった。


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